第341話 アーケランド軍動く2

Side:隣国エール王国国境砦 転校生


「どうして撤退しない?」


 俺は目の前に布陣する王国アーケランド軍を見て戸惑いの声を上げた。

後方の輜重隊を叩き、近場からの補給路を絶った。

その状態でこの場に留まれば、過酷な攻城戦と飢えから多大な犠牲が出る。

賢明な指揮官ならば、そう理解できると思っていた。


「どうやら王国アーケランドの指揮官は、兵の犠牲は厭わないということだろう」


 金属バットも苦々しい表情で吐き捨てる。

王国アーケランドが兵どころか勇者でさえ使い捨てにするということは、金属バット自身が良く知っていたのだ。


「だが、サンボーならばもっと奇策に走ると思うのだが?」


 王国アーケランドの国境砦にはサンボーがいて指揮をとっていると思われていた。

奴ならば、道の砦の時のように、俺を暗黒面に引きずり込む目的で、俺に王国アーケランド軍の兵を殺させようともするだろう。

だが、今回だけは、それはさすがに無いはずだ。

俺が隣国エール王国の国境砦にいるとは、サンボーは知らないはずだからだ。

それに王国アーケランド軍は全軍をあげての総攻撃だと思われる。

正攻法過ぎて明らかにサンボーとはやり口が違う。


「指揮官が交代したか?」


「正攻法と言えばそうだとも言えるが、堅実派のサンボーならば、補給の途絶は無視出来ないはずだ。

それに王国アーケランドは赤Tの討伐が主目的だったはずだぞ」


隣国エール王国が勇者を持つことを、許せなかったという話だったな」


「まあ、隣国エール王国は赤T以前から同級生たちを囲っていたようだがな。

それはまだ王国アーケランドには把握されていないはずだ。

いや、疑いは持ってはいたな」


 となると、王国アーケランドは、金属バットたちを失ったことで、赤Tを諦めて、勇者以外の隣国エール王国軍の戦力を削ろうと方針を変えたということか。

いや、それならばパシリとクロエを撃退した俺たち温泉拠点の方を放置するわけがないか。

何かがおかしい。

もしや、4人もの勇者を失ったという報告はサンボー自身の保身から出来ず、間違った情報が流されているのではないか?


「もしかすると、サンボーが保身で虚偽の報告をあげているのかもしれない。

援軍が来たタイミングで、その虚偽報告が発覚して更迭されたか?」


「あり得るな」


「それと、どこかから情報が洩れているのか。

王国アーケランド隣国エール王国が勇者を複数持っていると疑っているのかもしれない」


「ロンゲが倒された原因を王国アーケランドがそう判断したのだ。

そのせいで俺とアマコーが派遣されたのだ。

俺の所にはロンゲは竜人にやられたという話が来ていたな。

サンボーは竜人が隣国エール王国の勇者なのだと思ったようだ。

竜人はおまえだったのにな」


 金属バットは竜人姿の俺が温泉拠点へと転移するところを見ている。

それがロンゲが語ったという話と繋がったわけだ。

少なくとも召喚勇者上位の実力を持つロンゲを倒せる戦力が隣国エール王国側にあると把握したのだ。

そうそう、ロンゲのやつは再起不能な状態らしい。

復活させるには、おそらくエリクサーかマドンナの祈りあたりが必要だろう。


「それで直ぐに金属バットとアマコーがやって来たのか」


「あの時の俺は王国アーケランドに洗脳されて正気ではなかった。

そして、王国アーケランドの指示に従い、サンボーが指揮を執っていた。

それは複数の勇者で隣国エール王国と偽貴族の拠点を叩くというものだった。

2箇所を攻撃して、竜人のいない方を殲滅するという作戦だな」


「確かに危ないところだった。

それがサンボーの恐ろしさだな」


「今回の総攻撃、やはりサンボーのカラーが見えない。

そして虚偽報告は増援が来た時点で発覚する」


「それで王国アーケランド兵をすり潰すようなおかしな攻撃をしたのか」


「サンボーはこちら側に来たかったのかもしれない。

その現れが王国アーケランド兵のすり潰しだろう。

その目論見が増援で来た勇者のために失敗した。

サンボーは更迭された、いや殺されたかもしれない」


「なんだって!」


 金属バットは王国アーケランドの勇者として、王国アーケランドのやり口を熟知していた。

その分析は納得のいくものだった。

まさか、あの攻撃が亡命のサインだったとは……。

オトコスキーから齎される負の波動で、俺を暗黒面に落すつもりだと思ったわ。


「となると、この攻撃は食糧難に陥っての自暴自棄か」


「いや、逆に人の命を顧みない恐ろしい相手かもしれないぞ」


 食料も無く、勝たねば死ぬだけと死兵となれば隣国エール王国側にも多大な損害が出るだろう。

王国アーケランド側の勝利条件が隣国エール王国の勇者討伐から隣国エール王国の兵力削減となったのならば、正しい行動かもしれない。

だが、そこには人の命を顧みない非情さがある。

サンボーもそうだったが、もしそれが同級生だとしたら相容れない存在な気がする。

無力化して再洗脳したら、はい仲間とは出来ないかもしれない。


「説得は無理そうだな」


「ああ、赤Tたちに攻撃命令を出そう。

幸いこちら側が籠城戦だ。

王国アーケランド軍は倍する兵力で攻撃する必要がある」


「そういや、1万対4千だったな」


「俺たちが活躍しないと負けるな」


 むしろ温泉拠点がスルーされているから、クロエの転移で援軍が呼べる。

それが同級生という召喚勇者の援軍ならば、勝ち目はあるだろう。

いざとなれば眷属を呼ぶが、それは同級生たちの命に関わるような本当の最後の手段だ。

俺が強力な魔物を使役していることが王国アーケランドにバレれば、魔王軍認定されてしまうだろう。

そうなれば隣国エール王国を含めて世界中が敵となりかねない。

隣国エール王国を救うために、そこまでして身を危険に晒すわけにはいかない。


「勝てそうか?」


「勝つさ。さゆゆの仇をとらないとな」


 そうだった。金属バットには王国アーケランドを倒す大義名分があったのだ。

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