第324話 派遣軍2

Side:アーケランド王国隣国派遣軍


 偽貴族の保養地へと向かう道の先には、商隊が休む休憩地がある。

そこからが不可侵領域と設定されているとの情報だった。


「なんだこれは?

交渉団が行った時には、こんなもの無かったはずだ!」


 それは道を塞ぐ砦だった。

街道にある隣国エール王国との間の国境砦よりも立派なのではないだろうか?

ここを越えたら戦争だというが、ここを越えるために戦争をしなければならない代物だ。

砦の左右の壁は魔の森の奥へと繋がっているようだ。

それは紛れもなく国境だった。


「迂回だ。国境全てを壁で囲んでいるわけではないだろう」


 ここに至り、我々が魔の森の中を安全に通行する道は終わりだった。

ここから先は危険を承知で魔の森に入るしかない。


「だめです。走鳥がいう事をききません!」

「竜車、木々の間を通れません!」


 どうやら走鳥が魔の森の気配を畏れてしまい進軍出来ないようだ。

大型の竜車も、魔の森の木々が密で通行出来なかった。


「仕方ない。竜車隊は降車、走鳥隊も走鳥から降りて魔の森に展開。

走竜隊で動けるものは南から迂回だ」


 魔の森は北の深部よりも南の街道寄りの方が比較的安全だった。

そちらならば動ける走竜がいたため、走竜隊に砦を迂回させる。

そして、本隊はこの砦を攻略しなければ、これ以上は進めなかった。


 しかし、国の意向を受けた勇者の命令とはいえ、自分が戦端を開いてしまって良いのだろうか?

偽貴族というが、本当に皇国の関係者だったとすれば、我が国は無駄な戦争へと突入する。

我が軍の目的は隣国エール王国との戦争であり、他国に喧嘩を売っている場合ではない。

事実、この道を利用したのは、隣国エール王国への進軍ルートとして利用したいがためだ。

本末転倒ではないのか?


「本当に皇国の皇族だったとしたら、目も当てられないな」


「違うんじゃないですが?

ここは保養地で、避暑に来たって話だったんですよね?

我が国の北にある皇国の者が、南へ避暑に来るわけないですよ」


 なるほど。眼から鱗だ。

ならば皇国の人間であるわけがない。

実際、見た目が皇国人とはかけ離れていたという報告もあった。

となると魔王軍か、まさか行方不明だった勇者の生き残りか?

人数的には若干違うが、過酷な魔の森でそれしか生き残らなかったとすれば誤差の範囲だ。

まさか!


「となると、偽貴族は隣国エール王国の協力者ということか。

奴らだけで魔の森の中を生き残れたわけがない」


 隣国エール王国の手助けを受けたとすれば、生きていても不思議ではない。

なんということだ、この砦といい隣国エール王国の協力あってこそではないか。


 黄金騎士様が命を賭して潰した隣国エール王国の部隊は、まさにその援軍だった可能性が高い。

ならば、砦の戦力は、偽貴族を装った状態のまま。


 敵は商人から買ったという奴隷200に加え偽貴族とその配下10人。

オーガを倒したというが、たかだか総数200程度の魔物だ。

そんな戦力では2000の兵の攻撃にもつわけがない。


 そして彼らが勇者の生き残りだとすれば職業なしだろう。

商人が接触し続けていたようだから、この地から移動もしていないだろう。

つまり教会で職業を得てはいないはず。

職業なしは能力値の上昇率に制限を受ける。

我が国アーケランドの勇者と比べれば能力が落ちるはず。

しかも、その勇者は疾風の勇者が対処することになっている。


「よし、攻撃だ! 砦を落とし進軍する!」


 これなら勝てる!


 時間が戻るならば、そう思っていた俺を激しく叱責してやりたい。


 砦へと攻撃を開始した我が軍は、魔法と弓の絶え間ない攻撃を受けた。

「200の奴隷? 冗談じゃない。

どう見ても500はいる!

隣国エール王国の援軍か?」


 砦の兵は砦という地の利を生かし、我々の接近を阻んでいた。

装備も統一されていて、我らに引けを取らない。

隣国エール王国の援軍と見て良いだろう。


「迂回した走竜隊が、ゴブリンロード率いる軍の攻撃を受けました!」


「ゴブリンだと?」


 まさか、あの少年兵は!

砦の遮蔽物から出て来ては、取り着いた兵に石を落していた少年兵を良く見ると、それはゴブリンだった。

ゴブリンが立派な鎧など着るわけがない。

その先入観が相手を見誤らせていたのだ。

そして矢を放ち、魔法攻撃をしているあの兵たちは……。


「ゴブリンアーチャーにゴブリンメイジということか!」


 砦はゴブリンが守っていた。

そういえば、隣国エール王国には竜人が協力しているという報告が……。

ゴブリンの軍団を意のままに操る竜人。

まさに魔王軍!


「伝令を国に走らせろ!

謎の貴族は魔王軍だった!

それだけでも本国に伝えるのだ!」


 目の前の砦の門が開き、屈強なゴブリンたちが出撃して来た。

ゴブリンソルジャーどころではない。

ゴブリンナイトにゴブリンキングまでいる。

我々は全滅の危機を迎えていた。


「おのれエール王国、魔王軍と手を組んだのか!」


――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


 解っているとは思いますが、派遣軍指揮官は壮大な勘違いの真っ最中です。

なんか、「矛盾している!」とガチで思っている人がいるようなので、あえて。

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