第391話 サダヒサ説得1

 ひっぽくんに黒塗りの貴族馬車を繋げて、新しい道を南下した。

メンバーは俺、リュウヤ、赤Tに腐ーちゃん、陽菜、そしてセシリア王女の6人。

俺とセシリア王女の存在はオールドリッチ伯爵を説得するのに必須のメンバーだし、護衛としてのリュウヤと赤Tも妥当だろう。

腐ーちゃんと陽菜は、さすがにセシリア王女をサポートする女子が必要だということで、実力と緊急時の避難のための人員として選択した。

このメンバーで皇国とオールドリッチ伯爵を説得するのだ。


 オールドリッチ伯爵を初めとする、アーケランドの良心や無辜の民を助けるために、皇国を説得しなければならない。

皇国の皇家や上位貴族は召喚勇者の末裔のため、アーケランド王家に恨みがある。

敵国同士として戦争に至ったことも何度もあるそうだ。

そのアーケランド王家の血筋であるセシリア第二王女を旗頭にして、現王家とアレックスを倒す提案を皇国にしなければならない。

そんな無謀ともいえる説得を、見ず知らずの俺たちがしに行っても無駄なだけだろう。

ここはサダヒサの力を借りるしかない。


「ここで待っていれば、サダヒサが通るはずだ」


 俺たちは例の揚羽の蝶の家紋の入った貴族馬車を街道を塞ぐように停めて、サダヒサの到着を待った。

貴族馬車の向かい合うシートには、陽菜、俺、セシリアの3人と、反対側に腐ーちゃん、赤Tの2人が離れて・・・座っている。

リュウヤは御者席で見張り中だ。


「なんだよ、バカT、文句あんのかよ!」


 俺の右腕にがっしり捕まりながら陽菜が赤Tに毒づく。

この2人、一応元恋人同士なのだ。


「いや、ねーけどよ。

なんつーか、胸がザワザワするっつーか」


 その元カノが俺の嫁となってべったりくっついていることに、赤Tは違和感があるのだろうか。


「ふん、性奴隷連れて来て嫁にしたじゃん。

女子たち皆が認めてあげたの、感謝しろよな」


「そいつは感謝してっけどさ」


 そして、赤Tはチラリとセシリアの方を見た。

セシリアは俺の左腕にがっしり捕まっている。

どうやら赤Tは、自分を洗脳し操っていたアーケランドの王女であるセシリアにもモヤっとした感情があるようだ。


「すまないな赤T。

これもアーケランドの無辜の民を救うためだ。

それにそもそもセシリアは国を守るために勇者召喚が必要だと信じていたんだよ」


「赤T、そこは納得するでござるよ」


 腐ーちゃんもアレックスとアーケランド王が悪いだけと割り切ったようだ。

これが今の温泉拠点メンバーの現状だ。

現状を理解し納得した者、モヤッとしているが認めるしかない者、それでも皆で同じ方向を向いて行くことが決まったのだ。


「まあ、そうなんだけどよ。

なんかズリくね?」


 違った。そっちかよ!

赤Tは俺が複数の嫁を侍らせていることが納得できていなかったようだ。

セシリアなんて王家というシステムが作った美の頂点だからな。

王家には美人が嫁ぎ、長い年月をかけて美が収斂されていく。

その結果王家の者は皆美男美女となるのだ。

これは古い貴族にも言えることだ。


「赤Tも、嫁が認める・・・・・ならば、一夫多妻は合法だからな?」


「そうか、そうだよな」


 どうやら赤Tは希望を見出したようで、上機嫌になった。

だが赤Tよ、そこに小姑のチェックが入るんだからな?

それに次は金を出さないからな。

まあ、丸め込めたからこれはこれで良いか。


「来たぞ!」


 御者席のリュウヤから声がかかる。

俺は東側の扉を開けて馬車を降りると、サダヒサの馬が到着するのを待った。


「やあ、サダヒサ」


「これはヒロキ殿、なぜこのような場所にいるのであるか?」


 サダヒサは街道の途中に俺たちの馬車が停まっていることに戸惑いを隠せなかった。

普通ならば盗賊を疑って警戒するところだが、黒塗りの貴族馬車に、側面には揚羽の蝶の紋章だ。

それが街道を塞ぐように停まっていても、遠くから俺たちだと気付いたことだろう。

だが、その意味が解らないと言ったところだろう。


「問題が発生した。

なので慌てて拠点からここまで南下する道を作った。

それで先回りしてサダヒサを待っていたのだ」


 サダヒサは魔の森の中の道を西進し、新国境砦の手前でカドハチ便と別れて街道を東進して来たのだ。

距離的に2日かかる感じだろうか。

それを俺たちは街道への南下する道の建設を行い、話合いの末に今日ここへとやって来たのだ。

サダヒサは、新国境砦建設の呆れた速さを思い出したのか、頭を振ると口を開いた。


「わかった。もう何も驚くまい。

それで、問題とは?」


 サダヒサが聞く体制になる。


「皇国が今対峙しているのは、おそらくオールドリッチ伯爵の軍だろう?

彼はアーケランドとしては貴重な良い貴族なんだよ。

なんとか彼のような善人は助けたいのだ」


 俺がそう言うと、サダヒサは悩まし気に考え込んだ。


「助けようにも、領土を侵す我が皇国軍をその伯爵が許すわけがないであろう」


 だろうね。だからこその嫁登場だ。

俺は馬車からセシリア王女を連れ出してサダヒサに紹介した。


「俺の嫁だ。

そしてアーケランドの第二王女になる」


「なんだと?」


 サダヒサの声のトーンが1つ落ちた。

それはアーケランド王家への強い怒りの感情を示しているようだった。

あれ? まさかサダヒサにとってアーケランド王家ってまずい存在だったのか?

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