第392話 サダヒサ説得2

「ヒロキ殿は、我が皇国とアーケランドの因縁をご存じないのか?」


 サダヒサの台詞にはアーケランドへの恨みが滲み出ていた。

つまりアーケランド王家の一員であるセシリアの存在など許せないぐらい、恨んでいるということか。


「知っている。

だが、それを曲げてでもアーケランドの民や良心的な者たち・・・・・・・は救うべきだと考えている」


 良心的な者たちと表現したのは、オールドリッチ伯爵やセシリアのような真実を知らされずに協力させられた貴族や王家の者も含んでいる。


「我が祖である召喚勇者への残虐行為や、我が皇国への無慈悲な侵略を知らぬとはいわせぬぞ?」


 サダヒサの祖先や皇国の皇室縁の方は、召喚勇者だった。

そして、魔王を討った後でアーケランドに裏切られたのだ。

その後何度か勇者召喚が行なわれ、その勇者を以って皇国はアーケランドの侵略を受けた歴史がある。


「それを言うならば、勇者召喚されてこんな所で戦わされている俺たちだって、アーケランドには恨みがある。

仲間同級生だって死んでいるんだぞ?」


「ならばどうして!

それがしも親類を兄弟を失っているのであるぞ!

民を救うのは良いであろう。

だが、あのにっくきアーケランド王家の者を、なぜ許せというのであるか!」


 そこか。セシリアを俺が嫁にするということは、俺と敵対しない限り手を出せないことを意味する。

アーケランド王家の者がそこで生き残ることがサダヒサには許せないのだろう。


「それらへの関与の度合いだ。

勇者召喚を悪だと知りながら行ったのか。

召喚勇者を騙して利用することを是としていたのか。

皇国への侵略を率先して行った当事者か。

自ら手を下していたのかが分かれ目だ。

たとえ王家の人間でも、何も知らなかった者たちはいる。

その血だけで許せないということではないだろう」


 実はセシリアは洗脳されていたし、俺たちが突入した時の儀式まで、召喚の儀があんな感じだとは知らされていなかった。

俺たちが召喚された儀式には第一王女エレノアが携わっていたのだ。

そして、召喚勇者の存在も国のために戦ってくれる者たちだと尊敬していたし、皇国は国の平和を脅かす敵だと教えられていた。

まさか皇国の方が被害者で、勇者という存在が洗脳して駒にし命を粗末にするような酷い扱いだとは知らされていなかった。


「だが、なぜヒロキ殿の嫁であるか!」


 そうか。サダヒサはアレックスの存在を知らなかったか。


「今のアーケランドは、いにしえの魔王の支配下にある」


「なんだと?」


「先代勇者の身体を器とし、魔王アレックスの魂が乗り移っているのだ。

王家は洗脳され、その魔王に操られている。

たしかに先代勇者を道具にしようと召喚したのは現国王だ。

だが、その後の所業は全てその魔王によるものなのだ」


 サダヒサの兄弟は、その先代勇者との戦いで犠牲になっているはずだ。

それが魔王のせいだったのだ。

これで考えが変わってくれれば良いのだが。


「古の魔王とは、まさか100年以上前の、あの魔王アレックスのことであるか?」


「勇者から魔落ちした魔王らしいから、間違いないだろう」


 アレックスは、薔薇咲メグ先生と同期の召喚勇者だ。

そういえば、その時に魔王化したアレックスを倒した真の勇者が皇家の祖だったか。

その後、召喚勇者がアレックスのようになることを恐れたアーケランド王家が、勇者を利用した後に処分しようとしたのだ。


「そうであったか。

それで・・・我が皇国を執拗に攻めて来たということであるか」


 どうやら、サダヒサの中にはアーケランドが皇国を攻めて来る理由が思い当たるようだ。

しきりに納得している。


「そのアレックスという魔王が第一王女エレノアと婚姻し、今のアーケランドを支配しているのだ。

だからこそ、セシリアを旗頭にして、アレックス打倒を正当化する。

こちらが正当なアーケランドの王家だとな」


「それにより貴族を離反させ、無益な戦いを無くすということであるな」


 サダヒサもセシリアの存在の有用性は理解出来ているようだ。

あと納得できないのは、心情的なものだろうか。

サダヒサは暫し苦悩したうえ結論を出したようだ。


「承知した。

我が兄弟の仇は、魔王アレックスであるのだな?

奴に与する者は当然排除するが、それがしたちもアーケランドの民や降伏した貴族まで害するつもりはござらん。

その見極めにセシリア王女が使えるのも理解しもうした」


 よし、これで皇国の説得はどうにかなるか。


「だが、戦後のアーケランド王家の処遇は、それがしでは決められぬ。

それは皇帝陛下の裁量権の範疇である」


 ああ、そうか。

サダヒサが良家の出といっても、皇国の方針を決定するような権限は持っていないわな。


「それは、この後での皇国との交渉次第で構わない。

だが、俺は嫁にしたからには死んでも守る。

それだけは知っておいてくれよ?」


 それを全うしなければ、俺は闇落ちし、いよいよ真の魔王だ。

世界を滅ぼしてしまうかもしれない。


「そうなると、他人には任せられぬであるな。

よし、それがしが同行いたそう。

なに、エール王国への使者はそれがしでなくても誰でも出来ようぞ」


 サダヒサは、俺の事をじっと見つめると頭を振った。

どうやら無理やり納得してくれたようだ。

これから皇国との交渉となるが、事情を理解しているサダヒサが居るのと居ないのとでは交渉の難易度が明らかに違うだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る