第383話 所属替え

 カドハチに街の現状を訊ねると、ある意味想定通りな話が飛び込んで来た。


 ディンチェスターの街が王国アーケランドから見捨てられ、隣国エール王国軍に占領されるのを容認されたという予想は事実だった。

住人にとっては圧政さえされなければ、上がどちらに変わろうが関係がない。

だが、隣国エール王国軍を引き込む囮とされ、王国アーケランド軍に攻められるという今回の作戦だと、住人まで巻き込まれるのは必定だった。


「やはり囮だと?」


「領主のオールドリッチ伯爵軍まで退かされております。

だから、門番も街の者がやっている始末なのです」


 あの門番が入街税も取らなかったのは、そういった事情によるものだったらしい。

税は領兵がとって領主に行くものであるから、今の街には関係ないということだろう。

尤も、回りまわって街のインフラ整備などには使われていたはずだが、今ご丁寧に徴税しても、それが街に使われることはないだろうからな。


「オールドリッチ伯爵は納得しているのか?」


 伯爵は、この街を良く治めていた慕われる領主だった。

略奪行為を行った上位貴族のバカ息子と対立したこともあった。

こんな住人の犠牲を顧みないような作戦を容認するわけがない。


「伯爵様もアーケランド貴族ですので、納得していなくても従わざるを得ないということでしょう。

それに少なくとも橋の再建には数か月かかるはずですしね。

その間にどうにかしたいと仰っていました」


 ああ、その予定、俺がぶち壊してるわ。


「カドハチ」


「はい」


「橋ならもう直った」


「は?」


「俺たちが何処から来たと思っている?」


「あ! まさか!」


「そうだ。直った橋を渡って来たんだよ」


「つまり隣国エール王国軍が来ると!

直ぐに街の者たちを逃がさなければ!」


 カドハチが慌てる。

この街が隣国エール王国に占領されれば、住人は確実に巻き添えを食う。

逃げたい者は、この猶予期間に逃げるはずだったのだ。

呑気に娼館が営業していたのも、この猶予期間があるからだったのだ。

尤も、元々隣国エール王国民だったために、逃げる宛てがなく残るしかないという事情を持つ住民が大半だったのだが。


「待て。隣国エール王国もこれ以上の戦いを望んでいない。

既に停戦命令が出ているので、この街はずっと放置されたままだろう」


「となると、この街は隣国エール王国に占領されないし、アーケランドによって戦場にもされないと?」


「そうだ。そこでカドハチには俺たちの拠点まで、今までのように物資を運んでもらいたいのだ」


「それはさすがにアーケランドに睨まれてしまいます」


 やはり今のままではカドハチも隣国エール王国の占領地経由で俺たちと商売を続けるとは行かないようだ。

だからこそ俺は所属替えの提案を持って来たのだ。


「そこで商業ギルドの所属替えを頼みに来たのだ」


 商業ギルドは国を跨いだ独立組織なので、商いの自由は本来保証されているはずなのだ。

だが、その国の商業ギルド所属であれば、その国の税率で納税の義務が発生する。

本来商いは自由なはずが、何かあった時にその税をコントロールされてしまうと、困ったことになるのだ。

そのため、対立国とも商いをするような状況では、アーケランドの商業ギルド所属でいるよりも、外国の商業ギルド所属の方が、自由に商いをすることが可能となるというわけだ。

まあ、最終的にはアーケランドにもいくばくかの税を納めることにはなるのだが、国を跨いだ他国の商業ギルド所属ならば、その税率を妨害目的で上げるということが出来なくなる。

つまり他国の所属ならば、商会がどこと商いをしようとも邪魔が出来ないようになるのだ。


 では、なぜ最初からそのようにしないのかなのだが。

これは所属国への税と、店を構えた国への税で、余計に税金を払うことになるからなのだ。

妨害を受けるような状況に無ければ、店を構えている国の商業ギルドに所属すれば、税金が安く済むというわけだ。


「なるほど、その手がありましたか。

ですが、さすがに隣国エール王国の商業ギルド所属はまずいですな。

農業国も現在交戦国となってしまっている。

後は……」


「うちだな」


 そこにサダヒサが割って入った。


「もしや、そちらの方は?」


「ああ、皇国の者だ。

我が皇国ならば、アーケランドに仮想敵国とされてはいるが、さすがに直ぐに戦は起こせん」


「なるほど、むしろ兵力を減らした王国アーケランドが今一番揉めるわけにはいかないのが皇国でしょうな。

その話、受けさせていただきましょう」


 カドハチは俺たちのために所属替えを受け容れてくれた。

しかし、そのためには税金が余計にかかる。


「無駄にかかる税金は俺のところで持つからな」


「何を仰りますか!

そんなものは必要ありません!

それはシャインシルクの取引でいくらでも賄えますから、これからも提供し続けててくださいよ?」


「それは保証しよう」


 シャインシルクが売れないと、うちの財政も困るからな。


「皇国所属となれば、シャインシルクの販路も広がる。

これは更なる商会の発展が見込めますよ」


 こうして、カドハチの所属替えも決まり、近日中に俺たちの拠点にもカドハチ便が復活することだろう。

これで女子たちに怒られないで済みそうだ。


「ちょっと良いか?」


「ん? リュウヤたちか」


 手代のケールに連れて来られたのは、娼館に行ったはずのリュウヤたちだった。

早いな。もう終わって帰って来たのか?


 だが、その2人の後ろには隠れるように女の子がいた。

その見た目で一瞬のうちに理解した。


「ちょっと、その子たちはまさか!」


「ああ、勢いで買ってしまった。奴隷だ」


 まずい。明らかに性奴隷だろう。これは女子たちお怒りパターンだ!

赤Tならば娼婦を身請けして来るぐらいはあるかと思っていたけど、リュウヤまで奴隷を買ってくるなんてどうして?

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