第321話 パシリ3

 俺は魔王のジョブがレベル2になるような闇落ちを経験した。

それでも魔族になんかならなかった。

魔王なんだから、そのような外観の変化があってもしかるべきだろう。

パシリの変化は、女性に抱き着いてもらったら解消出来るというレベルのものじゃない。


 腐ーちゃんも闇魔法を連発していて、おそらく暗黒面に落ちかけだろう。

男性との接触はない。何で解消しているというのだ?

俺たちとパシリは何が違う?


 そこで思い出したのが、ヤンキーたちの食事だった。

ヤンキーチームは飢えからゴブリンを常食していた。

雅やんに試食させて安全だと高を括っていたが、雅やんは毒耐性を持っていて無害だっただけだった。


 この世界ではゴブリンには毒があるということが常識だった。

それが魔族化に至るからとは考えられないだろうか?

いや、何か条件が整っていなければ魔族化せずに死に至るのかもしれない。

それを毒と表現しているのかもしれなかった。

この世界で毒と言っているものが、ウイルス性の病気だったりする。

そういった医学の発達も知識もないから、全て毒扱いになっているのだ。


 いや、そもそも俺たちはゴブリンの肉を食べていない。

ゴブリンを食べてパン屋さん食人植物が出した不味いパンは、味だけに影響があって毒は入っていなかった。

食用の魔物肉も結衣が食品鑑定で安全を確認してから食べている。

そのような毒が無いからこそ食用と言われているわけだ。

そういや、俺は毒耐性も持っていたな。


 それら複数の要因が魔族化の分かれ目だったのかもしれない。

仲間共々今後も気を付けよう。

いや、青Tたちヤンキーチームにいた者は、ゴブリンを食べてしまっている。

なんらかの対処をしないとまずいかもしれない。

浄化するか、闇落ちするような行為を制限する必要があるな。


 ああ、その浄化が俺の場合は女子との接触だったのか。

好かれてる相手だから良かったものの、嫌われていてレイプや痴漢行為と見做されたら危なかったのか?

ならば青Tはハルルンに浄化してもらってるか。

さちぽよも今後は大丈夫だろう。


 問題は赤Tと金属バットか。

金属バットはさゆゆがいたから問題なさそうだが、赤Tはガングロが彼女だったらしいけど、どうなんだろうか?

赤Tはマドンナをずっと好きでいて、ガングロが勝手に決めただけらしいが……。

やることやってれば浄化済みなのか?


 なるほど、ヤンキーチームで唯一あぶれたパシリが、毒を蓄積していたとも考えられるな。


「ゴろす。りゅウじンでもゴろす。マろンナ、いまそばディいグぞ」


 パシリの魔族化は後戻りできないような状態になっていた。

既に精神まで侵されたようだ。

だがパシリの意識が強く残っているのが、マドンナへの執着と、マドンナを嫁にした俺への怒りだったようだ。


「もう殺すしか救えなさそうだな」


 パシリの速度は以前にも増していた。

そして、魔族化して翼を持ったことで空にも対応できそうだ。

俺は飛竜纏を諦めた。もうメリットは失われたと判断したのだ。


「飛竜纏、クモクモ纏解除。

眷属召喚モドキン、モドキン纏!」


 飛竜纏とクモクモ纏が解除され、空に召喚魔法陣が現れる。

そこからモドキンが出て来るが、俺の纏宣言で光の粒子になり俺の身体に纏わり付く。


 俺はモドキンを纏って地上へと降り立った。

その姿は、飛竜纏よりも凶悪な竜人姿だった。

俺は、このモドキン纏のために外壁の外へとパシリを追いやったのだ。

モドキンの能力があまりにも危険だったからだ。


「ばガめ。ゴろしデやドゥ」


 その高速能力を更にブーストさせてパシリが迫る。

パシリは武器など持っていないが、その魔族化した爪はそれだけで凶器だった。

その爪が俺の胸へと迫る。

モドキン纏は飛竜の高速性を失わせ、鈍重だった。

パシリと戦うにはその運動能力はあまりにも低かった。

だが、飛竜纏であったとしても、魔族化したパシリには及ばなかったはずだった。

俺は、運動能力で不利でもモドキンのユニーク能力に賭けたのだ。


 パシリは長く伸ばした右手の爪を、思いっきり突き出していた。

パシリの爪がモドキンを纏った俺の胸に達する。

その勢いのまま、パシリの右腕が肘まで俺の胸に消えた。


「ばガめ。おデのズビーどにガデるやズなんガいデー」


 勝利を確信しニヤリとするパシリ。

パシリが右腕を俺の胸から引き抜く。

だが、その腕は刺さっていたはずの肘まで消えていた。


「なンだ、ゴれヴァ」


 モドキンは猛毒キングドラゴンだ。

その猛毒は触れるだけで魔族化したパシリの腕を溶かしたのだ。

そして、その毒は致死性。

少しでも毒に触れて、そのまま治療をしなければ、確実に死に至る。


「パシリ、残念だったな。

俺に触れた時点で勝負は付いていたんだよ」


 モドキン纏をしている俺に勝とうと思ったら接近せずに魔法で遠距離攻撃するべきだった。

それに気付くのも攻撃をしかけてからという、初見殺しだから仕方ないのだが……。


「俺はおまえを救おうとしていたんだぞ?」


 その言葉が聞こえたかどうか、パシリはゆっくりと倒れると、身体が崩れるようにボロボロになり死に至った。

赤Tが毒に侵された時よりも遥かに毒の回りが速かった。


「モドキン纏解除」


 こうして温泉拠点を襲った2人の王国アーケランド勇者は、1人は懐柔され、1人は倒されたのだった。

赤Tたちを襲った勇者を加えると2人が味方となり、2人が死んだ。

結果、王国アーケランドは4人の勇者を失った。


 だが、王国アーケランドの命令で侵攻して来ている軍がまだ2千名いる。

勇者の個の力も恐ろしいが、数の力も恐ろしい。

俺たちはまだその大軍の対処をしなければならなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る