第296話 偵察部隊を偵察
カドハチ便でオールドリッチ伯爵から手紙が届いた。
内容を掻い摘んで話すと、戦時統制により武器食料を渡すことが出来なくなったというもので、その詫び状だ。
わざわざそれを伝えて来た伯爵の真意は判らないが、王国上層部が決めたことで、伯爵の意志ではないことだけは良く判った。
オールドリッチ伯爵は国境の街を守護する役目だが、脳筋の武闘派というわけではない人物だ。
伯爵自身は俺たちと敵対したくないと思っていると信じたいところだ。
先日より、魔の森はGKの配下により封鎖されている。
温泉拠点への道を唯一通行できるのはカドハチ便のみ。
その警戒網に王国の偵察兵が引っ掛かり始めた。
ほとんどの偵察兵がGK配下による恐怖の放射に耐えられなかった。
だが、ついにその恐怖に耐える偵察兵が現れた。
どうやら、魔物からの恐怖に耐えられる訓練を積んでいるか、スキルで克服している精鋭部隊のようだ。
その報告をGKから受け、最重要監視対象と認定、ホーホーを監視に付けた。
『報告、この先はダメです。
一般兵は恐怖で通行不可能でしょう』
ホーホーが拾った会話が俺に念話で伝わって来る。
それを俺は偵察している最中だ。
『魔の森を通過すれば、裏から隣国へ侵入できる。
なんとしてでも通行ルートを開拓するのだ』
どうやら、俺たちに危害を加えるための作戦行動ではないらしい。
隣国への侵攻作戦の一環だろうか?
『やはり、あの道を使うべきなのでは?』
『あの道は、ジャイアントセンチピードが封鎖している』
『でも、商人の荷馬車が平気で通っているとか』
カドハチ便のことか。
『何やら専用の護符があるらしい。
供出を命令したが、無駄だったそうだ。
どうやら、護符の所有者が正当か判断されているらしい』
『でも、それならおかしいじゃないですか。
魔物が護符の所有者を判断しますか?
つまり魔物の使役者がいるってことですよ?』
ああ、しまった。
状況的にそう思われても仕方ないじゃないか。
単純に魔物が護符を嫌うのであれば、誰でも使用出来るはずだ。
俺としては護符に持ち主限定機能があるつもりだったのだが。
当然嘘で、そんなものは付いていない。
実際はホーホーが御者と馬車がカドハチ便か判断しているのだ。
その点、魔物が判断出来ないというのは誤りだが、それはどうでも良い話だ。
護符の仕組みに人為的判断が含まれていると思われたのが問題なのだ。
ホーホーで判断が付かない場合は、速やかに俺まで情報が伝わって、俺が判断していたのだから。
『護符を鑑定したところ作成者はヒロキという名だそうだ。
どうやらその名の響きから召喚者ではないかと疑われている』
え? 護符の作成者の名前が鑑定出来るの?
それに俺の正体がバレた?
だから約束が反故にされたのか?
『召喚者ならば勇者様なんですよね?
どうして謎の貴族の元に?』
『魔の森に召喚されてしまい、死にそうな目にあったところを、謎の貴族に拾われ協力させられているのだろうとの見解だ』
なんだ。謎の貴族=召喚者と思われていたわけではないのか。
『では、救出して王国のために働いてもらうのが筋ですね』
『そうだな。死んだとされていたが、生きていると判ったからには、王国で保護する必要がある。
その救出も本作戦の一部だからな』
召喚者は王国のために働くのが当たり前ってか。
やはり王国は俺たちを手駒としか思ってないんだな。
それにしても、作戦だと?
温泉拠点を攻める作戦があるのか?
『召喚に大金と人命がかかってますものね』
『こら、人命の話は口外するな!』
『こんな場所では誰も聞いてはいませんよ』
聞いてます。
『それもそうだが、つい口走ってしまう可能性がある。
普段から口にしないことだ』
人命か。召喚の儀式で人命が失われているってことか。
つまり、戻すのにもそれ相応の人命が必要ってことになるぞ。
嫌な話を聞いてしまった。
俺たちは、元の世界に帰るために、誰かの命を犠牲にすることが出来るのだろうか?
これは帰還を望んでいる同級生たちには話せないぞ。
『無駄話は終わりだ。話を戻すぞ。
調査にて街道と貴族の保養地に向かう道の間程度しか通行は不可能だと結論する。
魔の森の深部は危険だと判断。
やはり謎の貴族を利用して道を使うのが正解だろう』
『竜人に、魔王の配下に協力を要請するのですか?』
『いまは謎の貴族として大人しくしてくれているのだ。
利用しない手はないだろうよ』
え? 竜人が謎の貴族と繋がって王国では確定情報扱いになってるのか。
俺って王国では魔王の配下扱いだったんだ!
それにしても、俺たちが動かないのを良いことに利用するつもりだったとは……。
ペラペラ喋ってくれたけど、まさか欺瞞情報ってこともないだろう。
これは面倒なことになって来たぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。