第337話 部隊編成1

 金属バットが集めたテイマースキル持ちは10人だった。

彼らは既にテイム出来るギリギリまで魔物を使役していた。

一般的なテイマースキル持ちは魔物だと1匹から5匹程度しかテイム出来ないのだという。

しかも、彼らは枠を使い切った状態だったのだ。

俺はそんなにテイム出来ないものだとは知らなかった。


「つまり、100匹の水トカゲ系騎竜を召喚しても、テイム出来ないとうことか」


 テイマーが10人で10匹ずつならば、100匹使役可能だろうという俺の目論見は潰えた。

複数の馬から魔物から使役している紗希サッカー部女子基準で考えていたため、俺は大きな思い違いをしていたようだ。

紗希も召喚勇者であり、彼女のテイムスキルは普通ではなかったのだ。


 既に眷属卵召喚で目の前には10匹分の卵がある。

このままでは、まずい。

水トカゲ系騎竜はレベル2で召喚できる。

つまり眷属卵が孵るまでは2日ある。

その間になんとかしなければならない。


「やはり眷属譲渡しかないか」


 そのためには1つ検証しなければならないことがある。

今まで眷属譲渡したのは同級生のみだ。

同級生は召喚勇者であると同時に、俺とは親しい関係の者だ。

つまり、そんな特殊な相手にのみ眷属譲渡を行なっていたのだ。

他人に譲ろうという行為は初めてだった。

そもそも他人に眷属譲渡が出来るのかがわかっていなかったということだ。


 最終的には100人に眷属譲渡しなければならない。

俺も100匹なんて眷属枠は余っていないからな。

眷属の貸し出しでどうにかすることは出来ないのだ。


 検証するには同時に10体も孵ってしまっては困る。

もし譲渡が不可能だった場合、危険な魔物10匹が野放しになってしまう。

眷属にすれば暴れることはないが、それでは眷属枠が無駄に消費されてしまう。

とりあえず9個はアイテムボックスの時間停止庫に入れておくか。

いや、それならば1個だけ孵化を早めた方が良い。

時間経過庫で経過速度を早め、1個だけ先に孵化させよう。


 ◇


 時間経過庫の経過速度に48倍速を採用した。

おかげで孵化まで2日かかるところを、1時間で終えることが出来た。

その他9個の卵は時間停止状態にしている。

後で孵化タイミングを操作しようとするときに、余計に時間が経っていると計算が面倒なのだ。

さすがに生きている魔物を時間経過庫で時間オーバーさせてしまえば、時間経過庫の中で老衰死なんてことも起きかねないからだ。


「さて、テイムが無理なら眷属譲渡してみようか」


 眷属化したところ、水トカゲ系騎竜はバシリスクという魔物だった。

地球では水面を走ると言われている爬虫類の名だが、この世界では馬よりも大きな体躯で背中に人を乗せることが出来る別物のトカゲだった。


「ん? 特殊個体?」


 そのステータスを見て行くと、バシリスクは特殊個体だった。

そのスキルには集団統率というものがあった。

まあ特殊個体でも普通個体でも眷属譲渡が出来なければ意味が無い。


「部隊長さんは?」


「この人だ」


 金属バットが部隊長さんを紹介してくれた。


「私は隠密での後方かく乱を任務としている。

そのため名前は公開していない

ただ単に部隊長と呼んでくれ」


 まるで忍者か特殊部隊かのようだ。

本人同士はコードネームで呼ばれるのだろうか?


「では、今から眷属譲渡をします。

眷属を受け入れるという気持ちでいてください」


「了解した」


 女子たちに眷属を渡した時は、当たり前のように眷属譲渡と唱えるだけだったが、他人に渡すのは初めてで、ちょっと勝手が違うと感じた。


「眷属譲渡! バシリスク特殊個体、部隊長さんに」


 俺の身体から何かがごっそり抜ける感じがした。

そのいつもと違う反応に違和感を覚える。

無理やりパスを通した感じだろうか。


「おお、バシリスクが我が眷属となったぞ!」


 ステータスを確認した部隊長さんが歓喜の声を上げる。

眷属譲渡とは俺の眷属を他人に譲渡出来るものだが、根っこの部分では俺と眷属は繋がったままだ。

眷属枠を空けられるのが利点ではあるが、その根っこの部分で繋がったままというのが問題だった。

眷属を維持するには俺の魔力を消費し続けるのだ。

それが親しい人物に渡すのと、赤の他人に渡すのとでは負荷が違うようだ。


「これが100匹となると、ちょっと現実的ではないぞ」 


 下手すると俺はその影響で暗黒面に落ちる可能性がある。

そのため眷属譲渡は最小限にしないと危険だと判断した。


「せいぜい10匹が限度か……」


 作戦を遂行するには、それでは数が足りない。

どうすればいい?


「そうだ! 特殊個体の集団統率スキルで他の個体を従えることが出来るかもしれない!」


 俺は特殊個体を眷属化した人物が、眷属を通して群を統率することで、部隊化が可能になるかもと思い立った。

やってみるしかない。


「卵1つを時間経過庫へ。時間経過庫48倍」


 これが成功したならば、バシリスクの卵を90個召喚しよう。


 ◇


 1時間後、孵ったバシリスクを部隊長さんのバシリスク(特殊個体)が統率出来るかを試してみた。


「どうですか?」


「無理だな。言う事を利かない」


 実験は失敗か……。

となると俺が卵をアイテムボックスに格納して王国アーケランド軍の傍に置いて来るという嫌がらせしか出来ないか。

その群に隠れて部隊長さん以下10人の部隊で破壊活動をしてもらおうか。


 いや、これは侯爵軍を襲ったゴブリンやラプトルの手口と同じだ。

王国アーケランド軍に俺の関与を疑われる可能性がある。

どうする。


「この個体、俺の眷属と同じではないか?」


 部隊長さんが、自分の眷属とさっき孵った個体を比べてそう呟いた。


「まさか!」


 俺は慌ててバシリスクを眷属化する。


「!」


 ステータスを確認すると、それはやはり特殊個体だった。

おかしい、なぜ特殊個体となった?

まさか!

時間経過を加速させたために特殊個体となった?


「すみません。実験は保留にします。

通常孵化で普通のバシリスクが生まれるか調べる必要が出てしまいました」


 今ある卵を経過時間の倍率を変えて実験する。

普通から2倍、4倍、8倍、12倍、16倍、24倍、36倍でチェックしてみる。

それにより普通個体となるならば、それを統率できるか実験だ。

その時に全部隊のバシリスクを用意出来るように卵90個も用意した。

もしこれで普通個体が出なかったり、統率出来なければ、諦めて90個は無差別放出することにしよう。

だが、成功すれば眷属譲渡の特殊個体の下に普通個体を付けられることだろう。

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