第323話 派遣軍1

Side:アーケランド王国隣国派遣軍 時は少し遡る


 我々は、隣国エール王国討伐のため、王都より国境砦に派遣された。

勇者が率いる部隊として、5千の兵が従軍している。

第11派遣軍1千、これは勇者に従う騎士を中心とした精鋭部隊だ。

第12派遣軍1千、これは攻城兵器を備えた砦を落すための部隊だ。

第13派遣軍1千、これは占領政策のための歩兵を中心にした部隊だ。

第14派遣軍1千、これは馬車を使い機動力を上げた即応部隊だ。

そして我が第15派遣軍1千は、走鳥、走竜、竜車で編成された高速部隊だった。


 だが、我が第15派遣軍は、出立が遅れたこともあり、その高速性を発揮できないでいた。

我々はこの派遣軍の殿しんがりに位置してしまったのだ。

国境までの街道は狭く、兵を進軍させるにはむいていなかった。

街道は魔の森という魔物が跳梁跋扈する森を東西に横断しており、最低限の幅しか無かったのだ。

ここに国境線が引かれたのも、王国アーケランド隣国エール王国お互いに実効支配出来なかったからだ。

この道幅を維持確保するだけで精一杯だったのだ。


 国境砦も収容人数が限られており、我が軍は街道上に長く引き延ばされていた。

先が詰まっていれば、いくら我が軍が高速移動を可能でも、その速度は亀の如くノロノロとしたものとなってしまっていた。

せっかくの高速部隊が台無しだった。

そこらへん、若い勇者には用兵のなんたるかが理解できていないのだろう。


「第13派遣軍進軍! 国境砦に入れ」


 先の詰まっていた行軍がやっと再開したようだ。


「第14派遣軍、第15派遣軍はこの場で待機、別命を待て」


 やれやれまた足止めか。

魔の森には、街道から分岐したもう一つの道がある。

我々は、その入口となる広場に陣取ることになった。


「なぜ、この道を使わないのですか?」


 部下が疑問を口にする。

それは皆が疑問に思っていたことなのだろう。

説明を求める大量の視線が俺に向かって来る。

仕方ない。説明してやるとしよう。


「この道は他国の貴族が設営し実効支配している道だ。

国の役人が使用許可を得に交渉しに行ったのだが……」


「ああ、案の定、怒らせてしまったのですね?」

「さすが貴族役人、バカしかいない」

「こら、不敬だぞ」


「そこらへんにしておけ。

まあその通りで、怒らせたうえ、不可侵領域を設定されて、そこを越えたら戦争だと宣言されてしまった」


「なんとアホなことを……」


「その貴族はどうやら皇国関係者らしくてな。

それを魔王軍だなどと侮辱したらしい」


「魔の森はどの国も領有していないのでは?」


「その貴族が保養地として確保した場所の領有を宣言したそうだ。

魔の森を支配できる者などいなかったから、どの国も領有していなかったのだ。

だがその貴族は、魔の森の魔物をものともせず、魔の森の中心で悠々自適な避暑生活をしているらしい」


「つまり強力な魔物を退け実効支配する力があると?」


「ああ、先のスタンピードは覚えているだろう?

あのスタンピードでは勇者も一人亡くなっている。

そこから分離したオーガ率いる魔物の群を、その貴族が退けたそうだ」


「オーガを討伐した? それも群を?」


「近隣の街を領有する伯爵が、討伐の証拠としてオーガの魔石や魔物素材などを確認したそうだ」


「どれだけの軍が配備されてるのですか!?」

「むしろ、そちらの方が我が国にとって脅威なのでは?」


「それが10人程度しか居なかったらしい」


「はあ? それって全員勇者なみの実力ということでは?」


「そうなるな。

なので、この道は使わん。

いや、使えばその貴族、はてはその祖国と戦争になる」


「曰くつきですねぇ」

「触らぬ竜になんたらってやつですか」


 ◇


「諸君らには、この道を進軍してもらう」


 疾風の勇者と呼ばれる勇者が畏まって言う。


「はぁ?」


 彼は国境砦から走ってやって来ると、知の勇者の命令書を渡して来た。

その走行速度は尋常ではなかった。


「しかし、この先を領有する貴族ともめるのはまずいのでは?」


スティーブン卿サンボーが言うには、国の上層部は自称貴族を偽貴族と断定したんだと。

攻撃しても皇国は出て来ないはずだ」


 本当にそうなのか?

だが、その偽貴族の戦闘力は本物だろう?


「おまえらが敵の注意を引いているうちに裏から俺が奇襲する。

地走り部隊を寄越せ」


「しかし、部隊を分けたのでは各個撃破されてしまうのでは?」


「問題ない。こいつに運んでもらう」


 そう言うと疾風の勇者は転移の魔女と呼ばれている女勇者を指し示した。

いつの間にそこに?

なるほど、転移を使って我々よりも早く敵の懐に入るつもりか。


「ならば、我々は囮ということですね?」


「そうだ。貴様らが偽貴族の保養地に辿り着く頃には全てが終わっている」


「了解しました」


 我が第15派遣軍は、やっとその高速性を発揮することが出来るようだ。

我々の後には第14派遣軍も続く。

分岐路に入るために、上手く順番が逆になったものだ。


 ◇


「ジャイアントセンチピードです!」


 偽貴族が設置した分岐路に入ると、直ぐに魔物の襲撃を受けた。


「構うな! 突破してしまえば追いつけない!」


 さすが魔の森、いきなり大物の歓迎を受けた。

だが妙だ。この道を護衛も付けない商人が行きかっていたはずだ。

つまり、この魔物も使役されているということか?

魔王軍扱いして侮辱したということだったが、まさか本当に魔王軍なのか?

ならば、なぜ怒らせる前までは友好的だったのだ?

それに魔王軍ならば、正体が露見したその場で戦いとなっていただろう。

わざわざ不可侵領域を設定して警告などしないはずだ。


 だが、これで王国アーケランドはその自称貴族と敵対してしまった。

国が許可した知の勇者の采配だというが、どこかが間違っているのではないだろうか?

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