第420話 魔族勇者襲撃3

Side:温泉拠点 東南部


 オスカルバレー部女子アンドレバスケ部女子紗希サッカー女子、さちぽよの4人が各眷属たちと向かった東門――便宜上そう呼ぶが、実際は東南の門が無い部分だ――の外塀は既に突破されていた。


 敵の2人が水堀に落ち、2人は水堀から這い出て、もう既に内塀に取り着いていた。


「見て、あの鎧!」


「あれは、勇者専用鎧!」


「ということは後輩勇者なの?」


 オスカルバレー部女子アンドレバスケ部女子紗希サッカー女子、さちぽよの4人に動揺が走る。

後輩勇者ならば、充分な育成をする前に投入されたことになり、洗脳さえ解ければ戦う理由がないと戦うことを躊躇ったのだ。


「後輩勇者ならばやりにくいなぁ」


「洗脳さえ解ければ、戦う理由がないもんな」


「でも、洗脳魔法の使い手出払ってね?」


「闇魔法は薔薇咲メグ先生が持ってないか?」


「そうだった。ならば捕まえて連れて行こうか」


 ベルばらコンビが、後輩勇者ならば洗脳を解けば良いのではないかと、議論を展開する。

彼女たちは、敵が後輩勇者だということで攻撃を躊躇って、殺すという選択肢を捨ててしまっていた。


「じゃあ、さちが内塀を越えるやつをーゾクゾクの糸で捕まえよーか?」


「賛成! 僕はギンシルバーウルフと水堀の敵が上がって来ないように牽制するよ」


 そして、さちぽよが眷属ゾクゾクのクモ糸での捕縛を提案する。

それに紗希も同調し、役割分担が決まって行く。

なし崩し的に迎撃作戦が捕縛作戦へと変化してしまっていた。


「じゃあ、アンドレも水堀から上がる後輩勇者の足止めね。

私はにゃん吉ワイルドキャットと突破して来たやつを捕まえる」


「水堀のやつならば、この中の眷属で唯一飛べるきららキラービーが適任だからな。

水堀のやつの頭を押さえてやるよ」


 オスカルの指示で更なる担当分けが決まった。

水堀の後輩勇者にアンドレと紗希、内塀を越えつつある後輩勇者にオスカルとさちぽよだ。

ここで4人は内塀を越えて来る後輩勇者たちを、育成前の素人と完全に嘗めてしまっていた。

まさか魔族化で促成強化されているとは知らないのだから仕方がない。


「ゾクゾク、粘着糸で捕まえちゃえー!」


 さとぽよの指示で後輩勇者2人が越えようとしている内塀に粘着糸の罠が設置される。

だが、後輩勇者は、それを身体能力だけで難なく避けてしまう。


「え? 突破されちゃったよ!?

行ったよー! オスカル!」


 内塀を越えた後輩勇者2人は、さちぽよとゾクゾクをスルーし屋敷へと向かう。

その前にオスカルと眷属のにゃん吉が立ち塞がる。

きららキラービーに指示を出し終わったアンドレも慌てて敵の背を追う。

さちぽよは追撃をアンドレに任せ、引き続き内塀を上がって来ようとする残りの後輩勇者にゾクゾクの粘着糸攻撃を仕掛けることにする。


「行かせるか!」


 思った以上の身体能力を発揮する後輩勇者に戸惑いつつも、オスカルとにゃん吉ワイルドキャットが2人の後輩勇者の前に立ち塞がる。

だが、後輩勇者はサッカーのフェイントのような動きを見せると簡単にオスカルとにゃん吉ワイルドキャットを抜いた。


「なにっ! 速い!」


 思わず棒立ちで見送ってしまったオスカルと、猫パンチをスルーされてしまったにゃん吉ワイルドキャットが慌てて彼らの後を追う。

だが、そのスピードに追いつくことが出来ない。

そこにアンドレが合流する。さすがバスケ部、足が速い。


「なんだこいつら?」


「これで育成途中だと?」


 その時、初めてオスカルとアンドレは後輩勇者の異常さに気付いた。

オスカルたちは仮にも運動部であり、レベル上げで身体能力も上がっている。

それなのに、この世界に来たての後輩勇者が身体能力で自分たちを凌駕しているのだ。


「このままだと、さちぽよとサッカーちゃん紗希も抜かれる?!」


 さちぽよとサッカーちゃん紗希の2人で、この後輩勇者2人は抑えられそうもない。

せいぜい1人が限界だろう。

ならば、戻って手を貸すべきではないか。

追いつけないならば、このまま屋敷の結衣たちに任せて戻るべきかと、オスカルは悩む。

屋敷は人数的にも一番多く、守りも固い。


「ここで1人は防ぐ!」


 結衣たちは生産職なのだ。

この後輩勇者を2人も相手にするのは危険だ。

せめて1人だけでも自分たちで防ぐ。

そうオスカルは決意した。


ガキン!


 その時、南門の方角から1人の男が飛び出して来た。

その男が後輩勇者1人の足を止める。

その男こそ。


「パツキン!」


 それは異世界転移をして時間が経っても、なぜかその金髪を維持しているパツキンだった。


「気をつけろ! こいつら魔族化しているぞ!

躊躇っていたら死人が出るぞ!」


 パツキンは後輩勇者が魔族化していることを知らせに東門へと向かって来ていたのだ。

そのパツキンでも後輩勇者に押し負けている。


「なんて膂力。

アンドレ、パツキンの援護を!」


「オスカルは!?」


「もう1人を追う!

魔族化してるならば、三つ編みちゃん結衣たちじゃ太刀打ち出来ない!」


 オスカルは魔族勇者の追撃にうつった。


「あっ! ゾクゾク!」


 魔族勇者の1人が内塀を突破し、ゾクゾクに肉薄して刃を振るった。

その一撃がゾクゾクの左脚2本を切り飛ばす。


「このっ!」


 さちぽよが剣で迎撃するも、その剣は軽くいなされてしまう。

これでもさちぽよの剣技はアーケランドの騎士に手解きを受けている。

さちぽよの剣は並大抵の技量ではなく、女子の中ではトップクラスなのだ。

それが簡単に躱されていた。


「おかしいっしょ!」


 魔族勇者がさちぽよの剣を避けた体勢のまま急加速して走り出す。

その速度は、紗希の眷属であるシルバーウルフのギンよりも速かった。

魔族勇者はさちぽよと紗希を突破すると易々と屋敷へと向かった。

まるで何かの目的のためにいているかのように。


 そして、青Tが対峙していた魔族勇者も、とうとう青Tを突破していた。

いま結衣たちのいる屋敷には3人の魔族勇者が向かっていた。

その後を追うのはオスカルと青Tの2人だけだった。


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お知らせ

 5月14日、魔族勇者の強さを際立たせるための加筆をしました。

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