第338話 部隊編成2

 実験の結果、時間経過速度16倍まではバシリスクの特殊個体となった。

そして、次の12倍でバシリスクに変化が現れた。

明らかに体色が違うのだ。

特殊個体が赤なのに対し、この個体は緑だ。


「もしや、これが普通個体か?

よし、支配出来るかどうかやってみよう」


 今回は部隊長さんではなく、俺が眷属化したバシリスク(赤)でバシリスク(緑)を操ってみる。


「バシリスク(赤)、こいつを統率できるか?」


グワグワッ!


 バシリスク(赤)がそう鳴くと、バシリスク(緑)がこうべを垂れて服従の姿勢を示した。

これはもうバシリスク(緑)が下位の普通個体と見て良いだろう。


「成功だ。次は何匹まで下に付けられるかだな」


 現在、俺の下には4匹のバシリスク特殊個体(赤)が眷属となっている。

1匹の特殊個体の下に何匹付けられるのか、その上限を見極めるつもりだ。

これは眷属譲渡の数は少なければ少ないほど、悪影響が少なくて良いとの考えからだ。

結果は特殊個体1匹につき10匹までだった。

つまり10匹の特殊個体で100匹の普通個体を統率可能ということだ。


「部隊長、実験が終わった」


 俺はバシリスクの騎乗訓練をしていた部隊長を呼んだ。

鞍や手綱など、騎竜とするための装具を調整していたのだ。

部隊化したならば、これらを大量発注しなければならない。

その準備も兼ねているのだろう。


「おお、どうであった?」


 俺の目の前に赤い特殊個体9匹と緑の普通個体15匹が居並ぶ様子を見て、部隊長は確信を持ったようだが、あえて訊ねて来た。


「統率に成功した。

赤い特殊個体で、緑の普通個体を10匹まで統率できる。

バシリスク(赤)が10匹にバシリスク(緑)が100匹で1部隊にしたいがどうか?」


「私と小隊長9人の下で100人の兵がバシリスクに騎乗するというかたちですな。

問題ありません」


 当初の予定の1部隊100匹ではなく、110匹になったが大丈夫なようだ。


「では小隊長を紹介してくれ。

バシリスク(赤)を眷属譲渡する」


 こうして鞍などの装具を掻き集めてバシリスク隊110名が組織された。

元々部隊長の下にある部隊なため、騎乗訓練程度で戦力化することが出来た。

ちなみに最初に呼ばれたテイマーたちは用済みで原隊復帰となっている。


 ◇


 大軍の移動には時間がかかる。

特に狭い街道を進んで来るとなると、先が詰まれば遅々として進まないものだ。

王国アーケランド軍の援軍4千は、まさに国境砦の収容能力の限界により、先が詰まってしまって行軍出来なくなっていた。


 その解決方法は2つ。

1つは国境砦に入っている部隊を前進させ、その空いた場所に入るという方法だ。

これは隣国エール王国との緩衝地帯に兵を進出させるということであり、隣国エール王国軍からの攻撃を受ける場所なため安全では無かった。


 もう1つは国境砦の後方に陣を張る空き地を造るという方法。

まさに今、王国アーケランド軍は魔の森を切り開き、4千人が収容可能な空き地を造っている真っ最中だった。


「こちらの作戦は、湿地帯からアーケランド軍の後方にまわり、輜重隊しちょうたいを叩くというものになる。

1万の兵を食わすには、アーケランドも金がかかる。

その食料を焼けば撤退するしかなくなるだろう」


 金属バットの作戦は、大軍と戦わずして勝つというものだった。

王国アーケランド軍が湿地帯に展開できる部隊を持っていないことがこの作戦の肝だった。

湿地帯を高速移動するバシリスク隊で後方を攻撃し、追って来たならば湿地帯に入って逃げる。


「部隊長、やってくれるな?」


「お任せください」


 こうしてバシリスク隊による輜重隊への攻撃が始まった。


「そうだ。

東に街道を進むと川に橋がかかっている。

あれを落とせばさらに補給が滞るはずだ」


 王国アーケランド軍の進軍ルートは、ディンチェスターの街から西に向かうルートと、王都方面から川を渡り南下するルートがある。

食料の補給路としてはディンチェスターの街からの方が便利なはずだ。

そのルートを橋を落とすことで絶つ。

そうなると、王国アーケランド軍は遠回りな南下ルートで補給しなければならなくなるのだ。


「しかし、そんな東までは湿地帯が広がっていないぞ。

当然守りも堅いはずだ。

バシリスク隊には行かせられない」


 俺の提案に金属バットが難色を示す。

金属バットも、味方の損害を良しとしない方針のようだ。

ヤンキーの時から、案外良い奴なんだよな。

言葉遣いからヤンキーが消えたことで、滅茶苦茶好青年に見えるぞ。


「そこは翼竜に火炎弾攻撃をしてもらうつもりだ。

夜間に襲撃して焼いてしまおう」


「空からか。良い作戦だ」


「だろ?」


 こうして隣国エール王国軍のささやかな反撃が始まった。

それもなるべく人的被害が少ないようにという金属バットの日本人らしいものだった。


 そういや、オトコスキーが殲滅した王国アーケランド軍の経験値がごっそり入って来て俺のレベルがとんでもないことになっている。

まあ、暗黒面的な悪影響もあったのだが、断続的な迎撃だったことと、温泉拠点で結衣たちに癒してもらえたため、意外と楽に切り抜けることが出来た。


 ただ、オトコスキーを眷属にしたことで、MP的な負荷が酷いことになっている。

もし、MPが足りなくなったら、オトコスキーを御することが出来なくならないかと心配しているところだ。

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