第345話 闇落ちの理由

 魔王レベル3になったことが、さちぽよにバレたのは、俺がシステム音声にピクリと反応し、魔力の質が変わったことに気付いたかららしい。

まさか抱き着かせたことで気付かれるとは思ってもみなかった。

さちぽよもおチャラけて見えるが、そこらへんは細やかな感性を持っているのだ。


「そうだな。そこまでしたら本当に魔王だな」


 だから言えなかった。

新たな【たまご召喚】のサブスキルが解放されたことを。

それはアンデッド卵召喚だった。

タイミングが良すぎるこのサブスキルは、ゾンビや死霊といったアンデッドをたまご召喚し眷属とすることが出来る。

そのスキル説明には、身近な死者・・・・・を蘇らせることが出来るとあった。

つまり、ノブちんや栄ちゃんといった亡くなった同級生をアンデッドとして蘇らすことが出来るのだ。


 蘇ると言っても生ける死体に幽霊だ。スケルトンの可能性もある。

もし、その状態で蘇って、そのまま地球に帰還した場合、どんな扱いになるのか?

この世界の肉体は、この世界でのみ有効で、魂が地球に戻って、向こう側の肉体に宿るとしたら、これは本当に生き返ることに等しい。

だが、そのままアンデッドの状態で戻ってしまうとしたら……。

恐ろしくて考えたくも無かった。

それにもし、死んだら戻れるみたいな召喚だった場合、それを邪魔することになる。

そのため、俺はこのサブスキルを使う事を躊躇った。

同級生をアンデッドとして使役したら本当に魔王だしね。


「やはり、王国アーケランドが持つ召喚の秘密を手に入れないとならないな」


「だが、真の勇者の【支配】は俺でも抗うことが出来なかった。

このまま攻め込むと、俺たちも支配されかねないぞ」


 だが、そんな便利なスキルに制限がないわけがない。

たまご召喚も、眷属数に制限があるし、俺を暗黒面に引きずり込もうとする。

この世界、悪行には因果応報として闇落ちというペナルティがあるようなのだ。

俺の場合は魔物を使役することや、眷属が人を殺める事、そして人を洗脳して操ったり隷属させたりすることが闇落ちのきっかけとなっている。

【支配】というスキルには、間違いなくその闇落ちペナルティがあるはずだ。


「俺が隷属魔法を1万人にかけたことには、闇落ちのペナルティが発生している。

【支配】にも、なんらかのペナルティがあるはずだ。

人数制限やレベル制限の存在が判明しているが、それ以外にもきっと何かがあるはずだ」


 それで言えば勇者召喚は悪行だな。

勇者召喚を行っている王族は、どうやってペナルティを回避しているのだ?

召喚の儀には人命が消費されたという。

王国アーケランドは召喚勇者にも平気で洗脳を使う。

それこそ悪魔の所業だろう。

嫌な予感がする。

他国に戦争を吹っ掛けているのは、いつも王国アーケランドの方だ。

魔物を使わないだけで、その所業は魔王軍と同じだ。

この世界、人の方が怖いといわれている。

真の魔王とは、そういった悪行に染まった人の王ではないのか?


「そういえば、金属バットには、パシリの最後を話してなかったな」


「パシリは死んだのだったな」


 金属バットが複雑な表情を見せる。

王国アーケランドの支配により、俺たちは殺し殺されの関係となってしまっていた。

その結果、仲間が殺されることになったのを、金属バットはあえて責めたりしなかった。

金属バットはそれらの責任が王国アーケランドにあると、気持ちを切り替えているようだが、その心の底には複雑な思いがあるに違いない。


「パシリは、魔族化したために仕方なく殺した。

もう戻れないほど酷かったんだ」


「なんだって!」


「外観から魔族へと変化していた。

最後は知性まで侵されていたようだ。

その変化にはパシリの悪行が関与している」


「そうだったのか。

となると真の勇者も魔族化している可能性があるのか」


 そう言うと金属バットは俺をちらりと見た。

そうだ。俺も魔族化、いや魔王化の危険があるのだ。


「大丈夫。ダーリンは妻の癒しで踏みとどまってるから♡」


 さちぽよがそんな視線から俺を庇う。

なんて良い娘なんだ。

よし、頭を撫でておこう。


「そうだ、俺はそれで助かっていると思っている。

金属バットにもさゆゆという癒しがあっただろう?

ゴブリン食は魔族化を促進させるようだぞ。

それを癒しが救ってくれていたんだよ」


「そうだったのか! さゆゆ……」


「すまない。思い出させてしまって」


「いや、そんな危険を押して、転校生は大規模隷属魔法を使っていたんだな。

むしろ、そのことに感謝する」


 金属バット、なんて良い奴なんだ。

ヤンキー成分が抜けるだけで、ここまで好青年になるのか。

洗脳を解いてやりたいが、これは良い洗脳と思うしかないな。

それと、さゆゆが何処かで生きていてくれると良いな。


「国王様より勅命です!

ただちに停戦せよ。直ちに停戦せよです」


「「なんだって!」」


 国境砦の指揮所に隣国エール王国の国王から停戦命令が齎された。

農業国に派遣したノブちんと栄ちゃんが亡くなったことで、隣国エール王国はこれ以上の戦争拡大を躊躇ったようだ。

今回の捕虜1万人という大戦果を以って、幕引きとしたいということらしい。

俺たちの心情とは関係なしに、隣国エール王国は戦争から降りてしまうつもりだ。

既に王国アーケランドへは根回しが終わっているようだった。


「どうする?

まだ俺は隣国エール王国の所属では無いぞ?」


「ああ、俺も独立国の国家元首だ」


 俺と金属バットは、お互いに視線を交わすと、対王国アーケランド戦の継続を確かめ合った。


「俺の名は大樹たいじゅと書いてヒロキだ」


「俺は竜也たつなりと書いてリュウヤだ」


「「共に王国アーケランドと戦おう」」


 俺は金属バット、いやリュウヤと固い握手をして、王国アーケランドと戦い続けることを誓いあった。

そのためには【支配】から逃れる手立てを考えないとな。

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