アーケランドと泥沼の戦いへ

第311話 アーケランド軍侵攻1

Side:温泉拠点 結衣


 大樹ひろきくんが不在になる間、温泉拠点の防衛を任されたんだけど、それもほとんどは大樹ひろきくんの眷属がやってくれている。

私は残った皆と普通に生活するだけだった。


 相手の戦力が侮れないということで、誰かが大樹ひろきくんに同行しなければならなかったんだけど、戦力的にさちぽよが選ばれた。

さちぽよは、王国アーケランドには死んだことになっていて、無事が知られないようにと、ずっと隠れていた。

今まで接触してきた外部の人って王国アーケランドの人ばかりだったから。

だから、大樹ひろきくんが腐ーちゃんと話す様子で、外出の絶好の機会だと準備万端で待ち構えていた。


 さちぽよは、大樹ひろきくんに救われてから、大樹ひろきくん大好きになっている。

さちぽよの行き過ぎた積極性は私たち妻ーずにも知られている。

それをあえて抑えているのも辛いことだろう。

妻ーずで話し合った結果、さちぽよの気持ちは本物だから受け入れるという結論になっている。

今回の同行で、必ず大樹ひろきくんをものにすることだろう。

ガンバレ。


 ◇


 大樹ひろきくんとさちぽよが飛竜で飛び立ってしばらくしたとき、キラトから報告が上がってきた。


「奥方様、魔の森に侵入者です。

走竜と走鳥に乗った高速部隊のようです。

半日でここまで到達するでしょう」


「GKの配下は?」


 まず魔の森に入った侵入者には、GKの配下が攻撃するはずだった。

しかし、キラトの口ぶりだとGKの配下が突破されることを想定しているみたい。


「GKの配下は歩兵の足止めや、隙を突いて兵力を削る予定でした。

高速部隊の速度に付いていけません」


 これは大樹ひろきくんに報告を入れるべきかな?

でも、それで大樹ひろき君が戻って来てしまったら、腐ーちゃんと赤Tが危ないんだよね?

まだここ温泉拠点が危険になったわけじゃないから、少し様子をみようかな。


「キラトの部隊は?」


「不可侵領域にて待機中です」


 不可侵領域とは、ここに入って来たら攻撃の意思ありと見なすという、大樹ひろきくんが設定した領域のことだよね。

王国アーケランド兵の魔の森への侵入自体を禁止しているんだけど、そこを超えたら王国アーケランドによる宣戦布告の意思表示になる。

そうなったら全面戦争なんだよなぁ。

キラトの部隊は普通のゴブリンたちではないみたいだから大丈夫だとは思うけど……。

不可侵領域を超えてしまったら大樹ひろきくんに伝えよう。


「後続部隊が馬車で続々と魔の森に侵入して来ています。

ホーホーから連絡です。

その数先行部隊含めて2千」


 明らかに全面攻撃だ。どうしよう。

だけど、ここまでの移動に馬車でも1日半かかるんだから、まだ大丈夫かな。


「走竜、走鳥隊が不可侵領域に侵入しました」


「コンコン、居る?」


 大樹ひろきくんに念話してもらおうと、連絡係のコンコンを呼んだんだけど、いない。

まさか、こんな大事な時に残念キツネを体現するなんて。


「キラト、大樹ひろきくんに念話できる?」


「申し訳ありません。すべてのリソースを配下の指揮に使用中です」


 念話の使用中は他の者への念話が出来ない。

キラトは配下に念話を使っている最中のため、大樹ひろきくんに念話する余裕がなかったみたい。


「不二子ちゃんは?」


「前線に出ています」


 どうしよう?

そうだ、裁縫ちゃんのところの眷属を借りよう。


「南より奇襲! 我が眷属が倒されました。

敵不明部隊、拠点に接近中! 速い!」


 しまった。魔の森の東側からの侵入は囮だったんだ。

敵の狙いは少数精鋭による南側からの奇襲。

そっちに同級生が来ているのかもしれない。


「運動部3人組は戦闘奴隷と共に壁の警戒と防御を。

マドンナちゃんはここで待機するように誰か呼びに行って。

裁縫ちゃんと眷属も呼んで!」


「「「はい!」」」


 メイドたちが伝令として走る。

まさかこんなに早く拠点が脅かされるとは思っていなかった。

私の経験が少なすぎるんだ。


「はー、良いお湯だった」


 コンコンがひとっ風呂浴びた爽快気分でやってきた。

私も余裕があると思っていたけど、なんか腹が立つ。

でも、説教は後だ。

いま大事なのは、大樹ひろきくんに連絡することだ。


「コンコン、大樹ひろきくんに念話!

温泉拠点に敵接近、およそ2千」


ドーーーン!


 その時、南門の方から火魔法による爆発の音がした。


「奇襲部隊の攻撃を受けた。迎撃する。

コンコン、これも伝えて」


「がってんだ」


 暢気な様子だったコンコンも、事の重大性が理解出来たようだ。

それにしても、警戒が厳重だった南からの奇襲とは、いったい何があったのだろう?

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