第421話 魔族勇者襲撃4

Side:温泉拠点 屋敷


 南門では不二子さんが3人の魔族勇者を抑え、水堀には2人の重装鎧の魔族勇者が足止めされていた。

1人の魔族勇者を抑えていた青Tだが、それも突破されてしまい、青Tは屋敷へと魔族勇者を追いかけていた。


 東門――東南部――では、さちぽよと紗希サッカー部女子+眷属が、パツキンとアンドレバスケ部女子が各1人の魔族勇者と戦っていた。

そして、それら迎撃班を突破した2人の魔族勇者が屋敷へと迫っていた。

その後をオスカルバレー部女子+眷属が追う。


 ◇


 屋敷にいる救護班とその護衛は、結衣+水トカゲ2+ラキ、瞳美+チョコシルバーウルフ、麗+チクチクアースタイガー裁縫女子ヌイヌイアースタイガー、そしてコンコン、薔薇咲メグ先生、シモーヌ喜多川さん、パン屋さん1~5号だった。

アシスタントのミレーヌさんと青Tの恋人ハルルンはメイドさんたちと共に屋敷の中だ。


 それはマニュアル的ないつもの救護所だった。

そこに青Tと刃を交えつつ魔族勇者がやって来る。


「気を付けろ! こいつは魔族化されている。

おそらく、侵攻して来たやつらは、全てこの魔族勇者だ。

やつらは全員勇者の専用鎧を身に着けているが、中身は魔族だ!

油断すると死ぬぞ!」


 青Tの必至な様子と警告に、結衣たちの顔色が変わる。

今のこの場の状況は、天幕を張っただけの露天救護所だった。

パン屋さんたちが壁となってくれているが、パン屋さんたちは根を地面に張っていて動けない。

パン屋さんは触手で迎撃をするのだが、素早い敵からの護りとしてはそんなに期待出来るものではなかった。

このまま屋敷に立てこもった方がマシかもしれない。


「チクチクとヌイヌイで、パン屋さんの間に粘着糸の壁を構築して!

それと玄関前にバリケードを作るよ」


 結衣の指示が飛び、青Tが抑えてくれている間に防衛体制を整える。

見る見るうちに粘着糸の壁が出来上がって行く。

屋敷前には結衣と麗がアイテムボックスを利用して家具を運び出しバリケードを構築する。


「正面はラキちゃんに任せるよ。

皆も眷属たちを護衛に付けて」


 チクチク、ヌイヌイ、チョコシルバーウルフがご主人たちの脇を固める。


「コンコン、魔法攻撃頼むよ」


「がってんだ!」


「先生は攻撃魔法は?」


「生産スキルにほとんど切り替えてしまったからのう。

闇魔法と火魔法程度かの」


「火魔法での牽制、お願いします」


「承知した。

シモーヌ、お主も少しは風魔法を使えたな?」


「微力ながらお手伝いします」


 即席だが、結衣たちの防御態勢が整う。

相手が1人だけで青Tと連携すれば、なんとか持ちこたえられそうだった。


ドガーーーン


 その時、爆音と共にパン屋さん5号が吹っ飛んだ。

パン屋さんはあれでも上位の魔物だ。

一撃で吹き飛ぶような軟弱な防御力ではない。

どれだけ敵の攻撃力が高かったのだろうか。


「パン屋さんが!」


 その煙の中から鎧姿が現れる。

それは東南方向からやって来たオスカルが追っていた魔族勇者だった。


ドーーーーン!


 続けてパン屋さん3号も吹っ飛ぶ。

それはオスカルが追っていた魔族勇者ではなく、完全にスルーされていた東南からのもう1人の魔族勇者だった。


 オスカルが、パン屋さん5号を吹っ飛ばした魔族勇者の腰にタックルをして倒す。


みづげみつけた。ぜいじょ聖女

攻撃をがいじず開始する」


 完全にノーマークの魔族勇者が不気味な声を上げる。

どうやら、ターゲットはマドンナだったようだ。

それは麗だけを狙うつもりだったのか、それとも麗の周囲に召喚勇者が集まるという狙いだったのかは判らなかった。

だが、麗という回復役の切り札を、拠点の中心に置くだろうという予測は確かに成り立つ。

魔族勇者は、そこを狙うことで一網打尽に出来るという指示を受けていたのかもしれない。

それだけ魔族勇者の知能が低く、単純命令しか聞けなかったということなのだろう。


「気持ち悪い!」


「闇魔法、黒薔薇縛り!」


 薔薇咲メグ先生が、パン屋さん3号を吹っ飛ばした魔族勇者に闇魔法を使う。

すると魔族勇者の足元から黒い薔薇の蔓が伸びて来て、魔族勇者を拘束した。

これは闇魔法の中でも上位に位置する拘束魔法だった。

MPを大量消費し、薔薇咲メグ先生でも長期の維持は無理だった。


「MPがない。長くはもたんぞ!」


 先生は、生産魔法で薄い本を量産したばかりでMPが少なかった。

そこに燃費の悪い拘束魔法を使ったのだ。

時間が経つほどにMPが減って行く。

そんな上位魔法を使わせるほど、魔族勇者の能力は尋常ではなかった。


「ラキ、ブレスよ! 頭をねらって!」


 ラキがブレスを吐き、それが魔族勇者に直撃する。

その魔族勇者は上半身を吹き飛ばされて息絶えた。

竜種のブレスだからこその威力で、他の攻撃が効いていたかは怪しかった。


『見つけた! 全員各個撃破に移れ!

その場の敵を排除後、屋敷に集合だ!』


 そう言うと青Tと対峙していた魔族勇者が屋敷から距離をとり始めた。


「あれが指揮官?

さっき倒したやつより頭が良さそう」


「各個撃破って言ったよね?

だったら、複数で相手してやれば良いよ。

バレーちゃんオスカル、青Tの援護に向かって」


「でも、こいつが……」


 オスカルは、魔族勇者と取っ組み合いとなっている最中だった。

だが、明らかに劣勢だった。

それを見かねての青T援護の要請だった。

このまま1対1ならば、オスカルが危ないと誰もが思っていたのだ。


「大丈夫、1人だけなら先生もラキもいるからなんとかする。

それより、迎撃班が孤立しないようにしてあげて」


 今まではなぜか屋敷を目指していた魔族勇者が、先程の拡声魔法の指示で個人攻撃に転じていた。

今までの不自然な行動は、あまり知能が高くない魔族勇者に単純な目標を与えるしかなかったことが原因なのかもしれない。

例えば、拠点の勇者を倒せと命じた場合、集団に突っ込んで行って犬死にということも有り得る。

個々に屋敷を狙わせて引き付ける事により、同級生たちをバラけさせるのが目的だったのだ。

それとマドンナが狙われている。

それは間違えようが無かった。


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お知らせ

 5月14日、魔族勇者の強さを際立たせるための加筆をしました。

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