第356話 王女尋問2

「適合者は6人、第1王女が懐妊で出来ず、真の勇者が農業国で不在。

つまり残り4人で勇者召喚は行なえるということか?」


 俺がショックで立ち直れないため、リュウヤが尋問を引き継いでくれた。

一方通行の勇者召喚の被害者をこれ以上出したくないという思いからだろう。


「末の妹はスキルが育っていなくて、召喚の儀式に耐えられないと思われ、参加を禁止されています。

ですが……」


「犠牲にすればやれるってことだな」


「はい」


 リュウヤが言う「犠牲にすれば」とは、末妹を使い捨てるということだ。

ミニスカやロンゲを平気で生贄に使ったアレックスの残忍さからすれば、それぐらいしても不思議ではない。

末妹を犠牲にすることで勇者を30人――俺たちの時と同じとすれば――召喚することが出来れば、召喚の儀式に使える駒が30人増えるのだ。

やつアレックスならば、1人の犠牲で30人手に入るとなれば、問題ないと考えかねない。


「お願いします! 妹を助けてください!」


「自分に都合の良いことばかり言うな!」


 第二王女の身勝手さにパツキンが怒り出す。


「あの召喚魔法陣で生贄にされかかっていた者たちは200人近くいたぞ。

それらの半数は儀式が進行していて亡くなっていた。

ロンゲだって、それで死んだんだぞ!」


「そうだよ。

あの儀式を行なうには、また200人の生贄を集める必要があるんでしょ?

あんた王女には、その犠牲者に対する責任がある。

あの人たちを何処から連れて来たんだよ?」


 アンドレバレー部女子が生贄が集められなければ再儀式不能だと指摘する。

なるほど、次の召喚までは人集めにしろ時間がかかるというわけだ。


「あの者たちは罪人です。

死罪となる人間を有効活用しただけなのです。

なので、集めるまでは確かに時間がかかるはずです」


 第二王女が、生贄は罪人で死んで当然という言い方をする。

その罪人を集めるのに時間がかかるはずだと主張したが、果たしてそうなのか?

その第二王女の発言にパツキンが黙っていなかった。


「ちょっと待て。 死罪となる人間? 罪人だと?

ミニスカの何処が罪人だ!

恋人の俺が裏切ったからか?

そんなの真っ当な裁判の結果じゃないだろ!」


 つまり、国が濡れ衣でも良いから罪人に仕立て上げれば、いつでも生贄は集められるということだ。

第三王女を犠牲にする可能性のあるアレックスが、手段を選ぶとは思えない。


「クールタイム2時間。

やろうと思えば勇者召喚の儀式は終わっているな」


 リュウヤが手遅れだと悔しそうな顔をする。

まさか、クールタイム中の安全策のための距離が仇となるとは……。


「どうする、他の眷属を使って遠隔召喚で戻ることは可能だぞ。

だが、逃げる時にその場に眷属を置いて来なければならない」


 俺が眷属を家族のように大事にしていることは皆知っているため、その選択には躊躇した。


「待って。さっきは取り乱して妹を助けてと言ったけど、さすがにアレックスも短期間で勇者召喚は出来ないはずです。

彼は前の勇者召喚の時に、何らかの影響があって倒れました。

今回も発動寸前まで行って、その影響がないわけがありません」


 その影響に俺は心当たりがあった。


「そうか、闇落ちか!

王女、あんたは儀式後に体調に影響は出るのか?」


「いいえ。私たち王族は召喚に対応した特殊なスキルを持っているので何もありません。

ただ、スキルが育っていない妹は、影響が出てしまうと参加を禁じられていたのです」


 200人を犠牲にする儀式。

その影響を王族が受けていないのならば、アレックスが全て背負い込んでいるのだ。

それが召喚の儀式でアレックスが倒れる原因。

例え失敗しようとも、その影響が出ている間は再び勇者召喚はしない。

いや、出来ないと見て良いだろう。


「2時間後、クロエの【転移】で召喚の間に戻る。

そこで召喚魔法陣を破壊し、眷属遠隔召喚で全員で逃げる。

これで次の勇者召喚まで時間が稼げる、いや二度と出来なくする」


「召喚の魔法陣を破壊してしまうのか?」


「元の世界に戻れないのならば、新たな犠牲者を召喚させたくない。

猶予がないならば、破壊するしかない」


 この決断を俺が逃げる前にしておけば良かったのだ。

あの時の俺は、王女を攫ったことで、召喚が出来なくなると思っていた。

それとまだ調べれば帰還の手段があるのではないかという考えが頭の隅にあった。

次は必ず破壊する。

そう胸に誓って時を待った。


 ◇


 2時間後、クールタイムが明けた。


「クロエ、眷属も一緒に【転移】出来るか?」


 そこで俺は気付いた。

オトコスキーたちも、クールタイムが終わってることに。

つまり、連れて行けば遠隔召喚で戻って来れる。

クロエの【転移】の人数制限は余っている。

ならば、眷属も一緒に【転移】できるのではないかと。


「やってみる」


 クロエが何やらブツブツと呟いている。

転移先のイメージを固めて転移の準備をしているのだろう。


「あ、だめだ。

転移先がイメージ出来ない」


「まさか!」


 俺も遠隔召喚であの地下室や、騎士団の出撃門をイメージしてみた。


「ああ、何らかの妨害が入ってるね」


「王都の中が全部だめだよね?」


 どうやら、遠隔地からは明確な座標イメージがとれないような妨害が、王都全域にかけられているようだ。

さすがに国の首都なのだから、転移攻撃の対策はされているか。

俺たちが王都内で転移や召喚が出来たのは、自分がその場にいるという強い座標イメージがあったからだったのだ。


 そのおかげで俺たちは王都手前までしか転移することが出来ないと判明した。

また同じ潜入方法をとることも対策済みだろうし愚策だろう。


「残念だが、既に追手が迫っている可能性が高い。

今回はミニスカを助けられたことで初期の目標は達成している。

作戦中止。撤退だ」


 俺たちには、召喚魔法陣の破壊を行なうことは叶わなかった。

だが、元の世界への帰還を諦めきれないメンバーたちにとっては、そのことが微かな希望として残されたのだった。

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