第412話 ボーデン伯爵
アレックスが新たに召喚した勇者たちが30人だとして、魔族化成功率が100%だとは思えない。
促成で戦力化した弊害で、既に何人かを失っていることだろう。
その全員が一気に攻めて来たとして、俺、リュウヤ、赤T、サダヒサ、キラト、オトコスキー、ニュー、カミーユ、
不二子さんも呼びたいところだが、温泉拠点の守りに必要な広範囲魔法戦力のため、あえて呼ばないことにした。
それは、アレックス側が戦力を分散させて攻撃して来た場合、俺たちが二正面戦を余儀なくされる可能性があるからだ。
例えば、召喚勇者が30人で魔族化に100%成功していたとして、2人倒しているので残りは28人。
その半数が同時に2カ所を攻撃して来たらこちらに来る魔族勇者は14人。
温泉拠点にも14人だとすると、青T、パツキン、さちぽよ、運動部3人組とコンコン、ラキ、GK、食人植物たちだけだと心もとない。
そこに不二子さんが加わってくれれば、それなりの時間持ちこたえられるだろう。
その間に陽菜の転移能力で援軍を送ることが出来るはずだ。
いざとなればT-REXやモドキンの出動も在り得る。
まあ、この14人という見積もりが、10人程度まで下がっているはずだとは思うが、相手を舐めてかかって取り返しがつかないことになってはならない。
そもそも召喚人数の30人が誤りで、50人召喚されていたら、こんな予測は簡単に覆ってしまう。
そして、次の召喚の儀が行なえるのが半年後。
それを許すと、俺たちは更なる戦力差を生んでしまうことになる。
なので、早急に王城を攻め落としたいところなのだが、そう上手くは行かなかった。
更なる戦力増強と行きたいところなのだが、ここ数日【たまごショップ】には、まともな入荷がなくなっていた。
『魚の卵、毒があるけど美味しいやつ 2千G』
『貝の卵、干しや生で間違いなく美味いやつ 1千G』
『獣の卵、モー高給な肉が美味しいやつ 3千G』
『鳥の卵、黒くてブランドなやつ 1千G』
『甲殻類の卵、お節料理の真ん中に入ってるやつ 2千G』
「なんで、ここで食材系ばっかりなんだよ!
しかも、『かもしれない』ではなくて確定じゃないか!
これって、フグ、アワビ、和牛、烏骨鶏、伊勢海老だろ!」
まあ、結衣から食材系は無条件で許可って言われているから、課金しちゃうんだけどね。
◇
そんなモヤモヤした状態で数日が経った頃、次の侵攻先であるボーデン伯爵側と接触することが出来た。
会談には俺とセシリア、護衛にリュウヤ、未届け人にサダヒサが参加していた。
ボーデン伯爵側は、伯爵本人と、元バーリスモンド侯爵軍のロイド将軍、そして護衛の騎士が参加した。
ボーデン伯爵領は、バーリスモンド侯爵領の南隣にある。
アーケランドの仮想敵国である皇国の侵攻を止めるべく、第二の防衛戦を張る領地となる。
「ロイド将軍、いや、ロイド元将軍から話は聞いております。
勇者アレックスが魔王で、セシリア王女が打倒を宣言なされたとか。
我が伯爵領は、正統アーケランド王国に参じましょう」
自己紹介もなしに、ボーデン伯爵がセシリア王女に臣下の礼をとった。
ロイド将軍とは、バーリスモンド侯爵軍の総司令官だった人物だ。
民のために降伏を訴えたが、侯爵に聞き入れてもらえず、罷免されていたのだそうだ。
その人物がボーデン伯爵領に辿り着き、現状を伝えてくれていたのだ。
「父王も洗脳され、アレックスに操られているのです。
アレックスを倒し、アーケランド王国を取り戻します」
臣従を誓うボーデン伯爵に、セシリアが声をかける。
ここで俺が出しゃばって、話をややこしくする必要は無い。
ここはセシリアに任せて良いだろう。
「お任せください。
我が領軍はセシリア様と共に戦うことを誓いましょう」
「その決断に感謝します。
ですが、なぜ?」
ロイド将軍から情報を得ていたとはいえ、それを信じた理由は何だったのか?
オールドリッチ伯爵でさえ、そこまですんなり納得したわけではない。
あまりに簡単に信じたことで、むしろ罠かと疑うほどだ。
「我が伯爵領では、侯爵領への兵站も担っておりました。
そして、王都から来た勇者様が侯爵領へと向かうために通過する地でもあります。
あれは何なのでしょう?
顔は冑で隠していましたが、あの目、人間ではありませんでした。
あれは魔族ではないのですか?」
行きはおかしな勇者だと思う程度だったという。
しかし、帰って来た勇者を見て確信したらしい。
フルフェイスの冑が壊れ、目元が良く見えたのだそうだ。
俺が魔族勇者をバルコニーから投げ落とした時に破損したのだろう。
逃げたのはそいつだからな。
「それは俺から説明しよう」
「貴殿は?」
セシリア王女にしか目が行っていなかったボーデン伯爵が、やっと俺を認識した。
久しぶりに疎外感を感じてしまったぞ。
「わたくしの夫です♡」
「それは失礼を」
ボーデン伯爵が慌てて畏まるが、俺はそれを手で制して話を引き継いだ。
自己紹介のスルーを咎めなかったからだしな。
「あれは召喚勇者を魔族化した魔族勇者だ。
あれこそがアレックスが魔王である証拠だ」
こう言ってしまうと、俺の眷属を見て俺も魔王だと言われそうだが、俺の方はあくまでも魔物をテイムして使役している体で誤魔化そう。
人を魔族化して使うなどという禁忌に手を染めている方が、どう見ても魔王だろう。
「やはり!」
「わたくしの夫は真の勇者です。
真の勇者は魔王を打倒するもの。
アレックスが魔王である、もう1つの証拠ですわ」
「ここに魔族勇者の遺体がある。
これを見せれば納得する者も多いだろう」
俺はアイテムボックスに入れてあった魔族勇者の遺体を、その場に取り出して見せた。
魔族がアーケランド王家の紋章の付いた召喚勇者専用鎧を着ているのだ。
このインパクトは計り知れないはずだ。
「これは! やはり魔族!
この話、我が派閥にも広げさせていただきます!」
ボーデン伯爵の意気込みは相当なものだった。
アレックスが魔族勇者を使ったせいで、アーケランド貴族の離反に拍車がかかりそうだ。
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