第410話 対魔族勇者の戦力を増強する4
悪魔の卵の殻が変な音をたてて割れる。
「〇切られるかもしれないやつ」が孵るのだ。
この悪魔の卵には、ランクアップ券とスキル追加券を使ってある。
これで不幸な結果を回避出来たことを祈るしかない。
「………」
悪魔の卵は、既に上部が割れ、中身が出て来ても良い状態だった。
だが、そこからは何も出て来ない――いや、霧のような黒いオーラが溢れ出て来ていた。
それはドライアイスのように床まで沈んで広がって来ていた。
「しくしくしくしく」
耳を澄ますと、何やら鳴き声のようなものが聞こえて来た。
そして、明らかな負の感情が空間に満ちて行く。
どうやら黒いオーラは、その負の感情が流れ出たもののようだ。
「ど、どうした?」
感情があるなら、話すことが出来る魔物だろう。
俺は、その予想外な展開に、思わず問いかけてしまった。
すると卵の中から「50%off」というシール付きの殻が零れ出て来て、カラカラと音をたてた。
おそらく中身の悪魔は、偶然中に入ったその殻を見てしまったのだろう。
いや、そんなシール、貼ってあったか?
俺は、そんなものは見ていなかったのだが、内側にでも貼ってあったのか?
「しくしくしくしく。また値切られてしまいましたわ」
あ、これか!
例の「〇切られる」だ。
どうやら「値切られる」だったようだ。
「なんだこれは……。力が……」
俺を守るために自然と前に出て来ていたキラトに黒いオーラが接触する。
どうやらエナジードレインの効果があるようだ。
「あらあら、この力、カミーユではないですか。
御主人様、こやつの力は保証しますので、さっさと眷属にしておしまいなさい。
それとキラトちゃんは、私が看病してあげるわん♡」
オトコスキーが防壁を展開しつつキラトをがっしり抱き止めた。
なにやらジュルりとよだれを啜っている。
これはまずい。このままお持ち帰りを許したら、キラトが戦力として使えなくなる可能性がある。
「こら、オトコスキー、キラトを離せ。
お持ち帰りは許さん。
それと、こいつ――カミーユといったか――を知っているのか?」
俺は、キラトを救助しつつ、オトコスキーがカミーユと呼んだ「値切られる」さんの情報を訊ねた。
オトコスキーは、俺を裏切ることなく、口を尖らせながらキラトを解放した。
そして、カミーユの正体を話しはじめた。
「カミーユは不幸自慢のレイスですわ。
どうせ『50%off』も自分で殻に張り付けたのですわ」
卵の中身の状態で、それが出来るのかという議論は置いておいて、そうだったのか。
自ら値切って、値切られたという不幸を演出していたのか。
おそらく、それで自らの能力を増幅しているのだろう。
「このように、相手の力を50%offに出来るエナジードレインを使うことが出来るので、戦力にはなると思いますわ。
面倒臭いやつですけどねっ!」
なるほど、ならば眷属化しても良いか。
最悪命令すれば、この黒いオーラを止められるだろう。
俺は、オトコスキーのアドバイスに従い、カミーユを眷属にした。
眷属 レイス(カミーユ) 女性 ▲ 呪い ソウルイート エナジードレイン 不幸(デバフ魔法) 実体化 純愛
ああ、なんか解かるわ。
今まで周囲に居なかった不幸体質ってやつだ。
それと元から名前持ちってオトコスキーに次いで2人目か?
そういや、不二子さんも本名ありそうだから3人目?
「カミーユ、大丈夫だから、出て来いよ。
50%offが気になっているのかもしれないけど、俺は優秀な眷属を安く手に入れられて幸運だったと思うぞ」
とりあえず、このまま不幸を撒き散らされても面倒なので、そう慰めてみた。
すると、一瞬で負の感情を纏った黒いオーラがかき消えた。
「ご主人様、目も合わせたことの無い私を受け入れてくれるなんて……好き♡」
悪魔の卵の中から、黒いドレスを纏った女性がすーっと立ち上がり、俺に♡目を向けて来た。
その姿は薄幸の貴族令嬢といった感じか。
もしかして、スキルの最後にあった実体化と純愛のスキルが発動しているのだろうか?
俺は背筋に冷たい物が走るのを感じた。
所謂ストーカーにロックオンされたといった感じだろうか。
まずい。ストーカーならば、妻ーズの存在を後で知ったら暴走しかねない。
ここは予防線を貼るしかないぞ。
「カミーユ、好意は有難いが、俺には妻がいるので、気持ちは受け取れない」
そう俺が言うと、空気の温度が氷点下に下がった。
だが、それは一瞬で、逆にカミーユの機嫌は良くなった。
「なんという不幸、なんという逆境。
また
カミーユにとって不幸=自分を値切るということのようだ。
どうやら、面倒臭い奴がまた1人増えたようだぞ。
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あとがき
コメント欄で何人かの方に当てられてしまいましたが、「〇切られる」は「値切られる」でした。
それにしても、今回の卵は全員人型の女性になってしまった。
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