第314話 名前呼びだと?

 アマコーを倒し、金属バットの洗脳を解いたことで、ここでの戦いはほぼ終結した。

金属バットたちが率いていた王国アーケランド軍1000人は魔の森に築いた道の確保が精一杯で、脅威とは成り得なそうだった。


 俺はアマコーの遺体をアイテムボックスに収納しておくことにした。

もし日本に戻ることが出来るならば、遺体だけでも帰してあげたいと思ったからだ。

上半身を失ったその状態を遺族に見せるのはどうかと思ったが、それこそ遺族の意向を訊かずに火葬してしまうのもどうかと思ったのだ。

アイテムボックスには時間停止庫もあるため、新鮮な状態で保存できるのもそうする理由の1つだ。


「なんとかならないでござるか?」


 腐ーちゃんがやりきれない様子で訊ねてきた。

アマコーは腐ーちゃんを殺す1歩手前だった。

だがそれも王国アーケランドに洗脳されて強要されたがための行動だ。

アマコー自身に罪はない。

腐ーちゃんを守るため、ギリギリの状態でラキはドラゴンブレスを使うしかなかった。

それもアマコーの爆裂魔法を迎撃した事故だ。

だが腐ーちゃんには、自分を守るためにアマコーが死んだという事実が圧し掛かってしまっている。

その複雑な思いが、なんとかならないのかという一縷の望みに縋ることとなっているのだ。


「エリクサーがあれば、死んで直ぐならば生き返るという話はある。

でも、その死んで直ぐがどのぐらいの時間なのかがわからない。

1分なのか1日なのか、それによりアマコーを助けられる可能性は違って来る」


「アイテムボックスに入れたということは、ここにエリクサーは無いということ……」


 腐ーちゃんはござる口調も忘れるぐらい落ち込んでいた。

なんとかしてあげたいが、無理なものは無理だった。


「残念だけど、エリクサーはカドハチ商会でも扱っていなかった。

作り方も錬金術大全や薬学の本には無かった」


王国アーケランドでも幻の回復薬と言われていたぞ」


 金属バットもアマコー蘇生の可能性には否定的だった。


「唯一望みがあるとしたら、マドンナの祈りだ。

あれはどんな効果が現れるか想像できない」


「それがあったでござるな!」


 腐ーちゃんもマドンナの祈りにかけるしかないと思い至ったようだ。


「ちょっと待て、どうして貴様がマドンナを下の名前で呼んでいる?」

「名前呼びだと? おい、どーゆーことだ?」


 金属バットと赤Tの身体から怒りのオーラが発せられていた。

そういやヤンキーのほとんどがマドンナに憧れているんだった。

特に赤Tは半死半生の状態でマドンナに告白して玉砕した過去がある。

都合よく忘れているため、今も気持ちは継続しているのだろう。


「貴様はさちぽよとも親しいようだが?」


 そういや、さちぽよが闇落ち対策で抱き着いたままだった。

他の女と親しくしているのに、マドンナを名前呼びとか二股交際疑惑というところだろうか?


「麗ちゃんは大樹ヒロキの嫁だよー。

さちもそうだから、手を出すんじゃないぞ」


「「はぁ?」」


 さちぽよ、事実ではあるが、この2人にはもう少し穏便に伝わるように配慮しようよ。

ほら、2人が青筋立てて睨んで来てるじゃないか。

これがヤンキーのガン飛ばしってやつだろ?

さて、どう説明するべきか。


「待て、さちぽよはまだ・・嫁じゃない。

だがマドンナが嫁なのは事実だ」


「嫁が他にいるならば、さちぽよを抱き着かせているというのは不倫ではないのか?」


 そうだよね。

金属バットの言う事が正論だよね。


「これは闇落ち回避のためで、さちぽよのことは後できちんと責任をとるつもりだ」


「つまり、今は浮気じゃねーか!」


 赤T、そうは言うが、奥さんたちもさちぽよのお色気攻撃をスルーしてるんだよ。

つまりさちぽよは嫁候補として奥さんたちに認められてるのだ。


「いや、この世界は一夫多妻が認められていて、奥さんたち・・が認めていれば問題ない」


「奥さんたち・・ってなんだよ?

さちぽよは嫁じゃねーって言ったよな?」


「嫁は3人。さちぽよを迎えれば4人になる」


「てめー、殺す!」


 赤Tがエキサイトする。

嫁が予定含めて4人、その中に憧れのマドンナがいるとなればそうなるか。


バカT、命の恩人にそんなことゆーな」


 さちぽよが4人目と聞いて抱き着きに力を込めつつ擁護してくれた。

そういや、俺は赤Tを2度も救っていたわ。


「あん?」


「モドキドラゴンから助けたんも、ロンゲから助けたんも、ぜーんぶ大樹ヒロキなんだからね!」


「そうなのか? そういやロンゲから助けてくれたのは竜人のテンコーセイだって聞いたが……。

そうか転校生のことだったのか!」


 赤Tも俺が命の恩人だと知って追及がトーンダウンする。


「この世界の一夫多妻の件は俺も承知している。

マドンナ本人が認めているならば、俺が口出しすることではない。

だが、マドンナを不幸にしたら、殺す!」


 金属バットはマドンナの気持ちを尊重するというスタンスのようだ。

だが、何かあればマドンナのために俺を殺すという気持ちは本気と書いてマジなようだ。

そんなつもりはないが、肝に命じておこう。


 アマコーを生き返らせられるかどうかを話していたのに、こうも話が脱線するとは想定外だった。


「納得してもらえて良かったよ。

金属バットはこれからどうする?」


王国アーケランドと対するには隣国エール王国に身を寄せるべきだろうな。

王国アーケランドの国境砦にはサンボーがいる。

やつは自らの意志で王国アーケランドについている。

気を付けろ」


 やはりサンボーは王国アーケランド側か。


「そして王城には真の勇者と呼ばれる男がいる。

俺は王国アーケランドの洗脳よりも強くやつの支配を受けていた。

やつが倒すべき首魁だ」


 真の勇者、いったい誰なんだ?

先代の召喚勇者だという噂があるが、そのスキルが【支配】ならば、委員長と似たタイプの能力ということだろう。

人を意のままに操る能力、それが本当だとすれば、王国アーケランドの中枢もそいつの支配下にあるのかもしれない。

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