第405話 この後どうする

 ラノベの異世界モノでは、よく城門でステータスを調べられて、犯罪歴がないかのチェックを受ける描写がある。

所謂クライムチェックやイービルチェックというやつだ。

そこで窃盗・殺人・婦女暴行などの罪を犯した犯罪者が捕えられたりする。

これは、そういった犯罪歴が、個人のステータスに自動的に載せられるため、専用魔導具を使うことで判断出来るのだ。


 だが、盗賊を討伐したなどといった殺人や、殺されそうになって返り討ちにしたといった殺人は、犯罪ではなく善行として判断される。

そこには、正義か悪かという、行ないに対する差があって何処かで判断されているということなのだろう。

それは神といった超越者の仕事なのだろうか?


 では、戦争での人殺しはステータスの犯罪歴にどのような影響を与えるのだろう?

今回の戦いで言えば、皇国側とアーケランド侯爵側で正義と悪が入れ替わる状況となる。

いや、同じ人殺しでも、戦争ならばどちらも見逃されるのだろうか?


 答えは「どちらにも殺人の犯罪歴がつく」だ。

ただし、その殺人には備考が添えられるのだ。

実は盗賊の討伐にも殺人の犯罪歴がついている。

それはこうなる。


[殺人(盗賊討伐)]


 この備考の判断により、盗賊に対する殺人は許され、クライムチェックに引っかからないのだ。

では、戦争の場合は?


 今回の戦争では、このようになる。

(正統アーケランドの兵は紛らわしいので省略して説明します)


A[戦争による殺人(皇国側で参戦)]

B[戦争による殺人(アーケランド側で参戦)]


 これを皇国側のクライムチェックにかけると、AはスルーしBには殺人がつく。

対して、アーケランド側のクライムチェックにかけると、BはスルーしAには殺人がつくのだ。

また第三国のクライムチェックではA、Bともに備考付きで表示される。

それをどう判断するかは、第三国次第なのだ。


 ここまで説明したことで、お解りかと思うが、侯爵軍の民兵が皇国兵を殺めていれば、クライムチェックで言い逃れが出来ないということだった。

ただ武器を持たされていただけならば、何の犯罪歴も出ないだろうが、積極的に戦い皇国兵を傷つけ殺せば、それがしっかり犯罪歴に載っているのだ。


 先日俺がディンチェスターの街を訪ねたときは、変装の魔導具で顔とステータスを誤魔化していて正解だったのだ。

偽装せずに、このクライムチェックの魔導具を使われていたら、アーケランド兵大量殺戮+教唆犯・・・という記録が載っていたかもしれないのだ。

あれだ、侯爵軍に対して魔物をけしかけた件とか、オトコスキーが魔法でアーケランド兵を殺しまくった件のことだ。

加えて、門番が素人でたまたま魔導具を使わなかった。

偶然が重なった幸運。今思うと結構綱渡り状態だったわけだ。


 要塞都市バラスを占領した皇国軍は、街の住人全員をクライムチェックすることになる。

そこで犯罪歴のある者には、なんらかの処分があるだろう。

特に教唆犯は市民に戦いを強いた立場のため、重い罪となることだろう。


 俺たちの感覚では、戦争なんだから、お互いに殺し殺されで終戦でノーサイドという感覚がある。

戦争による殺人の責任を負うのは国家であり、そのために戦後賠償をしてチャラにするのだ。


 だが、ここは異世界。

そんな感覚は全くもって存在していなかった。

捕虜は殺す、略奪はする、女は犯す、そんな野蛮な世界なのだ。

もし、俺たちが負けていたならば、アーケランドはそうしていたことだろう。


 そんな異世界にあって、皇国は違った。

皇国には召喚勇者が関わっている。

そのため、他の異世界の国とは毛色が違うのだ。


 クライムチェックで殺されたのは上に立つ者だけだった。

略奪も暴行も禁じられて行なわれなかった。

タカヒサ曰く「将の首はとるが、民は許す。民は国の礎である」だそうだ。

ここで首を斬られたのは、教唆の犯歴があった指導層だった。

命じられ、皇国兵を殺した民兵であっても降伏したならば、皇国は許したのだ。

いくさの最中ならば、積極的に討たれてしまったのだが……。

そこらへんが、皇国の戦闘民族たる矜持なのだろう。


 ちなみに、民兵でも快楽殺人犯のような率先して殺しを楽しんだような者は例外で、そんなステータス内容を持っていたら処刑対象になっている。


「侯爵領の分配は、後で決めもうそう」


 タカヒサが言って来たのは、戦後のバーリスモンド侯爵領の領有に関する話のようだ。

正統アーケランド領とするか、皇国領とするか、皇国としては纏まった土地が欲しいところだろう。

ならば、この先進軍して得た土地の権利を放棄して侯爵領が欲しいということになるのかもしれない。


「皇国が血を流した分は、保証するよ」


 俺たちにはアレックス個人を倒す戦力があったとしても、アレックス配下のアーケランド軍の膨大な兵を倒すだけの数的余裕が無い。

その数を補っているのが、皇国軍なのだ。

オールドリッチ伯爵のように、正統アーケランドに下ってくれれば、そのまま領土は安堵されるが、皇国の手を借りて進軍した所は、皇国に便宜をはからなければならないだろう。


 こうして、バーリスモンド侯爵領は、ほぼ皇国の手に落ちたかたちとなった。


「次はボーデン伯爵領か。どんな人物なんだろうか?」


 また正統アーケランドに下るように交渉しなければならなかった。


 そして、次代召喚勇者の魔族化問題。

召喚されたばかりなのに、素の俺やキラトに匹敵する力があった。

勇者の子孫であるサダヒサさえも圧倒する強さだった。

特に俺と対峙した奴は、ギフトスキルに特別なものを持っていそうだった。

侮るわけにはいかなかった。


「問題は、何人生き残ったのかだな……」


 魔族化に失敗してパシリのように化け物になった次代召喚勇者もいるだろう。

それはアレックスの手で処分されたと思われる。

知能が残ってなければ、洗脳や隷属化が効かない。

そうでなければ、魔族勇者を手足のように使えないはずだ。

離反し反旗を翻されるのだけはアレックスも避けたいはず。


 オトコスキーによれば、今回来た3人は失敗作らしい。

そんな失敗作を早期投入したのは、バーリスモンド侯爵を生かすためだろうか。

それはつまり、皇国の秘宝を狙う足がかりの土地だと、重要視しているということなんだろうな。


「となると、ここの防衛にも力を入れないとな……」


 皇国の武者の力では魔族勇者には対抗出来ない。

ならば、俺の眷属を配置するべきだろう。

少なくともキラトと同等レベルの眷属が欲しいところだ。

オトコスキークラスは……。嫌な予感しかしないので考えないでおこう。

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