第355話 王女尋問1

 クロエの【転移】はクールタイムに2時間を要する。

俺の遠隔召喚も同じ眷属を遠隔召喚するためにはクールタイムが2時間かかる。

つまり、その場から再び【転移】するためには、2時間の猶予が必要となる。

そこで俺たちは、追手の最速移動手段で2時間以上かかる場所、それよりも遠い地点を撤退集合地点と定めていた。

もしここに2時間留まることとなっても、追手が辿り着く前に再び【転移】が使えるようになるということだ。


 まあ、俺が新たな眷属を召喚して遠隔召喚で転移するという運用をすればクールタイムは無視出来る。

だが、眷属を眷属の付属物扱いできないという縛りがあった。

俺の疑似転移は、眷属の付属物と化し、遠隔召喚に巻き込まれて転移するという方法だ。

つまり、それが眷属同士では出来ないため、その場にはクールタイム中の眷属を置いて行かなければならないのだ。

今回だと不二子さん、コンコン、オトコスキー、ラキが該当する。

そんな眷属を危険に晒すようなことは断じて出来ない。

そのため、2時間で追手が追い付けない距離に撤退集合地点を定めたというわけだ。


 俺は周囲を見回し、全員が無事に退避出来たことを確認し、ラキの眷属纏を解いた。

召喚魔法陣に全裸で生贄にされていたミニスカも、腐ーちゃんがアイテムボックスから出した服を着て休んでいる。

腐ーちゃんは【スキル限界突破】も取得したので、スキル数が20にまで増えていたため、【アイテムボックス】のスキルを持つことが出来たのだ。

スキルは本人のレベルが上がり育ってくると、勿体ないためおいそれと新しいスキルと交換するということが難しくなるのだ。


 クロエと腐ーちゃんが先に転移していて良かったよ。

その次がパツキンとさちぽよ、ベルばらコンビ、そして不二子さんにコンコンだ。

パツキン以外が全員女性だから、ミニスカも恥ずかしくなくて良かったよ。

いや、もう1人男がいたのだが……。


 実はロンゲは助からなかった。

召喚魔法陣に生命力を吸われ容体が悪化して、転移した時点でもう既に息をしていなかったのだ。


「このまま死なせてやってくれ」


 パツキンの願いに誰も異を唱えることが出来なかったという。

再起不能状態、既に息をしていない。

その状態から無理やり生かす魔法的な処置は出来たかもしれない。

だが、パツキンもその場に居た皆も、ロンゲを楽にしてあげたかったのだ。


 ロンゲは俺との闘いで雷化した漏電部分が実体化して残されていた。

それは生物として生きているとは言い難い状態だったという。

俺も、その時点で経験値が入って来たため、ロンゲは死んだと確信していた。


 だが、この魔法世界では、そんな状態から欠損部分を修復してしまう高位回復魔法や高位回復薬が存在していた。

そこから復活をとげたロンゲが、竜人の情報を王国アーケランドに齎したのだ。

だが、その復活は完全なものではなく、ロンゲは再起不能状態で生かされ続けていたのだ。

あの召喚勇者を手駒のように消費しても気にしない王国アーケランドがだ。


 その目的が、今回の勇者召喚の儀式で明らかになった。

新たな勇者召喚のための生贄。

そのために生命力や魔力が高品質である召喚勇者が最適だったのだ。

ロンゲが王国アーケランドに生かされたのにはそんな理由があったのだ。


「ここまで早く召喚勇者を消耗したのは初めてだったの。

だから生産職勇者を奴隷に売るなんて勿体ないこともしたのよ」


 これらの情報はリュウヤが攫って来た王女がペラペラ喋ってくれた。

2時間のクールタイムに、俺たちは王女を尋問したのだ。

王女は洗脳状態だった。

それを俺の洗脳で上書きすることで、くびきが外れて何でも話してくれるようになったのだ。


 背広の男は、先代の召喚勇者だった。

先代の召喚勇者は10名居たという。

その中で生産職だった者を除く8名が戦争に駆り出されたのだそうだ。


「薔薇咲メグ先生は!」


 生産職の話題が出ると、腐ーちゃんが話に割って入った。

どうやら有名な同人作家さんが先代勇者にいて、安否を心配しているようなのだ。

その質問に王女はそっと目を伏せた。

同人作家、絵が上手い、などの情報から誰のことかを察し、どうなったのか言い淀んだのだろう。

その様子から、腐ーちゃんは薔薇咲メグ先生の生存を絶望するしかなかった。


 先代勇者の一部が王国アーケランドのやり方に不満を持ち、逃げ出して野に下ったが、背広の男が粛清して回り、ほとんどが殺されているという。

それから背広の男の恐怖体制が始まった。

彼は魔物を使役し、他国を侵し成果を上げ、いつのまにか王も妃も彼の言いなりとなっていた。

そして王女も彼に降嫁することとなったのだった。


「洗脳をしていたのは背広の男だったのか」


「彼の名はアレックス。勇者アレックス。

でも、彼のジョブは魔王だったのよ」


 俺の他にも魔王のジョブを持つやつがいたのか。

いや、後天的に魔王のジョブが育つこともあり得る。

オトコスキーがアレックスを魔王様と呼んだのはそういうことか。


 王国アーケランドが元々ゲスだったのは間違いない。

召喚勇者を消耗品の武力として扱っていたのだからな。

それをいつのまにか洗脳で乗っ取ったのがアレックスということか。


「勇者召喚を多人数で行うならば学校が最適だって言い出したのもアレックスよ。

学生ならば御し易いとも言ってたわ」


 つまり、俺たちはアレックスの手駒として狙われて召喚されたわけだ。


「でも、その召喚は失敗、彼も影響を受けて暫く動けなくなっていたの」


 それで俺たちは魔の森でサバイバル生活となったわけか。

あれは生きるか死ぬかで酷いものだったが、王国アーケランドに囲われて手駒とされるよりはマシだったのかもしれない。

いや、それにより多くの同級生を亡くしているのだ。マシだなんて言えない。


「勇者召喚が一方通行だというのは本当か?」


「ええ、私たちもその方法は知らないし、アレックスが調べたけど、無理だったそうよ」


 アレックスは、一方通行だと理解していながら、俺たちを召喚したのか。

そして、また新たな犠牲者を呼ぶ寸前だった。


「そうだ、召喚の儀式には4人の制御担当が必要みたいだが、他にも出来る者はいるのか?」


「召喚の儀式が出来るのは王家の人間と召喚勇者だけ。

いま王国アーケランドには適合者が6人残っているわ」


 なんてこった。

王女がいなくても召喚の儀式が出来るということではないか。


「アレックス、アレックスに降嫁した姉、父王、叔父宰相、下の妹、そしてジョブに真の勇者を持つアーサー卿ね」


 ちょっと待て。

なんか重要な話が2つあったぞ。


「アレックスの嫁は王女あなたではないのか?」


「ええ、私は第二王女。アレックスに降嫁したのは第一王女よ。

姉は妊娠中で召喚の儀式は出来ないわ。

だから私がすることになったのよ」


 つまり、第一王女は今は召喚の儀式が出来ないということか。


「それと真の勇者のジョブを持つアーサー卿って?

真の勇者が先代勇者のアレックスではないのか?」


 アが付く名前だから混同していたが、どうやら別人らしい。


「アーサー卿は、あなたたちと同じ時の召喚者のはずよ?」


 ちょっと待て。人数が合わないぞ。

俺たちは全員で31人。

まだ俺たちが把握していないもう1人がいるのか?

あの場に居て人数にカウントしていないのは……教師か!


「たしか、本名はイシダだったかしら?」


 イシダ? 石田? 知らないな。教師はそんな名だったか?


「委員長! 生きていたのか!」


 リュウヤが口にしたあだ名に俺は愕然とした。

あの時、委員長の制服から見えた白い骨。

死んだとばかり思っていた委員長が生きていた。

しかも、ノブちんと栄ちゃんを殺したのが真の勇者。

真の勇者が委員長ならば、2人を殺したのが委員長?

なんで? どうして?


「アーサー卿のジョブはアレックスのジョブの天敵・・

だから外に出して農業国を攻めさせているわ」


 俺はそのショックで立ち直るのに時間がかかり、その重要な言葉が耳に入らなかった。

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