第347話 アーケランドとどう戦う?

 俺たちが飛竜から降りると、屋敷の玄関前が騒ぎになっていた。


「パン屋さん、ストップ!」


 俺の目に入って来たは不法侵入者としてパン屋さん食人植物に捕まったパツキンの姿だった。

リュウヤ金属バットも棍を抜いて触手と対峙している。

2人とも頬に紅葉マークをつけている。

どうやらセクハラで不二子さんにビンタされたようだ。

そのダメージで弱った2人を、パン屋さんが不法侵入者として襲ったというところらしい。


「危なかった。食われるとことだった!」


 触手から解放されたパツキンが汗をダラダラ流しながら呟く。

屋敷前には自宅警備員が根を張っていることを忘れてたよ。


「ちょっと、ヤンキーを連れて来たの?」


 裁縫女子が怪訝な顔で出迎えた。


「マドンナちゃんのことも考えてよね?」


 マドンナはヤンキーのパシリにレイプされそうになってPTSDの症状がある。

それを心配しての発言だが、それは少し過保護な言い様だ。

マドンナは、俺の妻となったこと、セバスチャン青Tが仲間になって無害と認識したことで、随分と症状が緩和しているのだ。


「金属バットとパツキンは、彼女持ちだから安心だと思うぞ?」


 セバスチャン青Tもハルルンという彼女がいるため、問題なく打ち解けている。

彼女持ちならば問題ないだろう。


「でも、不二子ちゃんに対するセクハラを見ると不安だわ」


 ああ、不二子さんに抱き着いて、鼻の下を伸ばしてたからな。

これは早急にミニスカを助けて、さゆゆも探さないとな。


「彼らも、しばらく滞在することになるが、直ぐにでも王国アーケランドの王都に向かうことになるはずだ。

それまでは我慢してくれ」


「やっぱり勝っても戦争は続くのね」


「ノブちんと栄ちゃんが王国アーケランドの勇者に殺された」


「え? うそ……」


 俺がそう伝えると、裁縫女子もショックを受けたようだ。

ノブちんたちとは少なくない期間共同生活をしていた。

裁縫女子なんて、小中とずっと同じクラスで過ごした幼馴染になる。

その2人が殺されたのだ。ショックを受けないわけがない。


「本当だ。真の勇者を名乗るやつに農業国が攻められて……。

だから王都まで叩きに行かなければならないんだ」


 そのためにリュウヤ金属バットとパツキンには協力してもらう必要がある。

マドンナのPTSDは心配だが、それ以上に彼らの協力を必要としているのだ。


「その援軍が彼ら2人なのね」


「そうだ」


「わかったわ。受け入れましょう。

ただし、住む家は分けてもらいますからね?」


 どうやらリュウヤとパツキンは女子から信用されていないようだ。

セクハラ的な方向の話で。


 裁縫女子は目に涙を浮かべながら、女子たちの所へと向かった。

きっとノブちんと栄ちゃんのことを伝えるんだろう。

人の死に慣れて行く。

どうして召喚勇者同士が殺し合わなければならないんだ。

勝手に召喚して、俺たちは王国アーケランドの駒じゃないぞ。

王国アーケランド王家だけは許してはならない。


 ◇


「第何回だ? 家族会議を開きます。

今回の議題は、対王国アーケランド戦争です」


隣国エール王国が現状維持を条件に停戦しました。

しかし、俺たちは王国アーケランドのやり口を許せません。

王国アーケランドの戦いを、どのように俺たちだけで継続するかを話し合いたいと思います」


「日本に還るには、いつか王国アーケランドは倒さないとならないのよね?」


 裁縫女子が口火を切る。


「そうだね。召喚の秘密を暴いて、帰還できるのか探る必要がある。

そのためには、王家を打倒しなければ無理だと思う」


「帰還の望みはあるんですか?

薔薇咲メグ先生も帰れてないんですよ?」


 瞳美メガネ女子が言っているのは、先代の召喚勇者のことだ。

有名な同人作家さんで、ずっと行方不明だそうだ。

その新作がこちらの世界で発見されたことで、こっちに来ていることが発覚した。


「あー、そうなると、死んだら帰れるみたいなものは無いってことだね。

それに王国アーケランドが召喚者を帰すわけがない。

利用したいだけだからな」


 さちぽよたちによると、同人作家さんのような人が王城で囲われているという話はなかったそうだ。

先代勇者は真の勇者以外亡くなったとも言われていたらしい。

本当に亡くなっているのか、俺たちのように関係を絶てたのかはわからないが、日本に帰ったという情報は少なくとも持っていないということだった。


「生産職はハルルンたちみたいに不遇な扱いらしいし……」


 王国アーケランドから逃れた先代勇者、そこはさゆゆ捜索も含めて探してみる価値はあるかもしれないな。


「とにかく、今の戦力では、王都を跡形もなく破壊は出来ても、王家に召喚の秘密を話させる手段がみつからない」


「王家の非道を訴えて、貴族を離反させるとか?」


 紗希がまともな提案をする。

おそらくオールドリッチ伯爵のようなまともな貴族の存在を知っているからの発言だろう。


「それもありか。全てが悪い人たちではないと思いたい」


 やはり国を相手にするとなると、個の力ではどうしようもない。

メテオストライクで脅迫外交という手もあるが、どれだけ通じるものか……。


 国という巨大な敵を前に、俺たちは明確な対応策を見いだせなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る