第310話 暗黒面

 ラキのドラゴンブレスは強力だ。

人に直撃すれば確実に致命傷となる。

この世界、スキルによってはとんでもない防御力を発揮できる。

腐ーちゃんが持っている物理障壁や魔法障壁などが良い例だろか。


 だが、それも万能ではない。

スキルレベルが低かったり、スキルの発動が任意だったりすれば、その防御をすり抜けたり、発動が間に合わなかったりする。

さきほど腐ーちゃんが魔法攻撃をくらってしまったのも、魔法障壁が自動ではなかったからだ。

死角からの広範囲攻撃、気付いた時には魔法障壁を張る暇は無かった。

それにより腐ーちゃんはダメージを負ってしまった。


 ドラゴンブレスを受けたアマコーに、そんな防御力があれば、生きているかもしれない。

そんなあり得ない願望が俺の脳裏をよぎったのだが、さすがに現実はそう甘くはなかった。

いや、甘いのは俺の覚悟か。


 アマコーはドラゴンブレスに上半身を消し飛ばされて死んでいた。

もし【不死】のスキルでもあれば、生き返るかもしれないが、さすがに無理のようだ。

エリクサーを使えば死んで直ぐならば生き返るとも聞くが、そのようなものは誰も持っていないだろう。

アマコーの死は確定だった。


 俺はラキに命じて同級生を殺してしまったのだ。

それも洗脳によって戦わされているだろう同級生をだ。

洗脳さえ解けば戦わなくて済むかもしれなかったのに、それすら出来ずに殺してしまった。

腐ーちゃんを助けるため。意図せぬ事故。殺しに来たんだから手加減する余裕が無かった。

言い訳はいくらでもあるが、その現実は俺の心に黒い影を齎した。


『ジョブ【魔王】のレベルが上がりました』


 システム音声が頭の中に響く。

どうやら俺は暗黒面に落ちたようだ。


『殺せ!』『敵は殲滅だ!』


 心の奥底から命令が聞こえる。

俺はその強制力に抗えず、そうラキに命じそうになる。


「どうしたんだよー。怖い顔になってるぞ?」


 ハッと我に返った。

俺は何を口走ろうとしていた?

俺を現実に引き戻したのはさちぽよの攻撃だった。

こいつまた俺のなにを握りやがった。

だが、それで助かったのだ。文句の言える道理ではない。


「さち、気付いたんだー。

バックなら出来るじゃん!」


「アホか!」


 俺はさちぽよの頭を軽くはたいた。

感謝を込めた突っ込みだ。


「えー、ヒロキが協力すれば出来るっしょ」


「しないから!」


 だが、これは何だ?

さっきの声と強制力が消えた。

まさか、お色気行為が、暗黒面から抜け出す鍵なのか?

そういや、戦いの後、俺の気持ちが高ぶり、結衣を激しく抱いてしまうことがあった。

まさか、その行為が俺を救ってくれていたのか?

これは検証する必要があるな。


「さちぽよ。抱きしめてくれ」


「ムフフ、ついに本気になったか」


 さちぽよは、また鞍の上で180度位置を変えると、俺に向き合って抱き着いて来た。

脚を絡めるのも忘れない。

暖かな気持ちがしみ込んでくる。

暗い闇をお日様の光が照らすような感覚。

これこそ、俺が暗黒面に落ちるのを回避する方法。

俺はそう確信した。

これで洗脳魔法を使っても、魔王化しないで済むかもしれない。

いや、今までも嫁たちに救われていたのだろう。

ん? 魔王化?

そうか、暗黒面に落ちるとは魔王化することだったんだ。


「ありがとう。助かった」


「なんだかわからないけど、どういたしまして?」


 さちぽよが一緒に来てくれて良かった。


「そんじゃ、バックでしようか」


 さちぽよはまた鞍の上を180度位置を変えるとお尻を突き出し、鎧の下の下着を横にめくった。

大事なところが丸見えだ。

これ責任取らなきゃだな。


「やめんか!」


 思わずさちぽよの突き出されたお尻をペチリと叩いてしまった。

それは得も言われぬ快感だった。

ああ、これ良い。

いや、違う。変なフェチに目覚めてしまうところだった。


ここでは・・・・しない。

そんな暇はなくなった」


 視覚共有したラキの視界に怒り狂った金属バットが迫っていた。

そこへ倒された騎士の剣を拾った赤Tが割って入ろうとしている。

まだ危機は去っていなかった。

ヤンキー最強の金属バットが腐ーちゃんに向かって来ていたのだ。

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