第385話 赤Tの信用度

「ところでサダヒサの用事は何だったんだ?」


 サダヒサが、わざわざ変装を解いてまでカドハチと話したいことがあると言っていたことを、俺は思い出していた。

変装を解くという事は、皇国人として何か話があるということだろう。

このまま温泉拠点に帰ってしまっては、その用事を済ますことも出来ないだろう。

何か皇国で必要な品でもあったのだろうか?


「なに、この街の商会が皇国と付き合う気があるか否かを確かめたかっただけである。

それは皇国商業ギルドへの所属替えによって証明された。

これ以上は何もないぞ」


「そうか」


 その意味するところを、俺はこの時は気付いていなかった。

まさか、後であんなことになるなんて……。


「ならばカドハチの準備が出来次第、早急に戻るぞ」


「それがしの娼館行きは?」


 サダヒサが必死な形相で詰めて来る。

こいつ、そこまで娼館に行きたかったのか。

英雄色を好むというが、それで暗黒面に落ちないのならば、もしかして娼館行きは必要悪なのかもしれないな。

俺は絶対行かないけどな。


「1時間で済むならば今から行ってこい」


「じゃあ、俺も行くぜ」


 赤Tがなぜか便乗して来た。

おまえは性奴隷に無駄金使ったところだろうが。


「新国境砦じゃ、娼婦に嫌われて相手してくんなかったんだよ!」


 赤TがあのT2つの顔文字のように泣きながら懇願してきた。

なんだか俺は赤Tが可哀想になってしまった。

まあ、今度はサダヒサがちゃんと監督するだろう。

無駄遣いしないのならば仕方ないか。


「金はサダヒサに預けるからな」


「それでいーからよ」


 赤T、必死だった。

よっぽど娼婦からの不人気が堪えたようだ。

現場監督をきちんとこなすだけで良かっただろうに。

そこが脳筋の困ったところか。


 今度は2人で金貨20枚で送り出した。

また奴隷を買われても困るからな。

金額は高級娼婦が抱ける程度に収めておこう。


 金を受け取ると、サダヒサと赤Tは意気揚々と娼館に向かった。


「さて、こちらはカドハチの準備が整い次第温泉拠点に向かう。

リュウヤ、大丈夫か?」


 俺は放心状態のリュウヤに声をかけた。

奴隷がさゆゆではなかったことがよっぽど堪えたのだろう。


「心配するな。さゆゆが王都にいるならば、いつか救出する。

それよりも、買った奴隷が可哀想だ。

買ったからには責任を果たせよ?」


「あ、ああ、そうだな」


 さゆゆではないが、さゆゆ似の可愛い子だ。

買っておいて無下にしたら可哀想だ。


「皆さまは馬で来られたようですので、彼女たちは私どもの馬車に乗せましょう」


「そうしてもらおうか。

あ、そうだ。馬なのは新国境砦までで、その先は竜車になる。

出来れば速度を合わせてもらえると助かる」


「旅程を早めたいということですな?」


「ああ」


 もしアーケランドが、いやアレックスが召喚の儀を行なっていたとしたならば、新たな召喚勇者を育てたならば必ず復讐しに来るだろう。

なるべくならば育つ前に叩くべきだろう。

いや、彼らも巻き込まれた被害者だろうから、なるべくならば助けてあげたい。

ならば、能力差があって手加減の出来るうちに動くしかない。

俺は少しでも早く話を持ち帰って女子たちに相談したいところだったのだ。


 では、なぜ時間が無いのに、サダヒサと赤Tを娼館に行かせたかとなるが。

それは、カドハチの準備にどうしても時間がかかるため、まだ余裕があったからだ。

カドハチ便の物資が無い状態で、女子たちの批判を躱せると思うか?

カドハチの同行は最重要項目だ。どれだけ待っても構わない。

その間に行って来れるならば許可を出さない謂われはない。


 ◇


 サダヒサと赤Tが娼館から戻って来た。

今回は何のトラブルもなく満喫して来たようだ。

赤Tがご機嫌なのは、今度こそ娼婦に相手をしてもらえたからだろう。

ここまでは赤Tの悪評も伝わっていないのだから当然だな。


「お待たせしました」


 そして暫くしてカドハチの準備も整った。

カドハチは竜車を3台用意して、そこに物資を満載していた。

戦闘奴隷たちのための食料や、生活雑貨、そして女子たち向けの贅沢品だ。

リュウヤたちが性奴隷を買ってしまったので、これで女子の機嫌を取らなければならないのだ。

そして、カドハチはカモフラージュのために、女性の奴隷を何人か連れて来ていた。

調理や清掃といった部門のスキル持ちだそうだ。

性奴隷を隠すならば女奴隷たちの中へ。

さすが、出来る男は違う。

この短時間によく奴隷を用意出来たものだ。


 さて、準備万端だ。

俺たちも厩舎から馬を出してもらい騎乗する。


「よし、出発!」


 今回は堂々と西門から出る。

所属替えをするので、目的地を偽装しても意味がないからだ。

迂回する時間が惜しかったからね。


 西門の門番はその意味に気付いていないのか、何も考えていないのか、そのまま俺たちをスルーした。


 俺たちはカドハチの竜車を守るような配置を取ると、新国境砦を目指した。

ほら、俺たちの姿はカドハチに呼ばれた護衛の傭兵だからね。


「その変装の魔導具ですか?

絶対に売れるのですが、提供は無理ですかね?」


「これを敵対相手に使われると、困るのはこちらだからな」


「たしかにそうですな」


 カドハチは悔しそうにしていたが、その理由には納得したようだった。


 暫く進むと例の橋が架かっていた渓谷に辿り着いた。

その対岸には新国境砦が立ち塞がっている。

今は跳ね橋が上がった状態だ。


「何やつ!」


 新国境砦の上から誰何の声が飛ぶ。

そういや、俺たちは傭兵姿に偽装したままだった。

赤Tが、変装の魔導具を解き、姿を表し叫ぶ。


「俺だ! 橋を下げろ!」


 赤Tがエール王国の勇者としてそう命じた。

だが、砦の上に陣取る騎士たちは、何やら話合っていて一向に橋を降ろそうとしない。

俺とサダヒサにリュウヤも変装の魔導具を解く。


「俺だ! 跳ね橋を下げてくれ」


「これは勇者様、今下げます」


「おい!」


 どうやら、赤Tが本物なのか疑っていたようだ。

だが、俺の顔を見たら直ぐに反応した。

この差に赤Tが地団駄を踏んでいる。

これが仕事をサボった人間と率先して仕事をした人間の差だよ。赤T。


 こうして俺たちは新国境砦を通過することが出来たのだ。


「竜車をまわしてくれ。

借りた馬も助かったよ」


「光栄であります。

竜車は直ぐに準備させます」


 暫くしてひっぽくんの竜車が引き出されて来た。

土ゴーレムも仕事が終わったので乗せる。


「強行軍ですまないが、このまま拠点に向かう」


 俺たちは急ぎ温泉拠点へと向かった。

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