第295話 臨戦態勢2

 メイドさんたちに呼ばれてリビングに同級生全員が集まって来た。


「招集って何かあったの?

いま大事なところだったんだけど?」


 裁縫女子が緊張感の無い様子でクレームを入れて来た。

裁縫仕事の手を止めさせるに足る理由があるのかと息巻いている。


「伯爵との会談のこと?」


 瞳美ちゃんもピンと来ていない。

自分が教えたことで何かミスがあったのかと心配しているようだ。


「やっぱり、あれはおかしいよね?」

「ああ、約束と違うと思った」


 ベルばらコンビは、伯爵との会談に同席していたので、カドハチ便の物資の変化に、決まり事が破られたと感じていたようだ。


「やはり王国は信用ならなかったということか」


 セバスチャン青Tもハルルンの手を握りながら納得顔で頷く。

セバスチャンは、ハルルンのこともあり、王国に対して不信感、いや憎悪の念を持っている。

先の伯爵との会談結果も信用しておらず、戦争ならば隣国に付くべきだという考えだ。


「え? 何のこと? 私を置いてかないでよ!」


 裁縫女子が話の流れに付いていけずに慌てる。

どうやらサッカー部女子も同じく付いていけていないようで首を傾げている。


「まあ、先走らずに順を追って説明してあげて欲しいでござるよ」


 腐ーちゃんは、ある程度察しているようだけど、理解出来ていない面々に説明が必要だと、俺に発言を促してくれた。


「王国と隣国が戦争になりそうだって話はしたと思うけど、それがここに飛び火しそうだ」


「え? 伯爵と話がついたんじゃなかったの?」


 瞳美ちゃんもやっぱりそう思うよね。

あれだけ作法とかいろいろ教えたり苦労したので、『保養地の安全は王国が保証する』と伯爵から言質が取れて、その成果に安堵していたからな。


「それが、この拠点への物資輸送に制限をかけて来たんだ。

食料や武器の持ち込みが禁止された。

食料輸送の禁止は、ここの安全を保証するという約束を反故にしたと同じとみている」


「さすが王国、えげつない。

食料を止めるって死ねってことじゃん」


 さちぽよが吐き捨てるように言う。

本国からの補給がままならず、食料の生産が出来ない(と思われている)ここの安全を保証するという約束ならば食料は止めてはならない。

それをするのは飢えて死ねと言うのに等しい。


「つまり、王国は私たちに喧嘩を売ったってこと?」


「伯爵自身はそんな素振りは無かった。

でも護衛の1人の目つき、あの護衛が何らかの調査官で、俺たちに不都合な報告をしたのかもしれない」


「言いにくい事ですが、ここは魔物を連れた人間が多すぎます。

その魔物の脅威度レべルも高い。

それが危険視――例えば魔王軍の疑いとか――された可能性があるのでは?」


 セバスチャン青T、そういうことは先に言ってよ!

モドキドラゴンで麻痺してたけど、山猫やキラービーって、たしかに一般的な感覚で言えば凶悪な魔物だったよ。

それを護衛としてベルばらコンビが侍らせていたんだった。

まあ、500人の兵士を目の前に俺を護衛するんだから、眷属が必要だったのは理解出来る。

仕方ないが、俺も含めて迂闊だった。


「伯爵とモーリス隊長だけならば、大丈夫だったんだけどな」


 後の祭りだった。


「それで、皆を集めてどうするつもりよ」


 やっと話を理解した裁縫女子が結論を急ぐ。

それはいま話そうとしていたことだ。


「逆にどうするかを皆で決めたい。

これは俺が勝手に決めて押し付けることではないと思うから」


「選択肢は?」


「・このまま中立でやり過ごし、攻撃されたら反撃する。

・隣国に味方して参戦する。

・王国に味方して参戦する。

・この拠点を放棄して逃げる。

こんなところかな?」


「王国に味方はないよ」


 バスケ部女子が突っ込みを入れる。


「それは解ってるけど一応選択肢には必要でしょ」


「あと、王国と隣国の2国を敵として参戦するもあるじゃん?」


 さちぽよ、好戦的すぎるぞ。

たしかにそれもあるけど、今の俺たちにそれが出来るか?


「まあ、選択肢にはあっても良いか」


「まだ王国が攻めて来るとは限らないわよね?

食料も備蓄があるし、食人植物トレントからパンもとれるから様子見した方が良いんじゃないかしら?」


 裁縫女子は中立して攻撃されたら防衛か。


「王国は叩きたいですが、皆の安全を考えると中立して防衛が良いかと」


 意外なことにセバスチャン青Tも中立だった。

ハルルンの復讐ために王国を叩きたいところだが、今はハルルンの平穏のために引いたのかもしれない。 


「さちはー、隣国とは関係なく王国と戦うかな?」


 さちぽよ、新たな選択肢を出さないでくれ。

なんで隣国と連携しないんだよ。

俺たちだけでは不可能なことが、隣国と一緒ならば可能かもしれないんだぞ。


ノブちんたち隣国と一緒に戦うが良いかな」

「私も」「じゃあ私も」


 運動部3人は隣国に味方して参戦と。


「私は大樹ヒロキくんに任せる」

「私も」「じゃあ私も」


 結衣、麗、瞳美ちゃんの3人はおれに委任か。


「それがしは、中立で防衛でござる。

王国には他にも捕えられている日本人がいるはずでござる。

それより薔薇咲メグ先生が現れたら戦えない!」


 そう言うと腐ーちゃんが手で顔を覆った。

よっぽど思い入れのある人物なのだろうか?

心配で仕方ないという様子だ。


「わかります! 私も中立にします」


 瞳美ちゃんが中立で防衛になった。

ていうか薔薇咲メグ先生って誰?

先代勇者なのか?


 これで中立で防衛が4票、王国と単独で戦うが1票、そして隣国に味方して参戦が3票だ。

つまり委任分の2票を加えた3票を持つ俺に決定権が与えられた。

ハルルンは病気により投票出来る状態ではないので辞退扱いだ。


「俺は隣国に味方して参戦を選ぶ。

ここで王国を叩くことで、召喚の秘密が手に入れば地球への帰還の可能性も出て来る。

だが、中立意見も尊重したい。

表向きは中立で、裏で隣国に味方するのはどうだろう?」


「それで良いんじゃない?」

「最初からそれを選択肢に入れてよ」

「そうだよ。裏で動くのは決めてたんでしょ?」


「ごめん、裏で動くのは俺だけのつもりだったんだ」


「そこも本人の意志に委ねれば良いだけだよ」

「そうそう」


「そうだったね」


 こうして俺たちは中立を装いつつ、裏で隣国に味方して王国と戦うことに決めた。

もちろん王国から攻撃を受けたら徹底的に戦うけどね。

その時はたぶん伯爵軍は攻撃して来ないんじゃないかと思っている。

オールドリッチ伯爵は悪い人には思えないんだよな。

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