第358話 王女の処遇

 尋問を終えたため、洗脳の必要がなくなった第二王女は洗脳を解いて捕虜として温泉拠点に連れて来られていた。

洗脳されていなくても逃げることは叶わず、アレックスの魔の手から逃れるためには、むしろ王女本人は俺たちに保護されたいと思っているようで、素直に俺たちに従っている。


「つまり、王国アーケランドの王族を根絶やしにすれば、勇者召喚は出来ないってことでしょ?

王女を生かしておく必要があるの?」


 さすが裁縫女子。そこに気付いたか。

王女によると、王族抜きの召喚勇者適合者だけでは召喚の儀は出来なくなるという話だ。

一番帰還したがっていた裁縫女子が、この結論に至るとは思わなかった。


「召喚勇者も適合者だけど、王族の参加が必須らしいからそうなるね」


「だけど、もし元の世界に帰る方法がみつかった時に、王族が居なくなってたら終わりだよ?」


 紗希サッカー部女子、そうなんだよ。

そのために保険王女が必要だと俺は思っているんだ。


「そう。少しでも帰還の可能性があると考えると、王族は残さざるを得ないんだ」


「それでその王女を殺さずに連れて来たってわけ?」


 結衣さん三つ編み女子、浮気男を見るような目はやめてください。

俺にはこれっぽっちもそんな気はないからね?


「ヒロキくんは無自覚で女を増やすから心配」


 瞳美ちゃんメガネ女子、そう言う君もいつのまにか増えたくちだよ?


「王女ちゃんを取り返さなくても、ここの誰かが攫われたら同じなんでしょ?

ならば無駄に殺す必要はないよね?」


 マドンナの言う通りだ。

向こうに王族が残っている限り、適合者であるこちらの誰か同級生でも代わりと成り得る。

王女を殺したら、こちらが安全になるとは言えないのだ。


「それで帰還のための保険で王女が必要って話に戻るわけだよ」


「しかたないわね。捕虜として受け入れます」


 温泉拠点の主、結衣さんが納得してくれた。


「ただし、監禁用の牢屋を作ってもらいますからね?」


 確かに、王女にそのまま屋敷をウロウロさせるわけにはいかないか。

王女は洗脳をかけなくてもほぼ危険性はないが、むしろ王女を守るために監禁せざるを得ない。

アーケランドの王族により恋人を傷付けられたり失っている同級生もいるんだからな。

いくらアレックスの洗脳下にあったとはいえ、明確に罰しているという格好は必要だろう。


「わかった。別棟にするか、屋敷の部屋を改装するかどっちが良いかな?」


「管理面では屋敷の部屋だけど、心情的に同じ屋敷は無理って人もいるかもだから別棟かな」


「ならば隔離塔を建てるよ」


「カリ〇ストロ城のクラ〇スの部屋でござるな」


 そう、カリ〇ストロ城のクラ〇スの部屋みたいな塔の上の隔離部屋だな。

ラプ〇ツェルと言わないのが腐ーちゃんらしい。

そのまま降りて逃げることが出来ない高さで、渡り廊下でしか辿り着けないやつ。


「管理は利害関係にないメイドの子に頼むことにするわ」


「それで問題ない」


 やっと結衣の顔が和らいだ。

もしかして、俺が王女に会いに行くと本気で疑われていたのだろうか?

たしかに王女は美人だけど、あのアーケランドの王族だぞ?

ないわー。

これは今夜も思いっきり可愛がってやるしかないな。


「皆も、いろいろ思う所はあると思うが、それで勘弁してくれ」


 青Tは恋人のハルルンを奴隷に売られて酷い目に会わされている。

リュウヤ金属バットも恋人のさゆゆを奴隷として売られて、彼女は未だ行方不明だ。

パツキンは恋人のミニスカを勇者召喚の儀式で殺されかけた。

さちぽよ、クロエも洗脳されて手駒として戦わされていた。

俺たちだって殺されそうになったり、勇者召喚のせいで命がけのサバイバルをさせられている。

誰が王女に殺意を持っていてもおかしくない。

王女の牢屋への監禁は必須だった。


「さすがにアレックス1人でここを攻めるなんて暴挙はないはずだ。

万の単位の王国アーケランド軍が来ても、ここは守り切れると自負している。

リュウヤたちも合流したから戦力アップしているしな」


 リュウヤとパツキンのために別棟も建てたしな。

さすがに不二子さんへのセクハラを見てしまうと女子たちが納得しないからね。


「そうだ、男湯も拡張しないとな」


「待って。家族風呂はあのまま残して、男湯は離して別に造ってよね?」


 あの女湯の横に造った俺用風呂(サポーター限定SS001で出ています)が、いつのまにか家族風呂ってことになっている。

確かに妻ーずと一緒に入ったけど、あれが男湯じゃだめなのか?

青Tもハルルンと使ってたよね?


「あれが男湯じゃ「「駄目に決まってるでしょ!」」はい、すみません」


 結衣と麗にユニゾンで怒られた。

俺は速攻で謝るしかなかった。


 どうやらヤンキーチームの男子には信用が無いらしい。

それは修学旅行事件という話の長い理由があってのことだった。

青Tは当時からハルルンとラブラブだったために、事件に関与していなかったらしい。

そこが対応の分かれ目となっているようだ。


 こうして俺は王女隔離用の塔と、屋敷とを繋ぐ渡り廊下、そして男湯の増設に汗を流すこととなった。

当然その間に温泉拠点の防衛強化の手筈を整える必要があった。


「もしかして、俺ばっかり働いてない?」


「気のせいよ。私たちも服を作ったり料理したりしてるでしょ?」


「そうれはそうだけど、俺だけ重労働じゃね?」


「「私たちは、夜に重労働させられてるの!」」


 すみません。また洗脳を使ったり解除したりして癒しが必要だったんです。

いままでは、これぐらい許容してくれていたのにな。

ちょっとカリカリしているようだな。


 あれか。王国アーケランドと揉めて、橋が落ちて、カドハチ便が来なくなったせいで妻ーずたちにストレスが溜まっているのかもしれない。

生活に必要な物資も減っていくし、これは買い物に連れて行く必要がありそうだな。

だが、さすがに交戦国の街――ディンチェスターはまずい。

そうなると隣国エール王国の街で買い物かな。


「そうだ、教会でジョブを得なければならないし、一度隣国エール王国の街へと買い物に行こうか」


「「「本当?」」」


 妻ーずどころか裁縫女子たちも食いついた。


「遠隔召喚を利用した疑似転移が出来るようになったからね。

一度行っている隣国エール王国の街や王都、農業国にも行くことが出来る」


 あ、農業国は王国アーケランドと交戦中か……。

しかもノブちんと栄ちゃんが……。

ここは選択肢から外さざるを得ないな。

それに米とかの実用的なもの以外、あまり目ぼしい物が無かったしな。


「空を飛ばなくて良いなら大歓迎だわ」


 麗が殊の外喜んでいる。

そういえば、彼女は偽貴族問題や侯爵軍との交戦で、ずっと留守番していて外の街で買い物をしたことが無いかもしれない。

ストレス解消とジョブを得るために、買い物ツアー決定だな。

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