第315話 もう1人の存在

「腐ーちゃん、隣国エール王国への使者は続けられる?」


「問題ない」


「温泉拠点に来ているのがパシリだとすると、国境砦にいる残りはサンボーだけか」


 それならここは赤Tと金属バットに任せても良いだろう。

俺とさちぽよは温泉拠点に戻っても良いか。


「待て。国境砦にはもう1人勇者が出入りしている」


 俺がさちぽよを連れて戻ろうかという様子に、金属バットが俺たちの知らない情報を齎す。


「クロエ卿、いやガングロが転移魔法で国境砦に補給を行なっている」


 俺の情報ソースはカドハチからのものだ。

それはディンチェスターの街を通過した勇者とその率いる大軍から齎されたものだった。

つまり転移を使って移動し、ディンチェスターを経由していなければ、その存在の情報は得られないということだった。


「げっ! ガングロがいんのかよ」


 赤Tが心底嫌そうに言う。


「そういえば、貴様の彼女だったな」


「違うわ! あいつが勝手に言ってるだけだろうが!」


 赤Tはマドンナ一筋だと思っていたが、ガングロが彼女だったようだ。

だがそこには何やら複雑な事情があるようだ。


王国アーケランドに行ってからは会ってねーし。

あいつのギフトスキルで何が出来るかだって俺は知らねーんだからな」


 ちょっと待て。そういや金属バットがガングロは転移・・で補給をやってると言っていたな。

温泉拠点への想定外に速い敵接近は、『地走り』の使用によるものだと思っていた。

だが、よくよく考えれば、GKやキラトの配下に気付かれずに、温泉拠点に接近するなど『地走り』を使っても不可能だ。

パシリがそのスキルによる高速移動で不意を突き、配下たちを倒したとしても、配下が倒されたという結果が敵接近の情報となるはずだ。


「まさかと思うが、ガングロは人も転移させられるのか?」


「人数はレベルに制限されるが可能だ。

そして、使用にはクールタイムがいる」


 金属バットから齎された情報に俺は冷や汗をかいた。

温泉拠点への敵接近は転移によるものだろうからだ。

GKやキラトの配下をスルーしての接近があったのは間違いない。

突然温泉拠点の近くに敵部隊が現れているからだ。

そこからはキラトの配下が倒されたことで、その部隊の存在が把握出来たのだ。


 温泉拠点の内部への直接転移が行なわれなかったのは、何らかの制限があったからだろう。

だが、そのクールタイムが終わった後も、温泉拠点の内部に直接転移して来ないという保障はない。


「転移させられる人数は何人で、クールタイムはどのぐらいなんだ?」


「ガングロのレベルは30だから30人。クールタイムは2時間だな。

転移先は直接目視するか行った事がある場所。

その他では念話の通じる知り合いが目印として居る場所だ」


 つまり国境砦はサンボーを目印に転移したのだろう。

温泉拠点への接近は、魔の森を目視でショートカットしたということか。

パシリ共々、ガングロにより転移で運ばれた者たちが30人、往復回数によってはそれ以上いるわけだ。

そしてクールタイムが終われば、次は目視出来る温泉拠点の内部に転移されてしまう!


「結衣からの連絡があってから何十分経った?

まずい、飛竜を飛ばしても戻るのに2時間以上はかかるぞ!」


 いや、ガングロは別の勇者を連れて国境砦に戻るかもしれない。

となるとここも安全ではなくなる。

新たな勇者が襲って来る可能性がある。

ならば、さちぽよは置いていかざるを得ない。


「さちぽよは、こっちで腐ーちゃんを護衛して欲しい。

転移が使えるならば、王国アーケランドの勇者の誰が来てもおかしくない」


「えー、大樹ヒロキと離れるのは嫌だなー」


「頼むよ。埋め合わせはするから」


「もう、しょうがないなー」


 おそらくガングロは温泉拠点の攻略の方だろう。

さちぽよは保険だ。

それといざという時は、あれを試すしかないのだ。

さすがにさちぽよを巻き込むわけにはいかない。


「腐ーちゃんを隣国エール王国の王都に送り届けるまでが任務だからね。

ラキにオリオリも護衛を頼んだよ」


「クワァ!」 シュタ!


 ラキとオリオリも頼もしい護衛だ。

いざとなれば念話で指示も出せる。


「赤T、眷属は無害だと隣国エール王国の人たちに伝えて攻撃されないようにしてくれ」


「おうよ。金属バット、こいつも攻撃するなよ?」


 赤Tがカメ子の不可視化を解いて金属バットに紹介する。

そうだ、金属バットにもカメレオンを付けておくか。


「その魔物は眷属だったのか。

以前に倒したことがあるぞ。

あれは誰の眷属だったのだろうな?」


 いや、やめとこう。

カメレオン4は金属バットに倒されていたんだった。

同じ魔物はまずいだろう。

まあ、連絡は腐ーちゃんに付いているキバシさん経由で良いか。


「連絡はキバシさんでするから。

じゃあ、戻るわ」


 俺は4人と別れて温泉拠点に戻るため、飛竜で飛び立った。

時間が惜しい。俺も転移を使えるようにならないものか。

アイテムボックスもあるし、スキルに時空魔法は持っているのだ。

可能性はあるはずだ。

あれを試すのだけは最後の手段にしたいからな。

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