第349話 ミニスカ救出作戦2

「問題は真の勇者の【支配】スキルか」


 リュウヤ金属バットが支配されていたとなると、彼以上のレベルだということだ。

委員長が持っていた【統率】は支配系スキルだったが、当時レベルが上だった俺には効いていなかった。

それが支配系スキルの制限であり最大の弱点だろうと思われる。


「今ならばまだ王都まで帰って来ていないかも、という可能性に賭けるしかないんじゃね」


 パツキンが楽観論を言いたくなるのは理解できるが、現実問題としてそれは危険だと思う。


「移動手段が走竜ならば、最速で戻って来てしまっている可能性を否定できない」


「案外、占領政策で現地に残っているかもしれないじゃん」


「かもしれないで、参加メンバーを危険に晒すわけにはいかない」


「くっ、何か良い方法はないのか!」


「そうだ、効き目は保証できないが、状態異常回復の魔導具を用意しよう。

【支配】が状態異常の症状であるならば、1回は回復可能だ」


 俺の【洗脳】で上書き出来たという事は、【支配】は状態異常である可能性が高い。

あ、そうならば、状態異常回復の魔導具で【洗脳】も回復してしまうのでは……。

いや、真の勇者の【支配】は、王国アーケランドの【洗脳】を消せていなかった。

【洗脳】は状態異常だけではないということだろう。

まあ、【洗脳】が解けても、ヤンキー成分が戻るだけだ。

俺たちが築いた関係は壊れないと思う。

性格的に面倒臭くはなるだろうな……。


「その魔導具が発動した印はつけられないか?

その印が出ていたら、誰であっても支配されたものとして対処するんだ」


 リュウヤの要望は、非情なものを感じさせた。

それだけ支配が恐ろしいということだろう。


「それは可能だ。

発動したら色が変わるようにしよう。

ペンダントトップにして見えるところに首から下げておけば良いだろう。

色は……青から赤に変わっていたら作動済みだ」


「もし俺が【支配】されていたら、迷わずに討て」


 リュウヤ金属バットが真剣な目で俺に頼み込んで来た。

そんなことはしない。俺が再洗脳すれば元に戻るからな。

だが、軽くでも洗脳していることを本人に知らせるのはどうなんだろうか。

リュウヤも元に戻りたいんじゃないだろうか?


「その時はなんとしてでも正気に戻してやるよ」


 俺はその負い目で再洗脳のことをリュウヤに話すことが出来ず、そう言うのが精一杯だった。


 あとは、撤退用の魔物卵でも用意しておくか。

眷属化しないでばら撒けば、王国アーケランドに混乱を齎すことが出来るだろう。

その混乱に乗じれば、召喚の秘密まで手を伸ばせるかもしれない。

いや、二兎を追う者は一兎をも得ずだ。

ミニスカとロンゲの救出だけを考えよう。


 王国アーケランドへの道のりは、クロエの【転移】を使っても数日はかかるだろう。

それを逆算して魔物卵の孵る日にちを設定しないとな。

時間経過庫での日数調整が大変だぞ。


 ◇


 状態異常回復の魔導具を作ったり、出発の準備を最速で行なった。

いよいよ出発の時だ。


「私たち服飾組から皆にプレゼントがあるわ」


 裁縫女子が人数分の服を持って来てテーブルの上に広げた。

それはお揃いの青い制服だった。


「これはクモクモの糸で織った耐刃耐魔法繊維の服よ。

パーカーのフードを被れば冑の代わりにもなるわ。

鎧がある人は鎧下にしてね。

女子はミニスカートだけど、ロングタイツで脚をカバーするようにしたからね」


 その制服は、それだけで鎧並みの防御力があるものだった。


「金属バットやパツキンの分は急ごしらえだけど、他と全く遜色ないはずよ。

クロエのは、体格が似ているマドンナちゃんのだけど我慢してね」


 裁縫女子は、そんな制服を短期間で全員分用意していてくれていたのだ。

俺たちの分は以前から作っていたようだが、リュウヤたちの分は急いで仕上げたのだろう。


「ありがとうな」


「私に出来ることはこんなことだけだから」


「いや、助かる。充分な働きだよ」


 俺がそう言うと裁縫女子は照れたように笑った。


「胸の所が緩い……」


 1人だけクレームを入れている奴がいたが放っておこう。

そこは触れてはいけないデンジャラスゾーンだ。


「改造制服じゃねー!!!」


 もう1人いたか。

だが、パツキンよ。それって鎧の下になるから外から見えないぞ。


「絶対領域がない……」


 なにかブツブツ言っている腐ーちゃんが恐い。

あ、タイツを捲って太腿を出した。

そうすると、そこには防御力がなくなるぞ?

え? 矜持の問題? すみませんでした。


「食事もいっぱい作ったから、アイテムボックス持ちに分散して持ってもらったから。

保存食もマジックバッグに入れたから、はぐれてしまったらそっちを食べてね」


「ありがとう」


 結衣たち調理組も最高の食事を用意してくれた。

これでいつでも温かい食事が出来る。


「それじゃあ、出撃するか」


「まずは私が全員を転移させるね」


 クロエは何らかの制約で王城内への転移が出来なくなっていた。

しかし、王国アーケランド王都の近くまでの転移は可能だった。

そこまで一気に移動出来るのはありがたかった。


「よし、出撃!」


 俺たち――俺、ベルばらコンビ、腐ーちゃん、さちぽよ、リュウヤ、パツキン、クロエ――8人はミニスカとロンゲ救出のために温泉拠点を出撃した。

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