第368話 漫画化

 別邸とはいえ同じ敷地に同居することになった薔薇咲メグ先生、その出版間隔からしたらそんなに忙しくないだろうと、そろそろ情報共有してもらおうとしたのだが……。


「誤解があるやもしれんが、我らは薄い本しか出版していないのではないのだぞ?」


 先生は自ら執筆し、自ら編集印刷し出版するスタイルだが、その本の複製は魔法で行っているため、案外楽そうだ。

即売会ペースの薄い本だけならば、そこそこ暇があるはずなのだが、他にも執筆しているライフワークがあるという。


「おぬしらが知りたいのは、アレックスやアーケランドのことであろう?

ならば、これを読むが良い」


 それは厚い本だった。

その表紙には、『落ちた勇者』と書いてあった。

それは、アレックスこと魔王となった勇者の物語だった。


 ◇


 アーケランドに召還された日本人たちが、アーケランドに騙されて戦争に駆り出され戦いに明け暮れる。

勇者の職業ジョブを得たアレックスは王家を信じて戦う。

だが、王家に不信感を持って離脱する仲間たち。


『なぜ正義のために戦わない!』


 それをアレックスは裏切りと怒り、仲間を粛清してまわる。

しかし、その行為がアレックスを暗黒面に落とした。

さらに食生活として魔物を常食としていたため、魔物毒が蓄積していた。

癒しの手段を持たなかったアレックスは、ついに魔族化してしまい魔王となる。

魔王化して初めてアレックスは自分が王家に軽い洗脳をされていたことに気付く。

怒りのアレックスは、魔物を率いてアーケランドに対して戦いを挑むこととなった。


 アーケランド王家は、残った召喚者を名義的な意味で勇者と呼び、魔王の討伐を命じた。

本来勇者とは勇者ジョブを持つ者だけを言うのだが、その勇者が魔王化してしまったので、仕方がなかったのだ。

その中に生産職だった薔薇咲メグ先生もいた。

先生も魔族化が進行していたが、趣味の世界が癒しとなり半魔で踏みとどまっていた。

おかげで王家の洗脳が解けて、多少の破壊工作を残して、先生は逃げることに成功する。

それ以来アーケランドでは生産職を忌み嫌い冷遇するようになったという。


「先生、何をやったんだ?

生産職が忌み嫌われる原因って……。

しかし、これをわざわざ描くという事は、先生も自責の念があるのだろうな」


 召還勇者たちを失ったアーケランドは、次の勇者召喚を行なう。

その中に勇者ジョブを持つ真の勇者が存在した。

勇者ジョブは魔王への特効を持つ。

勇者は魔王を退治するために特化した職業ジョブなのだ。


 魔物を引き連れたアレックスが王都に迫るも、仲間と連携した勇者にアレックスは討たれ、物語は終わる。


「実話ベースの漫画化作品?」


 しかも、この物語、一歩間違えば俺の物語だ。

俺には癒しが、嫁に仲間がいた。

おかげで魔族化の兆候は無い。

魔物毒も摂取していない。

アーケランドとは敵対したが、新たな勇者召喚の儀は一時的だが妨害に成功した。


 わからないのは、転生してまでアレックスが何をしたいのかだ。

王家に対する恨みならば、アーケランド王家を滅ぼせば良い。

わざわざ忌み嫌うべき勇者召喚を行なったのはなぜか?

そこが理解出来なかった。


「先生、面白かったです。

歴史を漫画で残すことが先生のライフワークなのですか?」


 俺は先生の仕事場に『落ちた勇者』を返却しに行った。

そして、これが薄い本以外のライフワークなのではと問いかけた。


「ふん、まあそんなところだ。

次巻に『皇国の勃興』があるが読むか?」


「読ませていただきます」


 そこにはアーケランドに攻め込まれボロボロになった皇国、そしてまた寝返った勇者とその家臣の物語が描かれていた。


「ああ、これが俺の遠い親戚とサダヒサの先祖か!」


 先生の作品を読んで判ったのは、アーケランドは昔から勇者召喚をして他国を侵略していたこと。

いつも勇者に裏切られていること。

この世界での勇者召喚の時系列と、召還される者たちの時系列は前後すること。

これは先生たちが俺たちの2年前ぐらいの現代の日本から召還されているのに百数十年前のこの世界に召還されたこと。

その次代の勇者が戦国時代から召還されたことが作品から読み取れる。


 先生がアーケランドの元を離れたのがアレックスが魔王化した100年前ぐらい。

それを倒した女性勇者が、その後アトランディア皇国を助け、後に皇家入りしている。

なるほど、アーケランドを敵視して戦闘民族化するわけだ。


 先生の勇者召喚の儀の描写は、結構間違っていた。

つまり先生は、勇者召喚の儀の現場を見たこともないのだ。

その召還の方法などは多少の情報は持っているようだが、その魔法陣の配置や数など、想像の範囲でしかないようなのだ。


 先生に召喚の儀の事を訊いても俺たち以上の情報は無さそうだ。

それとアーケランド王家に関することも100年前の知識であり、現第二王女に勝るものはないだろう。


 あとは世界情勢的なことが判ると良いのだが、そこはサダヒサからでも訊ける。

そういえば、あいつは何処だ?


――――――――――――――――――――――――――――――


あとがき


 アレックスの物語を長々とやることも出来たのですが、ここはダイジェストでいこうと、薔薇咲メグ先生の漫画化作品を主人公が読むという感じにしてみました。

他の作家さんは、ここらへん結構過去篇とかで掘り下げたりするのですが、長々とやる需要はありますか?

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