第365話 先生が生きていた

大樹ひろきくん大変!

薔薇咲メグ先生の新作がある!」


 瞳美ちゃん、とりあえず落ち着け。

何やら一大事のようだけど、その薔薇咲メグ先生というのが解らないぞ。


 俺が「???」を頭に出しているのに気づいたのか、瞳美ちゃんが追加で説明をしだす。


「同人作家で行方不明になってた、あの先代勇者かもしれないっていう薔薇咲メグ先生だよ!」


 ああ、あの薄い本の作者か。

そんな名前を聞いたことがあるような気もするが、すっかり忘れていた。

てっきりキャバ嬢配信者かなんかかと思ったぞ。


「ここの本屋さんが薄い本の愛好家で、新作をいち早く入手できるルートを持っていたの。

その新作が届いたばかりなんだって!!!」


 つまり、その同人作家先生は、生存していて新作を発表し続けているということか。

薄い本が複製されてから、この国エール王国まで輸送されて、届くのにどれだけ日数が経っているかわからないが、少なくとも直近までの生存が確認されたわけか。


「その薄い本は、どの程度の印刷技術で出版されているんだ?」


 手書き複写、版木による印刷、どれも工程が多すぎて、下手すると年の歳月がかかっているだろう。


「たぶん。魔法。

それもギフトスキルだと思う。

こんなに綺麗な複写、薔薇咲メグ先生の自筆オリジナルとしか思えないもん」


 薄い本は、羊皮紙というインクが滲み易い媒体に、日本の印刷技術も真っ青な複写がされているらしい。

その技術は異常、そのためギフトスキルによるものという判断になったそうだ。


「つまり、魔法で複写されたならば、輸送時間以外はそんなに時間が経っていないということだな」


 これは明らかに同人作家先生は生きているぞ。


「薔薇咲メグ先生を温泉拠点で保護するべきです!」


 瞳美ちゃんが熱弁するのも無理はない。

いまアーケランドは、召喚の儀の適合者を欲している。

その適合者には召喚勇者が含まれている。

もしも、同人作家先生がアーケランドにいるならば、直ぐにでも連れ戻されている可能性がある。


「待て、その先生の居場所は判るのか?

保護するといっても、そこがまたアーケランドだと手遅れだぞ」


「先生は農業国にいるらしいの。

でも、そこはノブちんたちが戦ったアーケランドとの国境近くだったの」


 なんと間が悪いことか。

そこには真の勇者と呼ばれ、ノブちんたちですら手にかけた委員長がいるではないか。

ノブちんたちを手にかけた理由は、おそらくレベルアップのため。

強力な召喚勇者を手にかけることで、自らのレベルを上げようということだと思う。


 リュウヤとアマコーを支配下に置いたのも委員長だったのだ。

なんのために?

当然、あの先代勇者アレックスに対抗するためだろう。

だからアレックスは委員長ことアーサーを遠ざけたのだ。

当然、召喚の儀には利用しない。いや、出来ない。

そう思ってまだ安心していたが、同人作家先生で関わりになろうとは……。


「その件は一旦保留ね。

そこはいま正にアーケランドの真の勇者ことアーサー卿が支配している。

ノブちんと栄ちゃんを殺した勇者だ。

そこに向かうのはリスクが高い。

皆と話し合う必要がある」


 アーケランド王都強襲組は真の勇者が委員長だったと知っているが、拠点留守番組にはあえて知らせていない。

そのため、留守番組の嫁たちは真の勇者がノブちんと栄ちゃんを殺したことは知っていても、真の勇者が委員長だとは知らないのだ。

これは、遠征組の皆で話し合って、あえて教えない方が良いとの結論に達している。

委員長に好意を持っていたらしいオスカルバレー部女子もドン引きしたぐらいなので、残っている女子たちには酷だという判断だった。


「そっか、アーケランドの最強戦力がいるんじゃ難しいね」


「まあ、同人作家先生本人と連絡がついて、向こうから来てくれるならば大丈夫かもしれないけどね」


 俺は落胆する瞳美ちゃんが可哀そうで、つい助け船を出してしまった。


「そっか、その手があったね。

本屋さんと話してくる♪」


 瞳美ちゃんは満面の笑顔で店主のところへ行ってしまった。

ここは嫁のため、俺も一肌脱ぐしかないかもしれない。

いま、俺たちは丁度エール王国にいる。

農業国は、その南にあたる。

同人作家先生を農業国東部のアーケランド国境近くまで迎えに行くには好都合だった。


 だけど、メンバーは選ばないとならないぞ。

瞳美ちゃんをはじめとする嫁ーずに裁縫女子は論外。

紗希とクロエ、不二子さんぐらいしか連れていけないな。

いや、コンコン経由で腐ーちゃんを呼ぶか。

腐ーちゃんならば、同人作家先生の顔も知っているだろう。

瞳美ちゃんを連れていくより戦力になる。


『コンコン、腐ーちゃんを呼んでくれ』


 俺は早速コンコンに念話をつなげた。


『おっけー』

『呼んだよ』


『なんでござるか?』


 コンコンと視覚共有をして、腐ーちゃんだけなのを確認した、

腐ーちゃんの声はコンコンの念話経由で伝わって来る。


『こちらの言うことをそのまま伝えてくれ』


『わかった。こちらの『それは良い!』てへっ』


 コンコンさん、そこで残念は出さないでくれ。


『同人作家の『薔薇咲メグ先生!』そう、その先生がみつかりそうだ』


 腐ーちゃんが食い気味に同人作家先生の名前を口にする。

そうだ、薔薇咲メグ先生だった。


『その薔薇咲メグ先生だが、その所在地がいま正にアーケランドに占領されている農業国の国境地帯らしい。

瞳美ちゃんが書店店主に言って先生と接触しようと「当然救出作戦には参加するでござる!」うわっ!』


 そう言っている最中に、腐ーちゃんが俺の横に現れた。

まさか転移してきたの?


「腐ーちゃん、転移か!?」


「おお、成功したでござる」


 どうやら、腐ーちゃんは闇魔法を極めたことで、【転移】スキルが生えたようだ。

それが薔薇咲メグ先生救出と聞いて、実力以上を出してしまったのだ。

まさか腐ーちゃんも、まだ転移出来るとは思っていなかったそうだが、クロエからはいろいろコツを聞いて準備していたようだ。

それにしても、俺にもクロエにも出来ない、来たこともない場所への転移。

腐ーちゃんの薔薇咲メグ先生に対する思い、侮りがたし。


「連絡手段を聞いてきたよ!」


 そこに瞳美ちゃんが戻ってきた。

薔薇咲メグ先生の身に危険が迫っていると聞いて、書店店主も快く教えてくれたそうだ。


「あれ? 腐ーちゃん、なんでいるの?」


「薔薇咲メグ先生の危機とあらば、馳せ参じるのが当然!」


「やった! 一緒に先生を救出に行けるね!」


 いや、瞳美ちゃんは連れて行けないよ?

ポカンとしているサダヒサを連れて、俺は皆との合流を急いだ。

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