第419話 魔族勇者襲撃2

Side:温泉拠点 時は魔族勇者の襲撃開始時まで戻る。(ここから3人称)


「やはり、ここの食事は美味いのう」


「ここに来て良かったですね先生」


 シモーヌ喜多川が和食定食を食べながら涙を流す。

ここはヒロキたちが温泉拠点と呼ぶ、温泉露天風呂の近くに建つ屋敷のダイニングだ。

薔薇咲メグ先生と、アシスタントで先代勇者のシモーヌ喜多川、現地人お手伝いさんからアシスタントになったミレーヌは、朝昼晩3食をここでお世話になっているのだ。


「先生、お代わりありますからどうぞ」


 料理担当の結衣がダイニングに集まった同級生たちの食事の世話をしつつ、薔薇咲メグ先生にお代わりを促した。

そんな光景が日常となっていた。


「おお、いつもすまんのう。

ならば、海鮮丼をもう1杯もらおうか」


 『敵襲! 敵襲! 敵襲!』


 そんな日常をぶち壊す声が温泉拠点に鳴り響いた。

その声は拡声魔法によって温泉拠点全域まで聞こえるものだった。

温泉拠点は、敵襲に備え戦闘奴隷たちに見張りをさせているのだ。

戦闘奴隷たちは、二重塀の外塀の上から、三交代で敵襲を見張っていた。


「ゴブリン隊とGK配下の監視網を突破されたの?!」


 魔の森への侵入は、ゴブリン隊とGK配下が監視していた。

その内容は支配者のキラトとGKに伝わり、そこから念話でコンコンへと齎されるのだ。


「コンコン、何も連絡なかったの?」


 コンコンは残念キツネと呼ばれてしまうぐらいに、抜けているところがある。

連絡をうっかり伝え忘れたという疑念を持たれても仕方がなかった。


「えー、無かったよー」


 コンコンが涙目で無実を訴える。

ということは異常事態なのだと、誰もが認識した。


「【探知】!

南門と東門の外から攻撃されてる。

敵は南門に6、東門の南寄りに4で10人いるよ」


 異常事態だと判断した瞳美メガネ女子が、【探知】で敵の位置を把握する。


「全員がバラバラに行動している。

え? もう外塀を越えた?

7カ所突破された!」


 しかもバラバラに違う場所を攻撃して来ていた。

そうなると防衛箇所が10カ所に増えてしまい、戦力を分散せざるを得ない。

そして既に7カ所で外塀が突破されていた。


「地獄の蓋を開けろ!」


 警備主任のオスカルバレー部女子が魔導具にキーワードを叫ぶ。

これにより、外塀と内塀の間の地面にある蓋が壊れ、落とし穴となるのだ。

その下には空堀があり、落ちればそうそう這い上がることは出来ない。

恥ずかしいキーワードになっているのは、日常会話で出て来ないワードにして、誤作動を防止するためだ。


「濁流よ飲み込め!」


 さらに空堀に注水がされた。

鎧を身に纏った敵に対しては、水に沈むので水攻めは効果的なのだ。


「行くよ! 青Tとパツキンも出て!」


 幸い、警備担当の運動部トリオとさちぽよ以外も、ダイニングで食事を摂っているところだった。

敵の攻撃カ所の数と、その迅速な行動に、警備担当だけでは対処不能と判断し青Tとパツキンの出動も要請したのだ。


「不二子さんもお願い!

コンコンは屋敷で待機」


 オスカルことバレー部女子の指示が飛ぶ。


「敵がバラけているから3・4で対応するよ。

不二子ちゃんは3人を相手に出来る?」


「任せて」


「じゃあ青Tとパツキンは不二子ちゃんと南門に行って。

オスカルとアンドレ、サッカーちゃんとさちぽよは東門に行くよ」


「じゃあ、私たちは屋敷前に救護所を設置するね」


「我らも救護を手伝おう。

飯の礼じゃ」


 マドンナが救護所を設置し、薔薇咲メグ先生も協力を申し出た。

そこまでは、温泉拠点襲撃があった場合の、ちょっと悪い状況に対するマニュアル的な対応だった。


 ◇


 一番早く現場に到着したのは不二子さんだった。


「あれね、外塀を攻撃をしているのは魔法職のようね。

身体能力的に外塀を越えるのは難儀しているようだわ」


 不二子さんは、その飛んでくる魔法をカウンター属性の魔法で迎撃し始めた。

相手にしているのは3人、その魔法を1人で悉く迎撃していた。


「戦闘奴隷たちは、戦わずに避難しなさい!

負傷者に手を貸して救護所へ向かうのよ」


 戦闘奴隷の役割は見張りだ。

敵を見つけ敵襲を警告したら、その役目はほぼ終わりだ。

危険な相手からは逃げても良いと伝えられていた。

だが、戦闘奴隷たちは、病気や部位欠損などを治してもらった恩義を感じて戦ってしまうのだ。

おかげで3人の敵を足止め出来ていたのだろう。

それを不二子さんは明確に逃げるように命じた。


「死人が出てなければ良いわね。

あの子はそれが耐えられないのだから」


 二重塀の間の蓋が壊れ、水堀となっていた。

そこには3人の鎧姿が落ちていた。

その中の1人が仲間の鎧を足蹴にして強引にジャンプした。


「まずい!」


 不二子さんは3人の敵に対応するのに精一杯で、その1人に突破を許してしまう。


「「待たせた!」」


 そこに青Tとパツキンが現れる。

時間がなくて鎧を身に着けてなく、各々の得意武器を持っているだけだった。


「抜かれたわ!

こっちは良いから、追ってちょうだい!」


「あいつか!」

「任せろ!」


 青Tとパツキンは、外塀と内塀を繋ぐ通路を慌てて戻って行く。


「くそっ、速いぞ! 青T追えるか?」

「見たかパツキン! あの鎧、どやら後輩勇者のようだぞ」


 青Tが敵の鎧が勇者専用鎧だと気付く。


「ならば、まだ育成途中だろ。俺たちの敵じゃない」


 だが、その鎧姿の能力は育成途中にしては異常だった。


「バカな、私の槍の連撃を躱すだと!」


 青Tは自らの槍を繰り出す速度には自信があった。

召喚勇者として槍技では右に出るものがいないと自負していた。

それが躱されたのだ。

つまり、その身体能力は育成済みの召喚勇者を凌駕しているということだった。


「おっと、そっちには行かせないぜ」


 パツキンの剣が敵の冑に当たり飛ばす。

2人がかりでも、致命傷を与えられていない。

パツキン必殺の一撃を寸でで躱されたのだ。


「なんだこいつ!」


 だが、その攻撃により、鎧姿の中身が白日の下に晒され判明する。


「なんで魔族が勇者になっている!?」


 その顔は紫がかった黒い肌に赤い目をしていた。

それは魔族の特徴だった。

だが、パツキンはその意味を正確には理解していなかった。

パツキンの認識では、魔族を勇者召喚したのかと疑うに留まったのだ。


「アレックスめ! やりやがったな!」


 青Tは愛するハルルンの悲劇で魔族化の恐ろしさを知っていた。

それをアレックスが新たな召喚勇者に人為的に施したと気付いたのだ。


「こうなってしまったら、助ける道はない。

おそらく、今襲ってきている全ての敵が魔族化されているぞ!」


 その青Tの言葉に、やっとパツキンも事態を理解した。


「くそっ! どうする」


「ここは私1人で抑える。

パツキンはオスカルバレー部女子たちに魔族化のことを伝えるのだ。

向こうにも4人来ているのだ。

このままだと向こうが突破されるぞ!」


「わかった。死ぬなよ!」


 パツキンが東門へと警告に向かう。

彼女たちは、パツキンたちのように戦闘特化で育成されていない。

最初はジョブも持っていなかったために、しばらくステータスに職業補正の恩恵が無かったのだ。

魔物やアーケランド軍の騎士には対応できるが、育成済みの勇者や魔族には劣るという認識だった。


「間に合ってくれよ」


 たった10人の襲撃だったが、それが危機的な状況だと青Tとパツキンは認識していた。


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お知らせ

 5月14日、魔族勇者の強さを際立たせるための加筆をしました。

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