第294話 臨戦態勢1

「カメレオン4がやられた」


 俺は視覚共有のために座っていたソファー上でそうぽつりと呟いた。

完全に視覚を共有するモードだと、座っていないと危ないのだ。


「え? うそ」


 結衣が、その声を聞きつけ、信じられないという様子で寄って来る。


「王国の国境砦に潜入させたのだが、金属バットに気付かれて倒されてしまった」


「可愛そうなことをしたね」


 ソファに項垂れて座る俺を結衣が後ろから抱きしめてくれる。

その癒しで幾分楽になった気がする。


 これでも眷属化せずに放出した魔物はかなりの数を犠牲にしている。

侯爵軍との戦闘で使い潰したり、食用となることを見込んで召喚した魔物も沢山いる。

だが、眷属化して手足のように使っていた魔物が死んだのは初めてだった。

身勝手な話だが、身近な眷属の死に俺は思いの外ショックを受けていたようだ。

感情移入しないように、もっとドライに眷属と接するべきなのかもしれない。

戦争に巻き込まれれば、今後は眷属を使い潰すような事態になる可能性もあるのだ。


「ありがとう。もう大丈夫だ」


 俺は結衣に礼を言うと立ち上がった。

このまま対策も討たずに中立を続けていては、この温泉拠点も危ないかもしれない。

防衛体制を整えなければ……いや、王国軍に勝てるだけの戦力を充実させなければならない。


『GK、魔の森を封鎖だ。

配下を使ってカドハチ便以外の侵入を制限しろ』


『ギギ』


 GKから了解を意味する概念が伝わって来た。


「キラト、配下は招集出来るか?」


 俺は護衛として温泉拠点に常駐していたキラーゴブリンのキラトにゴブリン軍団の招集を要請した。


「武器も配布して魔の森で編成済みです」


 キラトは、自ら配下を召喚することが出来、その配下を戦力となるように育てていた。

その配下たちにカドハチから手に入れた武器防具を装備させている。

ゴブリンはGKの配下にとって捕食対象だったが、キラトの配下である証拠として左腕に赤い腕章を付けさせたため、その目印のあるゴブリンは食われなくなっていた。


「数は?」


「武器持ちが500。武器無しが200になります」


 カドハチ便に頼んでいた武器が持ち出し禁止になったせいで、武器を持っていないゴブリンが200もいるようだ。


「わかった。ゴラムたちに土魔法で棍棒を作らせる。

それを装備してくれ」


「数だけならば、あと300増やせますが?」


「というと、今の700は上位種なのか?」


「そうです。最低でもナイト、アーチャー、メイジ、プリーストになります。

増やせるのはノーマルぐらいですが……」


 最低でもということは、それ以上のキングやロードもいるということか。

ちょっとした軍隊よりも強そうだぞ。

そういや、俺たちが倒したオーガの軍団だって200じゃなかったか?

あれの対処に四苦八苦していたのだ。

このゴブリン軍団はとんでもない戦力かもしれないぞ。


「ノーマルでも構わない。

今は数が力となる」


 王国軍5千人に攻め込まれたらこんな小さな拠点などあっと言う間に攻め落とされるだろう。

それを防ぐには数が必要だ。

千単位の戦いとなれば、正面でぶつかり合える人数はたかが知れている。

まずいのは温泉拠点を全方位から攻められるパターンだ。

それを防ぐのに千のゴブリン軍団は有効だろう。


『T-REX、モドキン、飛竜、いつでも拠点に戻れるようにしていてくれ』


 巨大ドラゴン3頭は、いざとなったら眷属召喚で呼び寄せるつもりだ。


『翼竜、帰って来い。偵察任務に出てもらう。

カブトン、クワタン、ハッチ、ヘラクも偵察任務だ』


 翼竜や昆虫魔物には空から王国軍の動きを追ってもらう。


『オケラもその場で待機。いつでも呼び出せるようにしておいてくれ』


 餌のある荒れ地に行っているオケラにはいざとなったら、王国軍の足元を掘り抜いてもらう。

移動出来なくさせれば分断して各個撃破が可能だろう。


「結衣、皆をリビングに集めてくれ。

今後の対応を検討する」


「わかった」


 さて、まだわからないが、俺たちの拠点に食料を渡さないのは敵対行為ともとれる。

王国がその気ならば、一戦交えるのも有りか。

まあ皆の意見も訊かないといけないんだけどね。

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