第348話 ミニスカ救出作戦1

「だが、パツキンが寝返ったという情報が王国アーケランドに齎された場合、人質のミニスカがどうなるかわからないぞ。

ミニスカが戦えると言っても赤Tに対抗できるほどの力もない。

今ならば真の勇者を自称するやつ以外に戦える勇者は残っていないはずだ」


 リュウヤ金属バットの指摘は俺たちに焦りを齎した。

女子たちにとっても、ミニスカはおバカだが愛されキャラではあったのだ。

皆、助けたいという気持ちは同じだった。


隣国エール王国が停戦交渉をしたはずだが、その時パツキンのことをどう報告したかだな」


「そもそも負けた事実は王国アーケランドに把握されてるんだよ!

それだけでミニスカがどうなるかわからない」


 パツキンの悲痛な叫びが響き渡る。

さすがに王国アーケランドも残った数少ない勇者を無駄にしないと思いたいが……。


「もしかすると……いや、まさか……」


 俺はあることの危険性に気付いてしまった。


「何よ? はっきり言いなさいよ」


 裁縫女子が俺の呟きに気付いて後を促す。

ここは、あの秘密も含めて言うしかないか。


「皆には言ってなかったが、勇者召喚には人命が使われている。

これを伝えると帰還を躊躇する者が現れると思って黙っていた」


「「「「!」」」」

「そんな……」

「「「……」」」


 俺が伝えた事実に驚愕で声の出ない者、帰還の望みが絶たれたと絶望の声を上げる者、ある程度知っていたのか黙り込む者、それぞれ違う反応を見せる。

まあ、皆がその意味を受け止められないだろうとは思っていた。


「こんなことを暴露したのは、その勇者召喚が新たに行われる危険があるからだ。

王国アーケランドは、今、召喚勇者のほとんどを失った。

じゃあ、どうする?」


「次の勇者を召喚する……」


「そうだ。

その時に人命が必要になったら、どんな人物から使う?」


「犯罪者とか、王国アーケランドで用済みになった……」

「そんな!」


「ああ、ロンゲとミニスカが生贄になる可能性がある」


 俺の推測に皆が黙り込んでしまう。

おそらく召喚の儀で使われるのは人の魂なり魔力なりだろう。

そうなると、強い魂とか魔力持ちが重宝されるわけだ。

2人は条件に当てはまり過ぎている。


「くっ! 早く助けに行かないと!」


 焦りの声を上げたのは、恋人が危険に晒されているパツキンだ。


「だが、1人――いやロンゲ入れて2人か――のために何人が身の危険を晒すことになる?」


 リュウヤ金属バットがパツキンを嗜める。

その表情は悔しさを滲ませていた。

助けに行きたい気持ちと、迷惑をかけられないという気持ちが鬩ぎ合っているのだろう。


「だけど、その勇者召喚の現場を押さえれば、勇者召喚の秘密が手に入るのよね……」


 裁縫女子が誰に聞かせるでもなくそう呟く。


「でも、帰るために、誰かの命を犠牲にしなければならないんでしょ?

そんなの耐えられない。それならここに残った方がマシよ!」


 瞳美が吐き捨てるように言う。

やはり帰りたい気持ちが残ってたんだな。


「だが、俺たちが平和に暮らすためにも、かかる火の粉は掃わなければならない。

その時に人命は失われる。

ならば、その人命を使って帰還することも同じではないのか?」


 王国アーケランドの非道を知る青Tの言う事も理解できた。


「新たな勇者が呼ばれれば、ここを攻撃してくることになるだろう。

ならば、今戦うしかないのではないか?」


 バスケ部女子の指摘が珍しく的を得ている。

だからこそ、阻止しなければという気持ちにさせられる。


「ずっと戦わなければならないならば、今決着をつけるべきかも」


 バレー部女子がバスケ部女子に同意する。

この2人はベルばらコンビで仲が良いこともあるが、本質が似た者同士で意見が合うのだ。


「私は帰還しなくても良いと思ってる。

王国アーケランドが危険なら、温泉拠点ここを捨ててヒロキと別の国に逃げても良いと思ってるわ」


「結衣……」


 たしかに王国アーケランドと接していて攻められ易い温泉拠点ここに執着する必要は無いか。

もしかすると、先代勇者たちも、そうやって他国に逃げてひっそり暮らしているのかもしれない。


「そうか、逃げる手もあるんだ……」


 戦う気満々だったベルばらコンビも結衣の意見でトーンダウンする。

だが、それは帰還を諦めるということだった。


「そうだよな。平和に暮らしたい者まで巻き込むわけにはいかない。

俺とパツキンだけで救出に行こう」


「リュウヤ、それでは……」


 俺は死地に向かう友を見捨てるような気持ちになった。


「しゃあない。私も行くよ。

私の転移があれば、王国アーケランドへの侵入も簡単じゃん」


 クロエが同行を名乗り出た。

たしかにクロエの転移ならば、王国アーケランドの警戒網の後ろ側へと転移出来る。

ミニスカとロンゲの救出だけが目的ならば、作戦の成功率はかなり上がるかもしれない。


「戦う力がいるなら、さちも行くしかないよね?」

「ならば私も行こう」「私もだ」


 さちぽよに続き、ベルばらコンビも参加を表明した。

どうやらクロエの参加で作戦の成功率が上がったと判断したようだ。


「私は行けない。足手まといだもの」


 裁縫女子はそれで良いと思う。


「仕方ないでござるな」


 腐ーちゃんも行く気だ。

ここで俺が行かないなんて選択肢があるか?


「結衣、麗、瞳美、すまない。

俺も行こうと思う。

3人には温泉拠点ここの留守を守ってもらいたい」


「わかってるんだよね?

ヒロキが居なくなったら、皆を不幸にするって」


 結衣はそう言うが、俺の参加を止めなかった。


「ああ」


「絶対帰って来てよ?」

「死んじゃやだからね?」


 麗と瞳美も送り出してくれるようだ。


「救出作戦に限れば、成功率は高いと思う。

失敗したら転移で帰ることも出来るんだ。

必ず帰って来る」


「「「待ってるからね」」」


「紗希は女子たちの護衛に残ってくれ」


「全く、僕の行動を予測したね?

これじゃ行くって言えないじゃないか」


 うん、紗希は行くって言うと思ってた。

だからそう言って残すことにしたんだ。

紗希なら断れないからな。


「青Tもハルルンがいるんだから残れ」


 残ると言い出しにくい青Tには、あえて命令を出す。


「すまない。留守は任せてくれ」


「皆、ミニスカのためにありがとうな」


 パツキンが男泣きする中、俺たちはミニスカ救出作戦を実行することとなった。

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