第417話 策謀(裏)

Side:アレックス


 バーリスモンド侯爵支援に向かわせた魔族化した勇者が、返り討ちに合って帰って来たのは、まあまだ良い。

皇国軍相手だけならまだしも、魔王化しているやつ新参魔王が攻め込んでいたのだからな。

やつ新参魔王とその配下相手では、魔族化勇者であっても遅滞戦闘ぐらいにしか役に立たなかったことだろう。


 やつ新参魔王がオールドリッチ伯爵領に居ると思っていたのが間違いだった。

セシリア王女を誘拐したのはやつ新参魔王だ。

セシリア王女が立ち上げた正統アーケランドの後ろにはやつ新参魔王がいるはずだった。


 まさかやつ新参魔王らが皇国と手を組むとは思ってもいなかった。

アーケランドと皇国の因縁を思えば、皇国はセシリア王女と敵対すれど共闘するはずがなかったのだ。

どのような手を使ったかは判らないが、それが為されたということだった。

やつ新参魔王が上手く魔王だということを隠したとしても、それでもその因縁の関係は越えられないと思っていた。

皇国と魔王はアーケランドとの因縁以上に相容れない存在だ。

やつ新参魔王が魔王だと皇国に伝えることで、皇国を離反させられるかもしれないな。


 私は皇国相手だと思ったからこそ、バーリスモンド侯爵領に魔族化勇者を3人しか派遣しなかった。

だがやつ新参魔王と、その配下がそこにいた。

空からピンポイントでバーリスモンド侯爵の首を狙って来るなど、この世界では想定外の作戦もとられた。

魔族化勇者3人だけでは、やつ新参魔王相手は厳しかったのだ。

私の判断ミスが敗因だったことは間違いない。

魔族化勇者が負けを悟って即時撤退し、貴重な情報を齎したことは評価しても良い。

報連相が徹底しているのは、部活教育の賜物だろうか?

良く訓練された駒だ。


 だが、あいつの知能はどうなっている?

なぜ勇者鎧の冑をフルフェイスにしたと思っているのだ?

それは魔族化している顔を衆人の目に晒さないためだ。

なのに、壊れた冑のまま顔も隠さずに戻って来るとは、いったいどういう了見だ?

おかげで私が魔王だとのセシリア王女派の言い分を補強することになってしまった。

なんとかしなければならない。


 そうだ、勇者30人全員・・を衆人の目に晒せば良いのだ。

ここに勇者は全員いる。

あの魔族化勇者はセシリア王女派が送り込んで来た偽者だと主張すれば良い。

あれが本物の勇者の鎧だとは見た目だけでは確かめようがない。

だが、本物・・の勇者30人の前では、それ以外は偽者にすぎなくなるのだ。


「近衛騎士20人を特別勇者に任ずる。

勇者としての任に付けることを光栄に思うように」


「「「「「有難き幸せ!」」」」」


 これで勇者の穴埋めは済んだ。

さて、やつ新参魔王をどうしてくれようか。


 やつ新参魔王には転移魔法を使うクロエが従っていた。

クロエの能力は限定的だ。

最大人数はレベルの数値と同じで、距離も長くはない。

そして1度転移するとクールタイムが発生し、連続転移が出来ない。


「これを利用すれば、やつ新参魔王の拠点を落せるな」


 やつ新参魔王の拠点には、既に2人の魔族化勇者を送り込んでいる。

いや、更に増員して壊滅させてやろう。

幸い次の10人は8人が生き残った。

どうやら、実力が高い方が魔族化に耐えられるようだ。

合計10人でやつ新参魔王の拠点を叩いてやろう。


 だが、そのためには時間がいる。

増援がやつ新参魔王の拠点まで移動する時間もいる。

やつ新参魔王も転移が使えるようだが、それはクロエと同様の制限があるだろう。

アーケランド護りの要、要塞都市グラジエフまで引き込み、やつ新参魔王が拠点まで直ぐに戻れないようにしてやろう。


 仲間が死んだ拠点に戻ったやつ新参魔王の絶望の姿を想像すると愉快でたまらない。

そんな絶望の中、やつ新参魔王が要塞都市グラジエフから居なくなった所で、やつが魔王だと皇国に教えてやるのだ。

やつ新参魔王がまだオトコスキーを使っていれば、その証明は容易だ。

皇国軍が退けば、セシリア王女派を潰すなど雑作も無い。


 魔族化勇者を見てしまった貴族どもには反乱軍として死んでもらおう。

やつらにはセシリア王女派に寝返ってもらわなければな。


 ◇


 やつ新参魔王らを要塞都市グラジエフまで引き込む事に成功した。

罠とも知らず、ノコノコとやって来たものだ。

やつらの陣営にはオトコスキーが見える。

これで皇国の離反も確定だ。


『残念だったな。貴様らの小細工など、最早通用しない!

魔族に勇者の鎧を着せて騙せるのも、ここで終わりだ!』


 勇者筆頭の高校球児が拡声魔法で声を張り上げる。

こいつは洗脳し、そのまま育成することに決めた。

魔族化していない表の役目というものも存在するのだ。


『魔族を使い、アーケランド王家を貶めようとした罪、万死に値する。

偽王女を要し、正統アーケランドを騙り、皇国軍を引き入れるなど、売国に等しい。

ここで貴様らを返り討ちにしてくれるわ!』


 これでアーケランド正規軍30万は疑うことなくセシリア王女派を殲滅するだろう。

あとは皇国にやつ新参魔王が魔王だと知らせてやるだけだ。


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この作品はフィクションであり、登場する国家組織団体等は実在するものではありません。

偶然一致する私立高なんて無いと思うけどあえて書かせていただきました。

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