魔族勇者
第403話 魔族勇者
「魔族がなぜアーケランド勇者に?」
その疑問に答える者は誰もいなかった。
俺は魔族勇者の斬撃を避けながら、魔族が勇者の格好をしている理由を考えた。
可能性としては3つある。
1つはアレックスが配下の魔族を勇者として採用したというもの。
2つめは勇者召喚する対象に魔族を選んだというもの。
そして3つめ。
召喚勇者に魔物肉を食わせて闇落ちを促し、魔族化させたというものだ。
俺は嫌な予感しかしなかった。
そもそも、1つめの可能性は無い。
配下として魔族を使うのに、勇者として採用し、その格好をさせる意味がないのだ。
それこそオトコスキーのように魔族の配下として使えば良いだけだ。
そして、勇者として偽装したいならば、フルフェイスの冑を被せて、魔族だとバレるようなことはしないものだ。
2つめも可能性としては薄い。
勇者召喚の仕組みとして、ギフトスキルを神様から貰うという、所謂召喚特典がある。
魔族は神様から祝福を得られるのだろうか?
そう考えると、素のステータスが強いというだけで魔族を勇者召喚するという冒険はしないだろう。
そもそも余計なことをすると、また召喚を失敗してしまうかもしれないのだ。
確実に戦力を得るために、前に行ったものと同じ召喚の儀を万全の体制で行なうはずだ。
「つまり、こいつらは新たな召喚勇者の馴れの果てか……」
アレックスが召喚勇者を即戦力として育てようと考え、手っ取り早く魔族化したと考えるのが可能性として一番有りそうだ。
見れば、魔族が装備している、勇者にしか支給されない鎧が皆新しい。
これは、新たな召喚勇者が彼らだということを示しているのではないか?
「侯爵様、ご無事ですか!」
キラトが魔族勇者の1人に対処している隙に、後方の領主館の中から新たな騎士たちが侯爵を守るために湧いて出て来た。
まずい。このままだと侯爵を取り逃がしてしまう。
見ればキラトもサダヒサも魔族勇者の剣戟に押されている。
そう言う俺も魔族勇者に阻まれて侯爵を斬るだけの余裕がなかった。
「仕方ない。 眷属纏、飛竜」
俺は領主館の上空を旋回していた飛竜を纏った。
その纏により増強されたステータスで、魔族勇者の懐に一気に詰めて剣を横薙ぎに振るう。
その剣は魔族勇者の胴鎧に阻まれ、致命傷を与えることは出来なかったが、その膂力で魔族勇者が飛んで行く。
魔族勇者は、そのままバルコニーから転落した。
まだ彼は生きているだろうが、俺は僅かに行動の余裕が出来た。
「侯爵は!」
侯爵の姿を探す。
既に逃げられたかと慌てたが、侯爵は騎士たちに囲まれこの場に留まっていた。
どうやら騎士たちが賊は3人だけだと、俺たちの強さを読み違えたようだ。
自分たちが到着したからには侯爵を守れると判断したのだろう。
だが、残念だったな。俺は魔法が使える。
「メテオストライクごくしょ「ぐわーーーっ!」つ!」
俺が騎士ごと侯爵をメテオストライク(極小)で吹き飛ばそうとした時、サダヒサの叫びが耳に入った。
慌ててそちらに目をやると、どうやらサダヒサは魔族勇者に遅れをとってしまったようだ。
サダヒサは、右腕から血を流し、刀を取り落していた。
今にも魔族勇者に止めを刺されそうな状態だ。
「サダヒサ!」
俺は侯爵を討つよりも、サダヒサの救出を選んだ。
戦いの趨勢よりも、仲間の命。
それこそ、平和ボケの日本人ゆえの行動だったのだろう。
「来るでない! 侯爵を討て! 侯爵を討てばこの
サダヒサは、自分の命を助けるよりも侯爵を討てと言う。
俺がメテオストライクを使おうとしたことを察したのか、慌てて騎士たちが侯爵を連れて逃げようとしていた。
俺は、サダヒサを助けたかった。
かといって、この作戦を失敗させるわけにもいかなかった。
この作戦が失敗することは、皇国兵や市民の犠牲が増えることを意味する。
だからサダヒサは、自分の命を助けるよりも侯爵を討てと言ったのだ。
俺はどちらも諦められなかった。
人手が足りないならば、召喚すれば良い。
ここで呼ぶならば、複数人に対抗できる魔法戦力だろう。
だから、俺は奴を呼んだ。
「眷属召喚、オトコスキー! 侯爵を討て!」
俺は眷属召喚されたオトコスキーには目もくれず、サダヒサを助けに入った。
そのおかげもあって、間一髪、サダヒサに止めを刺そうとしていた魔族勇者を止めることに成功する。
俺は魔族勇者を牽制しつつ、オトコスキーの仕事を確認した。
だが、オトコスキーは侯爵どころか護衛の騎士にも手を出していなかった。
「あらやだ。
お主人様って、魔王様ではなくなってませんこと?」
そういえば、俺の魔王のジョブは、真の勇者に書き変わっていた。
まさか、オトコスキー、魔王にしか従わないとでも言う気か?
オトコスキーと眷属契約はしているが、アレックスだけが魔王となれば、そちらに靡く可能性があるのか。
「こちらの勇者様たちは、魔王様の匂いがするわね」
「オトコスキー、まさか!」
オトコスキーが裏切ったのか?
俺はわざわざ新たな敵を召喚してしまったのか?
「おほほ。まあ良いわ」
そう言うとオトコスキーから膨大な魔力の奔流が流れ出て来た。
大規模魔法を使う予兆だろう。
「【
オトコスキーの大規模魔法が炸裂した。
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