第379話 男たち

 時間は少し遡る。

リュウヤたちが模擬戦を口実に、ヒロキと離れて赤Tを連れ出したところ。


Side:リュウヤ金属バット


「さあ、試合おうではないか!」


「おうよ!」


 資材置き場となっている空き地の脇にやってくると、赤Tとサダヒサが模擬戦を始めた。


「いや、そうじゃないだろう!」


 こいつら脳筋か!

サダヒサは当初の予定をすっかり忘れて模擬戦を始めてしまっていた。


 俺とサダヒサが赤Tを連れ出したのには理由があった。

それは、赤Tの魔族化を阻止するための手立てとして、娼婦を抱かせようというものだった。

まさか、あのゴブリンを常食としていたことが、魔族化の原因となるとは思ってもいなかった。

俺たちは、サバイバル生活の食糧難で毒持ちのゴブリンを食べてしまっていたのだ。


 俺たちだってバカじゃない。

いや大バカだったな。雅やんに毒見役をさせたのだから。

俺たちは雅やんに無理やりゴブリンを食わせ、人体実験をして安全性を確かめたのだ。

今思うと、なんというバカなことをしたのだろうか。

だが、毒見役の雅やんには毒耐性があったそうで、その影響が無かったことが彼にとっては唯一の救いだろう。


 そんなバカなことをした罰だろうか、俺たちはゴブリンの毒が身体に回っていて、きっかけがあれば魔族化してしまいかねない身体になってしまっていた。

パシリはその毒と自らの悪事により招いた闇落ちによって、魔族化が始まってしまった。

しかも魔族化に失敗し、意志の無い化け物と化すところだったそうだ。


 青Tの恋人であるハルルンが、その魔族化を発症したことで、俺たちはその恐ろしさを体験することになった。

ヒロキたちの身を削った献身的な努力によりハルルンは助かった。

そして、その魔族化を回避するためには、男女の愛による癒しが有効だと、俺は知ることになる。


 そこで問題となったのが、俺たちゴブリンを食べていたグループの者たちだった。

全てのメンバーに魔族化の危険性があったのだ。

青Tはハルルンとの愛でお互いに癒されて助かったようだ。

パツキンとミニスカも問題ない。

さちぽよとガングロクロエもヒロキとくっついたようだ。

あいつ、大人しい顔して嫁が5人もいるのだ。

この世界、甲斐性さえあれば嫁を複数持つことは推奨されている。

ヒロキはそれだけの甲斐性があるスゲーやつだということだろう。


 話が脱線した。

けしてヒロキが羨ましくて爆死しろと思っていたわけではない。

問題は俺と赤Tにだけ相手が居ないということなのだ。

俺は恋人のさゆゆを助けることが出来ればと思っていたのだが、やはり奴隷として売られたという話は事実のようで、王城にさゆゆは居なかった。

なんとか助けたいが、手がかりが無さすぎる。

だが、その前に魔族化が始まってしまうと困るので、俺も対策を必要としていたというわけだ。


「さすが、赤の勇者殿であるな」


「おまえこそ、勇者の子孫つーのは伊達でねーな」


「「わはははは」」


 どうやら模擬戦が終わったらしい。

2人は肉体言語で語り合うことで、旧知の友のようになっていた。


「さて、赤の勇者殿」


「赤Tでーぞ。皆そう呼ぶ」


「では、赤T殿、親睦の宴として女でも抱きに行こうぞ」


 サダヒサのやつ、ただ脳筋で模擬戦をしていたわけではないのか!

自然な流れで娼婦を抱きに行こうと誘っている!


「いや、それは……」


 だが、赤Tが困惑の顔になっている。


「どうされた? まさか操をたてている女性でもいるのであるか?」


「ははは、まあな。

俺には心に決めた女がいんだよ。

マジでちょー美人なんだぜ」


 おい、赤T、それはまさか。


「待て。それはマドンナのことか?」


「ああ、それ以外に誰がいる?」


 やっぱりそうか。こいつ人妻を横取りするつもりか?

それはNTRとか不倫というんだぞ。


「マドンナはもう人妻だろうが! 諦めろよ!」


「え?」


 その赤Tの顔は、リアルに信じられないという雰囲気だった。

先程の模擬戦直後と違って目のハイライトが消えている。

どうやら赤Tは現実逃避のうえ、一時的に記憶を失っているようだ。


「しっかりしろ! 正気に戻れ!」


 俺が赤Tの肩を掴んで揺さぶると、赤Tの目に光が戻った。


「そうか。くそっ!

もう、あいつの妻になってんだったな。

じゃあガングロと縁りを戻すからーってばよ」


 残念、もうそれも無いんだよ。

恋人がいるのに他の女に気が行っていたら見捨てられるに決まってるだろ。


「ガングロもヒロキとくっついたぞ。

恋人を放ってマドンナを追いかけたらどうなるか、さすがにお前でも解るだろ」


「ムキーー!!!」


 やれやれ、困ったやつだ。


「パシリと魔物食の話は聞いているだろ?

誰かに癒してもらわないと、赤Tも危ないのだぞ」


「そうか、そんで娼婦を抱けっつーのか」


「気持ちのある相手の方が効果があるらしいがな。

だが、ここの従軍娼婦は嫁狙いの本気が多いそうであるぞ」


 サダヒサがここぞとプッシュしてくれる。


「サダヒサ、マジか!」


 赤Tが単細胞で助かる。


「よし、3人で行くぞ!」


 俺も危ないんだ。娼婦に一時の癒しを与えてもらおう。


 ◇


「ちくしょー! なんで全員が拒否してくんだよ!」


 赤Tが怨嗟の叫びをあげる。

どうやら、新国境砦建設の責任者なのに、仕事をサボっている話が娼婦に伝わり、この現場1番の不良債権という噂となっていたようだ。

それは赤Tが勇者だと言われていても嘘だと思われて評価に繋がらなかった。


「あんなバカが勇者のわけないじゃないですか!」


 サダヒサを相手した娼婦がそう言っていたそうだ。

そして、リュウヤが異常にもてたことを付け加えておこう。


「こうなったら、隣街を奪って手柄をたてるしかねー。

最悪、隣街の娼婦に相手をしてもらえばいーんだからな」


 こうして赤Tはヒロキを睨みつけて、隣街を侵略すると言い出したのだった。

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