第313話 金属バット洗脳解除

 金属バットはヤンキーでも筋の通った漢だ。

パシリのやらかしには、公正な態度で臨み、パシリをボコボコにして、自分の監視下に置いて二度とさせないと誓った。

ヤンキーというと仲間意識が第一で、仲間の犯罪まで庇って擁護してしまうような奴が多い。

しかし、金属バットはおバカだが、仲間であっても曲がったことは正すような漢だった。


 王国アーケランドの悪辣さは、恋人のさゆゆを奴隷として売られ、金属バットも知っているはずだ。

金属バットの立場なら、どう考えても王国アーケランドに与するような状況ではない。

なのに、金属バットがこのように王国アーケランドの尖兵となっているのは、強力な洗脳によるところが大きいはずだ。

俺がなんとか金属バットを助けたいと思ってしまうのも、彼のそのような立場と、ラキという存在あってのことだ。

腐ーちゃんが危ないといっても、金属バットを殺してしまって良いのであれば、アマコーのようにラキのドラゴンブレスで一発だった。

その保険がなければ、このような甘い行動は取れなかっただろう。


「フーチャンオキロ」


 キバシさんを通して腐ーちゃんに問いかけ続ける。

T-REXが盾になることで、金属バットによる腐ーちゃんへの攻撃はなんとか回避出来ている。

赤Tも後退して回復薬でラキの爪斬波による傷を回復する余裕が出来た。

ラキもハウリングを使って金属バットのヘイトを自分に向けさせている。

金属バットはアマコーを倒したのがラキだとの認識があったのだろう、そのハウリングによるヘイト集めに簡単に乗っかった。


「フーチャンウスイホンオチテル」


ガバッ!


『どこ?』


 腐ーちゃんが、慌てた様子で目を覚まし、周囲をキョロキョロと見回す。

まさか苦し紛れの一言が、こんなに効くなんて……。


「オキタカ」

「アブナイセントウフッキセヨ」


『アマコーにやられたでござるか』


 腐ーちゃんは一頻り頭を振ると、周囲を見回し赤T、ラキ、T-REXが金属バットを抑えている様子を目にして全てを理解したようだ。

その目には遺体となったアマコーの姿も映っていただろう。


『これはもう手加減している場合ではござらんな』


『闇召喚オリオリ』


 腐ーちゃんがオリオリを召喚した。

まさか腐ーちゃんも眷属を召喚出来るとは知らなかった。


『オリオリ、糸結界! 金属バットの足を止めろ』


 オリオリが粘着糸を放出し、金属バットの進路を妨害する。

腐ーちゃんはござる口調をする余裕もないようだ。


『これは使いたくなかったけど仕方ない。

腐食魔法、二次元化!』


 腐ーちゃんの腐食魔法の特殊スキルである【二次元化】が発動した。

ターゲットは動きの止まった金属バットだ。

このスキルは対象を二次元の世界に落してしまう究極魔法だ。

高次元の存在を下の次元の存在は認識できない。

腐ーちゃんの【二次元化】は、対象を四次元――立体+時間――の世界から平面の世界に落す。

その二次元の住人は、高次の世界を認識できなくなるのだ。

発動に時間がかかり、対象が動けないことが前提で使いどころが難しく、さらに人に使うと発狂しかねない危険な魔法だった。


『死ぬよりはマシでござろう』


 こうして腐ーちゃんは金属バットを拘束することに成功した。

だが、いつまでも二次元化したままでは、金属バットが廃人になってしまう。

腐ーちゃんは、アマコーが死んだことで、発狂してもそれよりマシだと思ったようだ。


 温泉拠点の様子を伺うが、なんとか現有戦力で迎撃可能なようだ。

外壁が突破されたが、内壁の外の地面の蓋をゴレムたちが土魔法で外し堀が出現していた。

そこに突破して来た部隊を落す事に成功したようだ。

いま、堀には温泉から引いた温水が溜まりつつある。

これにより、パシリも高速での移動が不可能となった。

水がパシリの弱点だったのだ。


「温泉拠点はまだ余裕か。

ならばさっさと金属バットの洗脳を解きに行こうか」



 飛竜で現場に到着すると、金属バットは薄い板に嵌ったような格好になっていた。


「これが二次元化か」


 俺はその板状になった金属バットに触れてみる。

高次の存在が、下位の次元の存在に触れることは可能なようだ。


「さちぽよ、抱き着く準備!」


「おっけー」


 俺は闇落ちを回避するためにさちぽよに抱き着き攻撃を頼んだ。

金属バットの洗脳が強ければ強いほど、闇落ちの危険性が高まる。

それを回避するのがお色気攻撃なのだ。


「おまえ、本当に生きてたのかよ」


 青Tに聞いていたとはいえ、死んでいると思っていたさちぽよが目の前に現れたため、赤Tがさちぽよに話しかける。


「うっさい、バカT、大事な時なんだぞ」


 たしかにこんなところで邪魔が入るのは面倒だ。

時間もないし赤Tには下がってもらう。


「洗脳解除!」


 実は再洗脳なんだけど、外聞が悪いから洗脳解除にしておいた。

王国アーケランドへの過度な忠誠心を失くして、礼儀作法を残す感じで良いかな?

青Tもそんな感じでうまく行ったからな。


「よし、こんなもんか。

さちぽよ、抱き着いて」


「ムフフ、続きも行っちゃう?」


 さちぽよが俺に抱き着きながら余計な事を言う。

今回の闇落ち率はたいしたことはなかったようで、変な性欲は湧いて来ていない。

抱き着きだけでなんとかなりそうだ。


「ないから!」


 そうだ、それと早く二次元化を解かないと金属バットの精神に影響する。


「腐ーちゃん、二次元化を解除してくれ」


「何やってるのかわからんが、こころえた」


 腐ーちゃんが言う「何やってるのか」はさちぽよの抱き着きのことだ。

そこを気にしつつも腐ーちゃんは金属バットの二次元化を解いた。

その瞬間、金属バットが咆哮した。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 それは二次元化という異常な状態に居たことと、王国アーケランドに洗脳され操られていたこと、さゆゆを奪われたこと、それを許せないという感情と今まで抑制されたその他諸々が入り混じったものの爆発だろうか。

アマコーが死んだのも王国アーケランドによって同級生殺害を強要されたせいだ。

腐ーちゃんや赤Tを恨むようなことは金属バットならばしないと俺は思っていた。


「よくも、よくも」


 え? やっぱりアマコーのことが逆鱗に触れてる?

金属バットは内から溢れ出る怒りで震えていた。

そりゃそうか。事故とはいえ、そっちから殺そうとしたとはいえ、仲間の死はそう簡単には割り切れないか。

俺たちの事を恨む気持ちが残ってしまったか。


「許せねー!!!」


 ああ、やっぱりか。

これは再洗脳が必要かな。


「よくも俺のリーゼントを切りやがったな!!!」


 は?


王国アーケランドめ、ぶっ殺してやる!」


 どうやら金属バットの逆鱗に触れたのは、王国アーケランドによる髪型変更の方のようだ。


「そこかい! さゆゆのことは!?」


「それも許せねー」


「アマコーは?」


「死んだのは悔しいが、アマコーを倒さなければ腐ーちゃんが死んでたんだろ?

これは王国アーケランドが俺たちを争わせたせいじゃん。

その落とし前も王国アーケランドにとってもらう!」


 どうやら俺の洗脳は王国アーケランドを心底憎んだ戦士を誕生させてしまったようだ。

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