第346話 停戦?

「俺のアイテムボックスには時間停止がある。

アマコーみたいに、せめてノブちんたちの遺体だけでも保存できるだろうか?」


 もしこの世界での死が、向こうの世界でも死ならば、親元に遺体ぐらいは返してあげたい。

無駄になるならばそれで良い、俺のアイテムボックスに保存しておくだけのことだ。


「それは無理だな。

ここに情報が伝わって来るまでに亡くなってから既に5日以上は経っているはずだ。

そうなると今から農業国に向かってプラス1週間――いや、翼竜を使えば短縮できるか――それでも3日近くかかるだろう。

亡くなって1週間はゾンビ化の懸念で火葬されるギリギリの日数だ。

誰も止めなければ、翌日にはもう火葬されているだろう」


 転移を使えばもっと短縮できるが、俺が行ったことのある農業国は隣国エール王国国境近くの街までだ。

そこから戦地の王国アーケランド国境まで行くのに日数がかかる。

しかも、火葬を待ってもらおうにも、既に終わっている可能性が高い。


 国境砦の戦いでも、亡くなった兵の遺体は王国アーケランド軍降伏後、即日王国アーケランド軍が焼いた。

それは穴を掘って、そこに遺体を放り込み、そこに魔法で火を放つというものだった。

これは魔物の処分でも同じだった。

いや、うちではGKの配下が美味しく頂いていたか。


「そうか、ノブちんたちは既に遺骨になっているんだな」


「農業国の好意で遺骨が別になっていれば良いのだが……。

もしアーケランドの占領下での処置となると……」


「下手すると他の被害者と一緒に焼かれた可能性もあるのか……」


 残念なことに、この世界にはいろいろな制限があり、遺体回収は無理だった。

情報伝達が遅く、移動時間がかかり、ゾンビ化の懸念で遺体は直ぐに火葬される。

俺のような便利なアイテムボックス持ちも稀で、手厚い保存も見込めない。

占領下ではノブちんたちの遺体を尊重してもらえる可能性も低い。


「悔しいなリュウヤ」


「そうだなヒロキ」


 俺たちはノブちんと栄ちゃんの遺体も持って帰ってやれない。

せめて魂が地球に戻ってくれれば良いのだが……。

死んだらゲームオーバーで元の世界に戻っていたなんてなっていたら良いのに。

そう思って自殺して、そのまま終わりってパターンもラノベでは多いからな……。


 俺たちはどうにもならない現実に打ち拉がれていた。


「戻ったでござるよ」


 腐ーちゃんが国境砦に戻って来た。

そういやキバシさんを王様に渡したんだよね?

ぜんせん活用されてないな。


「王様からの勅命は聞いたでござるか?」


「ああ、しかし、どうしてキバシさんで知らせてくれなかったんだ?」


「それは王の権威ってやつでござるかな?」


「王の権威?」


「キバシさんの声で命令されて、誰が王様の言葉だと信じるでござるか?」


「あー、そうか。

キバシさんの声だと、誰か別の奴が王様を装っているかもと疑えるな」


「そうでござる。

だから勅書という王の権威を示す書類で以って勅命となすわけでござる」


 でも、そのおかげでノブちんたちの……いやもう言うまい。

情報が王都に伝わった段階で、もう手遅れだった可能性が高い。

キバシさんを使っても無理だったのだ。


王国アーケランド兵の隷属化も終わったし、停戦だし、俺たちが国境砦ここに居る必要は無くなったな。

帰るか」


「うん」「そうでござるな」


 さちぽよと腐ーちゃんも異存は無いようだ。


「では、俺もここまでにしよう」


 リュウヤ金属バットは俺たちに合流するつもりだ。

それは先程固い握手をして決まっていると俺は信じている。


「待ってくれ。俺も「お前は残れ」え?」


 同行を申し出ようとした赤Tをリュウヤ金属バットが制した。


「お前はもう既にエール王国の所属だ。

それにもし、またエール王国が襲われたら誰が中心になって守る?」


 赤Tの言動にせっちん、雅やん、丸くんが心配そうに見つめていた。

隣国エール王国最大戦力が抜けると言うのだ。

ノブちん亡き後、赤Tこそがエール王国防衛のキーマンなのだから、それは心配になるだろう。


「そうだな。こいつらと一緒にエール王国を守るっきゃねーな。

俺から王様に転校生たちを支援するように言っておくぜ。

この戦果は転校生のおかげじゃん。それぐらいはさせねーとな」


 隣国エール王国の勇者は王城にいる貴坊を入れてもう5人しかいない。

真の勇者を俺たちが引き付ければ、王国アーケランドに勇者はミニスカしか残っていない。

ミニスカはパツキンの彼女で人質状態らしい。

そういや、パツキンこいつの処遇が決まっていなかったな。


「パツキンはどうする?」


「俺が敵に下こうなったのがバレたら、ミニスカがどうなるかわからない。

俺もミニスカを助けに行きたい。

一緒に戦わせてくれ」


「そうか。ならば俺とさちぽよ、腐ーちゃんは飛竜に乗って、リュウヤとパツキンは……「私を置いてかないでよ?」あっ!」


 そういや不二子さんを魔法攻撃のために呼んでいたんだった。

どうする虫魔物でも召喚して空から運ぶか。


「私に抱き着かせて遠隔眷属召喚で戻せば良いのよ」


「そうだった」


 不二子さんはこれでも俺の眷属だった。

外観が妖艶な女性だから惑わされる。


「「よ、よろしくお願いします!」」


 リュウヤとパツキンがボンキュッボンな不二子さんにしがみ付く。

役得過ぎて二人の頬が緩みっぱなしだ。


「こら、そこ、乳に顔を埋めるな!

その手、腰から下に下げるな!」


「もう、さっさと送っちゃえば良いのよ!」


「そうだな。

遠隔眷属召喚、不二子さん、温泉拠点玄関前!」


 そう言うと、不二子さんの足元から魔法陣がせり上がって来て、三人を包むと消えて行った。


「よし、俺たちも帰ろう」


「おけー」「頼むでござる」


 ちょっと窮屈だが、二人は俺の前後に抱き着くかたちで飛竜の鞍にまたがっている。

二人乗りに三人だから仕方ないんだからね?


「遠隔眷属召喚、飛竜、翼竜、温泉拠点上空!」


 魔法陣に包まれると、俺の視界が隣国エール王国国境砦上空から温泉拠点の上空に変わった。


「皆、帰って来たぞ」


 俺たち温泉拠点組は誰の犠牲もなく戦いを乗り切ることが出来た。

だが、俺たちの戦いはこれからだった。

いや、打ち切りエンドじゃないからね。

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