第413話 タルコット侯爵1
魔族勇者の遺体の存在は、ボーデン伯爵が属する派閥――タルコット侯爵派の間に瞬く間に広がった。
といっても、伝書鳩と同じシステムを利用したクックル便という手紙配送システムによっての伝達なため、その情報は俄かには信じてもらえなかった。
この世界、写真なんてものは存在しない。
魔族勇者を見るだけで決定的な証拠になるのに、それを遠隔地に居る者に見せることが出来ないのだ。
ボーデン伯爵からの手紙であるということの証明は出来ても、内容が内容なため、真実であるかの判断は皆懐疑的だったのだ。
だが、その重大性は理解されており、その判断は派閥の長であるタルコット侯爵に委ねられることとなった。
そのため、俺たち正統アーケランド関係者は、ボーデン伯爵が属する派閥の長である、タルコット侯爵に直接会いに行って説得しなければならなかった。
タルコット侯爵領は、
北部のバーリスモンド侯爵が北の皇国に備え、北西部のオールドリッチ伯爵が北の皇国と西のエール王国を警戒し、そして南西部のタルコット侯爵が、南の農業国との国境を守っているのだ。
ちなみに、
魔の森の存在は、各国にとって天然の防壁となっているのだ。
「アーケランドの南部まで行くんなら、王都に乗り込んでアレックスを叩いた方が早えーだろ」
赤Tが危惧するのは、その移動距離と移動時間だった。
この世界、馬車移動などしていたら、国の北から南まで行くのに1か月かかるなどざらなのだ。
俺たちには飛竜や虫移動、
飛竜や虫移動と眷属召喚を利用した転移は、10人以下しか移動出来ない。
しかも飛竜や虫移動は移動時間が実時間必要で、転移はどちらも行った事のある場所か直接目視した場所以外には移動出来ない。
赤Tの見解は、短絡的だが、ある意味的を得ている。
「かと言って、守りを固めた今の王都を、少人数で叩くのは無理があるぞ」
リュウヤが赤Tを諫めるように言う。
俺たちが召喚の儀に乗り込んだせいで、アーケランド王都の警戒は数段階上がっているはずなのだ。
国軍による周辺警戒、新たな召喚の儀による魔族勇者の存在、明らかに王都は攻めにくくなっていた。
「そこは国軍を寝返らせて警戒に穴を開けるか、皇国の兵数をあてにするしかない。
だからこそ、タルコット侯爵派は取り込んでおきたい」
結局、そこに行きつくのだ。
だが、俺たちが
今はなるべく避けたいところだ。
「タルコット侯爵が、もっと近くに居れば良いのでござるが」
腐ーちゃんの何気ない一言は目から鱗だった。
「そうか、タルコット侯爵がいま領地に居るとは限らないのか!」
上位貴族は何かと忙しく、自領と王都を往復していることが多々ある。
さらに寄子との関係強化のために、その領地に出向くなどということもあるのだ。
俺は早速、タルコット侯爵の所在を確認することにした。
「ボーデン伯爵、魔族勇者を直接タルコット侯爵に見せたい。
いま、侯爵はどこにいるか判るか?」
「たしかポロック子爵家の結婚式に出席なさっている頃かと。
私も皇国軍のことが無ければ出席するはずだったのですがね」
ボーデン伯爵が残念そうに言う。
他派閥とはいえ、国からバーリスモンド侯爵への兵站を任されたからには、結婚式など参加できる状況では無かったのだ。
だが、そのポロック子爵領の位置によっては、散々悩んだ懸念材料を払拭出来るのだ。
期待せずにはいられない。
「それは何処だ?」
「我が領の2つ隣になります」
なんという僥倖。変に悩む必要が一気に無くなった。
「今直ぐ会いに行くぞ!
ボーデン伯爵も同行してくれ!」
「うーん、どうでしょう?
タルコット侯爵もお忙しい方なので、今から行っても間に合うかどうか……」
ここでも情報伝達と移動時間の制限が影響する。
のこのこ馬車で行ったのでは、既にタルコット侯爵が帰った後などということになってしまう。
クックル便で待ってもらうように伝えても同じだ。
手紙が届くのにもクックルが移動する時間はかかってしまうのだ。
だが、俺たちには
飛竜に3人、虫移動で4人で確実なのは7人か。
あまりお勧めできないが、翼竜6匹が足で掴んで6人、サンダーイーグルも動員すればもう1人いけるか。
ぶら下げられた状態で飛んでも我慢出来ればだが……。
まあ、転移が出来なかった時に考えれば良いか。
「
「あるよーん。国境砦まで行く時の中継地だったもん」
「転移回数は?」
「1回で行けるよー」
悩んでいたのがバカらしい。
「よし、正統アーケランド関係者全員と皇国からは……」
「それがしが参ろう」
「じゃあ、皇国からはサダヒサと同行者含めて10人以内、ボーデン伯爵は護衛含めて10人ほどでお願いします」
正統アーケランド関係者は、俺、セシリア、腐ーちゃん、陽菜、リュウヤ、赤Tの6人だ。
キラトたちは眷属召喚で後でも呼び寄せられるから置いて行く。
せっかく魔族勇者という説得材料があるのに、キラトやオトコスキーを連れて行って誤解されても面倒だからというのもちょっとある。
サダヒサ、ボーデン伯爵も準備が整った。
「陽菜、たのむ」
「おっけー。行くよ」
陽菜の合図で俺たちを魔法陣が包む。
それが足元からせり上がって来て目の前を通過すると、俺たちの視界は別の場所になっていた。
俺たちの前にはポロック子爵領の領都の城壁が見える。
「まさしくポロック子爵領!」
ボーデン伯爵が驚きの声を上げる。
転移は機密事項で
「ボーデン伯爵、先導を頼む」
「そうでありましたな」
城門通過で面倒なことになるのは、お約束だからな。
ここはボーデン伯爵に任せるのが妥当だろう。
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