第293話 スパイ潜入
最近カドハチ便が不定期になった。
どうやら戦争が現実味を帯びて来たようだ。
「申し訳ございません。
戦時統制で輸出に制限がかかりました。
街から出る荷が臨検され、このような物しか持ち出せません」
カドハチ商会の手代ケールであっても、戦略物資である食料や武器などは持ち出せず、贅沢な服など軍に不必要な物しか持って来れなくなっていた。
アイテムボックスの中を調べる超レアな鑑定の魔導具も持ち出されているそうだ。
これは交戦国認定された隣国に戦略物資が流れないようにとの必要な措置のため仕方がないところではある。
「軍に向けた食料を横流ししようにも、この道への入口も見張られており、臨検される始末です。
残念ながら食料は持ち出せませんでした」
おかしい。中立を宣言した俺たちにまでなぜ見張りが付くのだ?
あのオールドリッチ伯爵との会談は上手くやり過ごせたのではなかったのか?
避暑地の安全は保証されたのではなかったのか?
そこには食料の安定供給も含まれていたのではないのか?
戦争に向かって戦略物資の統制が始まるのは仕方のないことなのかもしれないが、超レアな鑑定の魔導具を持ち出してまでするか?
それにしても、備蓄と
眷属の上限数と餌の確保の問題であまり増やせなかったけどな。
魚にあげているゴブリン製の毒抜きペレットじゃパンの味も落ちるし
さすがにそれを戦闘奴隷たちに食わすわけにもいかない。
まあ、カドハチ便が来るだけでもマシではあるな。
「そういった情報を持って来てくれるだけでもありがたい」
「そう言っていただけて助かります。
ああ、そうだ。
王国の軍には棍の勇者と爆裂の女勇者の2人が合流したもようです」
「知の勇者と疾風の勇者が先にいて、勇者は合計4人になったのか」
「はい。それに伴い兵の数も増え、5千は下らないかと」
つまり棍の勇者と爆裂の女勇者が軍を引き連れて来たということか。
思ったよりも到着が遅かったのはそういうことか。
勇者ならば、移動速度も速いだろうと思っていたが、移動速度は連れている兵により遅くなるわけだ。
「そうなると戦が近いな」
兵の数は食料の調達などでカドハチ商会も情報を得ているだろうから正確な数字なのだろう。
だが、王国はその5千人を無駄に食わす余裕はないはずだ。
1日でも遅れれば、それだけ食料を消費する。
近々、戦端が開かれるのは確実だろう。
さて、隣国の勇者たちとは、ある程度意思疎通が可能だが不安材料がある。
ある程度というのは、赤Tの理解力の問題と、せっちんたちの誤解のせいだ。
隣国に送った親書により誤解は解けたと思うのだが……。
そういや親書ってどうなったんだろうか?
赤Tに託したそうだが、なんだか不安だぞ。
まあ、カブトンたち昆虫魔物に掴まれて空から隣国に侵入しない限り、俺たちを魔物と思って攻撃することもないだろう。
少なくともノブちんからの報告が上がれば、俺たちも隣国で歓迎されることだろう。
となると、王国の4人の勇者の洗脳を解いて説得をするのが喫緊の課題ということになる。
だが、それは両刃の剣だ。
王国に自ら与している勇者を説得しようとしたならば、手痛い反撃を受けかねない。騙し討ちのような形になれば、こちらの身を危険に晒すこととなる。
「確実に洗脳されていると判っているのは金属バットぐらいか」
あいつがまず洗脳されたのは青Tことセバスチャンから確認済みだ。
洗脳後の金属バットに会ったことがあるそうだ。
気持ち悪いぐらいに人格が変っていたらしい。
一番危険なのが知の勇者と呼ばれているサンボーだろう。
王国との間に入って命令を下す立場だったようで、自ら王国に与した可能性が一番高い。
だが、他の勇者のことは情報不足で判らない。
まず彼らの素性を探るべきなのかもしれない。
それにより、彼らのある程度の能力は青Tとさちぽよから聞くことが出来るだろう。
ここはカメレオンを偵察に派遣するべきか。
話をつけようにも、明らかな敵対者を相手にする危険は冒したくない。
とにかく情報が足りなすぎる。
◇
カメレオン4を王国の国境砦に潜入させることにした。
身を隠して偵察してもらうためだ。
なるべく勇者の誰かの傍に行かせて会話を盗聴出来れば助かる。
「空中から潜入させるか」
カメレオンの移動速度を考えたら、空輸が一番速そうだった。
国境砦の中なので、カメレオンに歩かせて侵入というのも現実的ではない。
俺はさっそくカメレオン4の国境砦侵入を実施することにした。
カメレオンは接触した者も隠す能力がある。
消えたクワタンに運んでもらって降ろすのが良いだろう。
視覚共有でカメレオン4と繋がる。
どうやら今は空を運ばれているところのようだ。
視界に国境砦が見えて来た。
空中から難なく侵入に成功する。
『人気の無いところにカメレオン4を降ろせ』
クワタンに念話を送ると、上手い具合に人目に付かない場所へとカメレオン4を降ろすことに成功した。
『魔物だ!』
クワタンがカメレオン4を置いて飛び立った時、兵に目撃されてしまった。
カメレオン4との接触が絶たれたために姿が見えてしまったからだ。
クワタンに対して弓が射かけられる。
だが、クワタンは怪我を追うこともなく脱出に成功した。
「なるほど、隠密侵入といっても帰りは丸見えか」
これは後の教訓としたい。
また同じ作戦を行なうには、クワタンたちにカメレオンと同じ隠蔽スキルを持ってもらわないとならないだろう。
その騒ぎに乗じてカメレオン4が移動を開始する。
といっても、勝手に人の肩に乗ってなのだが。
カメレオンは移動能力に難があるのだ。
『今日は肩こりが酷いな。
昨日の剣術訓練のせいだな』
カメレオン4が乗っている兵士は、急に重くなった肩に違和感を覚えたようだ。
そして、その兵士から次の兵士へと砦の中央へと向かう兵士の肩をカメレオン4は移動して行った。
「いたぞ。あの4人が勇者だ」
そこには4人の鎧姿があった。
短髪で野球のバットのような金属製の棍棒を持っているのが金属バットだろう。
青Tから聞いていたが、リーゼントも刈られて短髪になっており、見た目から好青年といった感じに変身している。
メガネをかけているのがサンボーか。
知の勇者だな。
何か指示を飛ばしているようだ。
やはり彼が司令塔なのだろう。
王国の意に沿った行動をしているのだろうと推測される。
あ、あれはパシリではないか。
マドンナレイプ未遂事件で顔をよく覚えていたやつだ。
パシリが疾風の勇者か?
なるほど、パシリだから足の速さに特化したか。
それで疾風という字名が付いたか。
となると最後が爆裂の女勇者。
ああ、見た目が似てるんでアマコーと呼ばれていた女ヤンキーだ。
洗脳されて髪型は変っているが、顔が女芸人に似てるので判ったよ。
あんまり俺はヤンキーチームの顔を覚えていないんだけど、この4人は判別できた。
いや、青Tから聞いていなかったら金属バットは判らなかったかもしれない。
それほど金属バットは姿が変わっている。
こういった時に、顔を知らない相手を判別したくても、他の同級生に視覚共有映像を見てもらえないのが困ったところだ。
俺が見ている映像を見せて判別させられないんだよな。
もし俺があまり覚えていないヤンキーで、洗脳と肉体改造で別人化していたら、全く判別がつかない自信がある。
『よし、カメレオン4、金属バットに取り付け』
俺はカメレオン4にそう命じた。
いや、命じてしまった。それが失策だとも気付かずに。
カメレオン4がタイミングを計って金属バットに飛び移ろうとした。
その時。
『フン!』
金属バットの棍棒が一閃した。
『どうしたのです? ジャスティン卿? って!』
カメレオン4の隠蔽スキルが解けて実体が現れる。
『魔物だ』
そう言う金属バットの声を最後にカメレオン4との眷属化が解けた。
どのような方法かは判らないがカメレオン4が発見され、金属バットに倒されてしまったのだ。
貴重な情報を齎し、カメレオン4は死んでしまった。
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