第386話 この隙になんとかなりそう……じゃなかった

「ただいまー」


「お帰りー」

「「「そんなことよりカドハチ便じゃん!!!」」」


 俺の帰還を歓迎してくれたのは結衣だけだった。

女子たちは、久しぶりのカドハチ便に注目していた。

ある意味チャンスだ。


「人も増えたし、お世話係のメイドさんを増やしたからね」


「そうなんだー」


 よし、この隙になんとかなりそうだ。

これで奴隷の事は誤魔化せるかもしれない。

カドハチに合図を送ると、メイド服に着替えた女性奴隷たちが荷馬車から降ろされた。

このメイド服姿で女性奴隷たちがメイドであるという印象をつける作戦だ。

この後赤Tたちがメイドと良い仲になったとしても、それは俺の与り知らぬところなのだ。


「ちょっと待って」


 そんな安易な考えでいた俺を呪ってやりたい。

裁縫女子が鋭い目つきでメイドたちを止めた。


「この子、さゆゆに似てるわね」


「そうか? 似てないんじゃないかな(棒読み)」


 あ、リュウヤ!

終わった。慌てたリュウヤがやらかしてしまった。

あれだけさゆゆと仲が良かったリュウヤが、この子を似てないなんて思うわけがない。

その反応は不自然すぎるだろ。

そして、その棒読み、何かあると疑うには充分な大根役者だ。


「怒らないから、何があったか吐いて」


 俺たち――サダヒサも含めて――は全員裁縫女子に正座させられると、これまでの事情を吐かされるのだった。


「そっか。それは仕方ないか」

「そうだよね。ずっと心配だったよね」

「リュウヤの気持ちに気付いてあげられなくてごめんね」

「そんな事情ならば、容認するでござるよ」

「「だよね」」

「離れを建てて良かったじゃん。

あの声も聞こえないだろうし、問題ないっつーの」


 いや、さちぽよ、そこまで容認するって話じゃ……。

え? 皆、良いの?

皆もうんうんと頷いている。案外理解のある女子たちだった。


「だけど、赤Tはアウトだよね」

マドンナちゃんと陽菜ガングロちゃんにフラれたからって、性奴隷はないわー」

「マジ引くわー」

「隷属魔法が赤Tに紐づいているのは問題だよ」

「ヒロキくん、隷属魔法使えたよね?

契約者を赤Tから私に替えてくれないかな」


 うわー、女子たちは、やはり赤Tに関しては容赦ないか。

これでも赤Tの魔族化回避には有効な手立てなんだぞ。

だけど裁縫女子よ、女性奴隷の契約を付け替えてどうするつもりなんだ?


「それは出来るけどなんのために?」


「この子の意志を知りたいからね。

赤Tとの契約に縛られてたら、本当の事が言えないでしょう?」


 そうか。癒しは嫌々ならば効果が出ないと思われる。

隷属魔法で従わせて無理やり抱いていたら、逆に闇落ちポイントが溜まるってもんだ。


「つまり、この子が良ければ容認するってことか」


「そう」


「わかった」


 俺は裁縫女子の言い分に納得して隷属魔法を使った。


「これで裁縫女子との隷属契約になったぞ」


 本来ならば奴隷商以外の隷属魔法使用は違法らしいが、俺は独立国の領主扱いなので問題ない。

云わば俺がこの独立国の法だからだ。


「じゃあ、そうね。お名前は?」


「ヨハナといいます」


 ヨハナが裁縫女子の命令に即答する。

隷属契約は上手くいっているようだ。


「正直に答えなさい。

この男に抱かれても平気かしら?

いいえ、違うわね。

この男を愛せる?」


「頼む! 俺には癒しが必要なんだ」


 赤Tも必死に懇願している。

あれだけ娼婦にモテなかった現実が、さすがに赤Tを卑屈にしていた。

これを逃したら一生嫁が来ないかの勢いがある。


「えーと。

口減らしで親に売られて、酷い扱いを受けるのは覚悟してました。

正直に愛せるかと言われても困りますが……。

そうだ、お嫁さんにしてくれるなら大丈夫です」


「だそうよ。赤T。

お嫁さんにしてあげる?」


「俺で良いのかよ」


「喜んで。

お嫁さんになるのは、奴隷としては最高の扱いなんですよ?」


 ヨハナが赤Tの嫁となることが決まった。

幸せな事だ。


「この子泣かせたら殺すからね」


 撤回。裁縫女子という恐ーい小姑つきだった。


「そうなると、俺の方も訊ねてもらわないとな」


 赤Tの方が片付くと、リュウヤが声を上げた。

そうか、さゆゆ似だからといって、当たり前のようにリュウヤとくっつけるわけにはいかなかったか。

先程も言ったように、嫌々抱かれていたら、逆に闇落ちポイントが溜まるかもしれない。

それだけは避けなければならない。

いや、似てるだけで嫁にしては、さゆゆに申し訳ないと、そっちで暗黒面に落ちかねないか。

これは難しいところだぞ。


「リュウヤ、彼女はさゆゆの代わりではない。

そこはしっかり理解して扱ってあげられるか?」


「ああ、そうだな。

もしさゆゆが見つかったとしても、気持ちが揺れてはいけないのだな」


「リュウヤ、その覚悟があるならば、隷属先は替えない。

自分で命じて本心を訊ねてみるんだ」


 俺はあえて隷属先を替えなかった。

そこでリュウヤの覚悟を見ようということだ。


「命令だ。嘘偽りのない本心を話せ。

まず名前は?」


「クララです」


 一応、ステータスを確認すると間違いなくクララだった。

そして、この子、変わったスキルを持っているぞ。


「俺には心に思っている女性がいる。

それでも俺の癒しになってくれるか?」


 リュウヤ、そこまで正直に言うか。

それでは断られても仕方が無いぞ。


「騎士様の本当の顔、初めて見てから優しそうな男性だなって思ってました。

言わなくても良いことを正直に言ってくれてありがとう。

第2夫人で良いのでお願いします」


「ありがとう」


 そう言うとリュウヤはクララを抱きしめた。

アツアツなカップルといえよう。

そして、彼女にはマドンナの下位互換の【癒し(低級)】というスキルがあった。

低級スキルだが、リュウヤにとってはプラスとなることだろう。


 それにしても、第2夫人でも奴隷あがりならば逆玉に等しいのか。

この世界は男女比率のせいで一夫多妻が常識だからハードルが低いんだな。

リュウヤはヤンキーが抜けたおかげで元々好感度が高い。

これで全て問題なしだろう。


「でも、さゆゆがどう思うかね」


 裁縫女子が不吉な事を呟いたが、リュウヤには聞こえていないようだ。


「大丈夫。私たちだってそんな常識は持ってなかったけど、上手くやれてるから」

「「「「「ねー」」」」」


 俺の嫁5人も仲が良くてよかったよ。

もし、さゆゆを助けられたら、きっと納得してくれることだろう。

リュウヤの闇落ちを防いでくれるんだからな。

これで懸案事項は……。

あ、それどころじゃなかった。

さゆゆを手に入れたアーケランド王家がまた勇者召喚をしたかもしれないんだった。

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