第404話 オトコスキーはどっちだ

 オトコスキーの魔法は、護衛騎士ごとバーリスモンド侯爵を焼き払った。

その魔法の炎が消え去った後には、炭化した何かしか残っていなかった。


「なーんだ。あんまり驚いてくれませんのね?」


 オトコスキーは、悪戯が失敗したとでも言うように顔を顰めた。

どうやら裏切ったそぶりで、俺をやきもきさせたかったらしい。


「このシチュエーション、2度目だろ。

それに、俺を殺るつもりならば、大規模魔法は使わないだろうからな」


「うんもう♡ さすがご主人様ですわ」


 オトコスキーがバチンと片瞼を閉じてウインクを投げて来る。

ちょっとキモイが、裏切られなかっただけマシだった。

俺は魔族勇者の剣をいなしながら、オトコスキーと会話を続ける。


「邪魔ねぇ。

ご主人さまと会話も出来ないじゃない!」


 そしてオトコスキーは、パチンと指を鳴らす。

すると俺と対峙していた魔族勇者の足元から金属の円錐が数本突き出て来て魔族勇者を串刺しにした。

そう、俺を殺そうとしていたならば、大規模魔法など使わずに、この魔法で事足りたのだ。


「どうして裏切らなかった?」


「あらん。私はずーーーっとご主人様一筋でしてよ?

ジョブなんか関係ありませんわ♡」


 どうやらオトコスキーは魔王というジョブに靡いていたわけではないようだ。

だが、俺個人を気に入っているとなると、逆に恐くなるのは何故だろうか?

俺は悪寒を誤魔化すように、魔族勇者のことを訊ねた。


「オトコスキー、こいつは……」


「生粋の魔族ではありませんわね。

これは闇落ちした元人間ですわ」


 やはりそうか。どうやら俺の嫌な予感が当たっていたようだ。

おそらく、ここまで行くと、例え【時戻し】でも元には戻せない。

遡行時間の闇落ちポイントに、俺が耐えられないだろう。


「それに失敗作ですわね。

魔力の残滓からして、自我が崩壊しているところを操られてますわ」


 どうやら、パシリよりもマシ程度の魔族化だったようだ。


「キラトちゃん、こんなのに手古摺っていては後でお仕置きですわよ?」


 オトコスキーにそう言われて、キラトも焦って1段ギアを上げた。

よっぽどオトコスキーのお仕置きが嫌なのだろう。

というか、オトコスキー、勝手に眷属たちにお仕置きしてるのか?


「グガ!」


 俺がオトコスキーを追及しようとしたとき、キラトが魔族勇者を倒した。

後から聞いた話だが、キラトは配下がオトコスキーの性癖に蹂躙されたせいで、オトコスキーを恐れているとのことだった。

直接オトコスキーのお仕置きを受けたことがあるわけではないそうだ。


「あら? もう1人は逃げたようですわよ?」


 それは俺がバルコニーから落した魔族勇者だった。

その行動は自我があってのことか、操っていた誰かの指示によるものかは判らなかったが、これでこの戦いも終わ……。


「ヒロキ殿、侯爵の遺体が……」


 ポーションで傷を癒したサダヒサが、絶句する。

俺がその意味に気付くのに、暫く間があく。


「ああっ! 侯爵が消し炭になってるじゃないか!

これでは、侯爵を討った証拠を示せない!」


 まずい。これでは戦いを止めることが出来ないぞ。

俺はオトコスキーのやりすぎに対してジト目を送る。

それを受けたオトコスキーは、焦りもせずに言う。


「前の状態にちょっと戻せば、解決ですわん。

ちょっと失礼」


 そう言うとオトコスキーは、俺の肩に手を置いた。

そしてオトコスキーが単独で【時戻し】を使ったようだ。

見る見るうちに消し炭が生モノになっていく。

さすがに命は戻らなかったが、魔法を終えた後、そこにはメルヴィン侯爵の遺体があった。


「どういうことだ!?」


 【時戻し】は、俺と腐ーちゃんと薔薇咲メグ先生にオトコスキーと不二子さんの5人で、やっと使った魔法だった。

しかも、眷属分の闇落ちポイントを被って、俺が闇落ちしそうになり、嫁ーズに癒しまくってもらうほどのダメージがあった。

オトコスキーは、それらをどうやって回避したというのだ?


「今回の魔法は【時戻し】に似ていて非なるものですわ。

これは【聖魔法】の【エクストラヒール】なのよん。

ご主人様の力をお借りして遺体を治したのですわ」


「な、なるほど」


 どうやらそれは、俺が真の勇者になったことで使えるようになったスキルらしい。

それをオトコスキーの魔法能力で引き出して使ったということのようだ。

元魔王軍幹部の魔族が、聖魔法を使って大丈夫なのか?

まあ、見たところ大丈夫なので問題なかったのだろう。


「これならば、首級として使えるのである」


 そう言うとサダヒサはメルヴィン侯爵の首を刀で切り落とした。

そして、侯爵家の護衛騎士が使っていた槍を拾うと、その先に髪の毛を縛って首級を吊るした。


『メルヴィン=バーリスモンド侯爵、討ち取ったり!!』


 サダヒサが【拡声魔法】を使って大声を張り上げた。

そしてバルコニーに脚をかけて、槍を突き出した。

侯爵の首級を衆人の目に晒そうというのだろう。

どうやら髪の毛を縛ったのは、首級がプラプラ揺れるという見た目の演出が欲しかったからのようだ。

槍に刺した場合は遠目だと何だか判り辛いからかな?


 まあ、【遠目】のスキルでも持っていなければ、侯爵本人だと確認出来ないだろうけどね。

だが、このシチュエーションが、その真実味を補完する。

侯爵の指揮所があったバルコニー、そこに皇国の武者と判る和鎧姿のサダヒサが立ち、首の吊るされた槍を掲げているのだ。

ついでに纏を解いた飛竜も空を舞っている。

どう見ても指揮所が完全制圧されたことは明白。

そして、そこで吊るされる首級といえば……。

誰でも察するというものだった。


『降伏せよ。

正統アーケランドの名において、捕虜は手厚く扱う。

市民は、正統アーケランドの国民として受け容れる用意がある。

今までと変わらない生活を約束する』


 俺も【拡声魔法】で降伏を呼びかけた。

すると、領主館に近い所から、降伏の輪が広がって行った。

侯爵が討たれたのを知り、民兵と化していた市民が一斉に寝返ったのだ。

余程のしがらみが無ければ、侯爵に義理立てして戦い続けることは無いのだろう。

強制されていた者たちも多いのだろう。

その強制していた者が降伏すれば、自然と市民は武器を放棄したのだ。


「さて、これで終わったようだが、この後がまた大変そうだな」


「反抗勢力の洗い出しに処分と、反感の残る民の統治になりもうすからな」


 そうなのだ。

侯爵にまだ義理立てする勢力の討伐と、今回の戦いで身内を失った民の反感は残るのだ。

それをどう上手く統治するのかが難しい。

そこは皇国のノウハウを利用させてもらうしかないのかもしれない。

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