敵は王国を操る魔王か

第359話 隣国の教会に行く1

 カドハチに預けている金はもったいないが、向こうからも物理的に来れないし、こちらも敵地となってしまって訪問できないのだから仕方がない。

それに教会で職業を得た方が、ステータスアップに職業補正が付いて有利なんだそうだ。

皆にも早く職業を取らせてあげたかったのだが、訪問する予定だった隣国エール王国との交渉がやっと纏まったと思ったら、王国アーケランドと開戦してしまったため、教会訪問が後回しになってしまっていたのだ。


隣国エール王国に行って教会で職業を得ようと思います。

なので、既に職業を持っているメンバーはお留守番です」


 妻ーずのストレス発散のための買い物三昧ツアーがあるのだが、それは隠しておこう。


「横暴だ! どうせついでに買い物でもしてくるつもりだろう!」

「そうだ。そうに決まってる!」


 ベルばらコンビ、こんな時だけやたら勘が良いな。

その嗅覚の鋭さ、恐ろしい子たち。


「これは温泉拠点の防衛も兼ねているので、留守番は強制となります!」


「俺たち元王国勇者組も職業持ちだから、防衛は任せておけ」


 ベルばらコンビがゴネようとしたところを、リュウヤが割って入った。

こうまで言われてしまうと、ベルばらコンビも遊びに連れて行けとは言えないものだ。

温泉拠点は自分たちで作り上げて来たという自負があるから、自分たちが守りに残らないなどと言うわけにもいかなくなったのだ。


「教会での職業授与は隣国エール王国王都訪問の時に済ませて来たから、せっしゃも残るでござる」


 腐ーちゃんも王国へ使者として行った時に職業を得ていたようだ。

そういえば、赤Tが紛失した隣国エール王国宛ての親書だが、赤Tが火魔法を使った時に懐に入れていた親書を燃やしてしまったらしい。

内容が内容なので、俺たちが隣国エール王国と繋がっている証拠となるものだけに、落して王国アーケランド側に渡るなどということが無くて良かったよ。


「となると、隣国エール王国の教会訪問メンバーは、俺、結衣、麗、瞳美、裁縫女子、紗希というところか」


 今回は眷属の遠隔召喚を利用した疑似転移だから、麗も空の旅とならないので安心して遠出できるのだ。


「私は職業があるけど、連れて行って欲しいな」


 クロエが手を挙げて同行を求めて来た。


「クロエだけ遊びに行くのは許せないぞ!」

「そうだ。ずるいぞ!」


 早速ベルばらコンビが抗議する。


「いいえ、これは云わば任務ですから。

隣国エール王国に転移起点を確保すれば、何度でも転移可能になるから、後で助かるでしょ?」


 確かにクロエが隣国エール王国に行けば、クロエの【転移】スキルで行き来が出来るようになる。

それは確かに必要な任務だよな。


「そうだな。クロエが隣国エール王国まで転移できるようになれば、後で買い物に行くのも楽になるな」


「「どうぞどうぞ」」


 ベルばらコンビ、さすがに自分たちの得になる情報には聡い。

あっさりクロエの同行を認めやがった。

今回訪問予定の場所は、隣国エール王国の国境砦の向こう側にある街だ。

俺とベルばらコンビが一度行ったことがあるのだが、国境砦を通行した形跡が無くて怪しまれてしまった、あの街だ。

そこまでの距離ならば、クロエも1回で転移することが出来るだろう。


「安心しろ。

俺たちが帰ったら、希望者を募ってクロエに連れて行ってもらうようにするから」


「「わかった! 留守番、任せておいて!」」


 あれだけゴネていたベルばらコンビも納得した。

これで心置きなく出掛けられるな。


「ところで、隣国エール王国のお金なんて持ってるの?」


 爆買いする気満々の裁縫女子が目をギラギラと輝かせながら訊ねる。

そういや、お金、無かったな。


「アーケランドのお金が両替できるはずだけど、このご時世だと敵国の貨幣はレートが低いかもな。

ノブちんに農業国のお金を預けておいたけど、それは農業国での買い物用だし、ノブちんがああなってしまったし……」


 あのお金は無かったことになりそうだな。


「また何か売って稼ぐしかないかな?」


「じゃあ、シャインシルクを持って行くのね?」


 俺たちが一気に稼ぐには、シャインシルクが一番効率が良い。

だが、俺はシャインシルクは売れないと思っている。


「いや、魔物素材だな。

戦時中だし、シャインシルクを買う余裕が隣国エール王国には無いかもしれない。

魔物素材ならば、戦時中こそ高く売れるはずだ」


「ならば、武器なんかも高く売れるわよね?」


 ああ、素材で持ち込むよりも加工品の方が高く売れるか。


「作って」


「はい?」


 裁縫女子、何を行ってるんだ?

この出発準備で忙しい時に武器を作れと?


「錬金術スキルを実用レベルまで上げてるのはヒロキだけでしょ?

作 っ て」


 裁縫女子が俺を名前呼びして来たぞ。

俺もあやって呼んで良いのかな?

とにかく裁縫女子の圧が凄い。

なんとしてでも爆買いしたいということだろう。


「はい、作ります」


 俺は頷くしかなかった。

出発は明日だけど、俺は徹夜で武器を作らなければならないだろう。


「一応、シャインシルクもハンカチ程度は持ち込むからね」


 それが売れるならば、武器は……はいはい作りますよ。

武器は作らなくても良いよねと言おうとしたら、めちゃくちゃ睨まれた。

どうやら、女子たちの物欲がピークに達しているようだ。

このストレスの解消は円満な共同生活には不可欠だろう。

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