第369話 魔物食の危険性

 お知らせ


 読者の皆さま、368話あとがきでの質問に、沢山のご意見有難うございました。

ほぼダイジェスト肯定の意見で良かったです。

端折り過ぎたかなと思って、ちょっと不安になってしまいました。

外伝でやるといったアドバイスも参考になりました。

そして、説明し足りなかった部分も気付かせていただき、皆さまには感謝です。


――――――――――――――――――――――――――――――


「美味い! こんな美味い魚、どこから持って来たのだ?」


 薔薇咲メグ先生は、アシスタントのミレーヌさんの作るご飯よりも結衣のご飯をいたく気に入ったようで、毎食うちの食卓に現れていた。

そして何気なくされたその質問が一波乱呼んでしまった。


「魔物の海水魚を庭で養殖しているんですよ。

マグロなんてこんな巨大さなんですよ」


 俺が手を広げてマグロの大きさを示しながら答えると、先生の手から箸が落ちた。

そして、怖い顔になると説教を始めた。


「お主らも魔物食の危険性は知っておるはずであろう!

いくら癒しがあっても魔物毒を過剰摂取しては意味がないのだぞ!」


 その剣幕に俺と結衣はきょとんとしてしまった。

その俺たちの様子に、まるで理解出来ていないのかと、先生が更にヒートアップする。


「アレックスはアーケランドに大切に育てられた真の勇者であった。

その奴が、なぜ魔王化したと思う!」


 そういや、魔物食が危険と知りつつ、なぜアーケランドは勇者に魔物を食わせたのだ?


「たしかに、昔は魔物食の制限も緩かった。

我らも人型は忌避し、危険だと特定された魔物には手は出さなんだが、街に出ればオークは食うし、その程度は問題ないことが明白であった。

そんな環境では、野営などになれば我らも街の者達と同じものを普通に食した。

ところが、一見美味そうな魔物がむしろ危険であったのだ」


 つまり、先生は、街の人が食べていたとしても危険な食材がある、この魚が危険かもしれないと言いたいのか。


「ああ、うちで出る料理は全て安心ですよ。

結衣には【食材鑑定】のスキルがあって食材に魔物毒が有るか一目瞭然だし、俺の【浄化】でも細菌毒や魔物毒はある程度除去出来ます」


 俺がそう説明すると、先生は過剰に怒ってしまったことにばつが悪くなり、顔を赤くして恥じ入ってしまった。


「そ、そうか、ならば良いのだ。

魔物毒には気を付けるに越したことはないからの」


 だが、そこまで気を付けていながら、なぜアレックスは魔王化まで行ってしまったのだ?

当然、仲間殺しという罪による影響がきっかけではあっただろう。

だが、先生ですら半魔となるような原因は何だったのだ?


「先生、アレックスが魔王となり、先生が半魔となった原因は何ですか?」


「ドラゴンの肉だ」


 俺のその質問に、先生は即答した。

結衣の【食材鑑定】にかければ危険だと判るし、あえてドラゴンの肉を食べることはないだろうが、それでも伝える必要があるという事だと思う。


「我らは無知が故に食してしまったが、意図的に食う者もおるのでな。

あえて警告させてもらおう」


 そして、先生は食卓に居る全員を見回して、絶対に食べるなと釘を刺してから話し始めた。


「我らは食べてはいけないという魔物をアーケランドから教わっておった。

だが、それは不十分なものであったのだ。

なのに無知な我らは、食べてはいけないと言われたもの以外は、全て食べても良い・・・・・・・・と勘違いした。

それがドラゴンの肉だった。

ドラゴンなど誰も倒せない、故に食べるななどとは言われていなかったのだ」


 なるほど、アーケランド側もまさかドラゴンを倒して食うとは思わなかったということか。

常識として誰も出来ないことを、警告する意味がないと思われていたのだろう。


「巷では、ドラゴンの肉は極上に美味いとか、ドラゴンの肉により不老長寿が得られるなどの噂が流れておった。

そんな折、我らはドラゴンを倒すことが出来てしまった」


 だが、そこは精鋭の勇者パーティーということか。

想定外に強く、ドラゴンも倒せてしまったのだろう。


「食用として禁止されていない魔物、美味い、不老長寿、そんなことを耳にしていて、若い我らが食してしまうのは必然であった」


 ああ、日本でも人魚の肉で不老長寿が得られるという伝説があったな。

だが、人魚の肉は毒で、食べたほとんどの人間が死ぬか化け物化するって話。


 あれ? これって魔物食の話に当てはまるぞ。

魔物食で魔物毒が蓄積したうえで闇落ちすると魔族化する。

その時に魔族化が失敗すると化け物になったり死に至る。

だが、それに耐えられた者は、魔族或いは半魔となり寿命が伸びる。


「アレックスと我は、一見何の変化も無かった。

だが、勇者パーティーの1人――戦士の男は魔物化が始まり、それに失敗し化け物と成り果てた」


 パシリに起きた変化がまさにそれだ。

あれは魔族にも半魔にもなれていなかった。

あのまま進めば知性を失い化け物になったということなんだろう。


「それに衝撃を受けた我らは慌てて自らのステータスを確認した。

そこでアレックスは魔王に、我は半魔となっていたというわけだ。

我が半魔に留まったのは食した肉の量のおかげであった。

美味い美味いと大量に食した戦士は化け物となり我らが処理することとなった。

我らは生き残れたとはいえ、不老長寿のためなどと安易に手を出すのではないぞ!」


 そう言うと先生は、安全な魚料理に舌鼓を打った。

いかにも魔物の四脚鶏のフライドチキンも美味しそうに食べている。

この温泉拠点には結衣が居て良かった。

サバイバル初期から食用になるかどうか、結衣が判断してくれていた。

こんな幸運なことは無い。

ただ、ヤンキーチームはゴブリン食を続けていて魔物毒の蓄積がある。

ドラゴンの肉など食べたら、一気に魔族化してしまう可能性もある。


「不老長寿には、病を治す力もあるのですか?」


 セバスチャン青Tが先生に訊ねる。

そこはちょっと興味があるな。


「不老長寿には、死に近付く病を掃う効果がある。

我も怪我などは一瞬で治ってしまうぞ」


「そうですか……」


 俺たちはセバスチャン青Tの思い詰めた様子に気付いてあげるべきだった。

セバスチャン青Tが訊ねたその意味を良く考えるべきだったのだ。

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