第288話 訪問1
「オールドリッチ伯爵が会いに来るだと?」
カドハチからオールドリッチ伯爵訪問の連絡を受けたのは、【たまごショップ】で課金三昧をしたせいで、結衣と麗から課金禁止令が出てから10日ほど経ったころだった。
その連絡にはカドハチ自身が温泉拠点までやって来ていた。
「何をしに?」
「どうやら隣国との国境地帯がキナ臭くなって来たようです。
その関連での訪問かと」
俺たちが隣国と接触して米を輸入しようとしていることはカドハチも知らないはずだ。
隣国の
いや、バーリスモンド侯爵と揉めたから、敵に回らないかと気が気じゃないのか。
だが、俺たちが巻き込まれることになるならば、どちらかというと隣国に付くかもしれないな。
「ここは両国が戦争になっても中立のつもりだが」
今現在この温泉拠点はカドハチ便からの物資で生活しているようなものだ。
戦争になったら物流にまで影響が出る可能性がある。
いくら仮想敵国は王国だと言っても、今は隣国の味方をするわけにはいかない。
まだ、自給自足には至っていないのだ。
戦争になれば隣国からの米の輸入も途絶えかねない。
タンパク源は【たまご召喚】で出せる食用の魚で賄えるが、主食の小麦と米や調味料が止まるかもしれない。
味噌醤油の原材料や塩もカドハチ便で王国から輸入しているのだ。
いまは王国と敵対してそれを止められるわけにはいかない。
「それが良いでしょう。
我が商会はどのようなことになっても物資を供給し続ける所存ですが」
王国に逆らってそのようなことをしたら、国で商売も出来なくなるだろうに。
その気持ちだけでも受け取っておこう。
「すまないな。その気持ちだけで充分だ」
それにしても、赤Tが国境で亡命騒ぎを起こしたのが、そもそもの戦争の発端だよな。
既に
あの
あれ? 俺のせいか?
まずいな。これで隣国が攻め滅ぼされても困る。
もちろんノブちんたちの去就も心配だが、お米ルートが途切れてしまうのが痛い。
まだ田んぼは整備しきれていないのだ。
自給出来るまでには時間がかかる。
これは密かに隣国を援護するべきだろうな。
そして出来れば洗脳されている同級生を王国から開放してやりたい。
問題はヤンキーを正気に戻すと面倒な事なんだよな。
「ちなみに誰か有名な貴族や騎士が派遣されてくるのか?」
俺は勇者の存在を惚けてカドハチに訊ねた。
まあ、バーリスモンド侯爵のようなアホ貴族に来られても困るという事もあるが。
「まず知の勇者と疾風の勇者が既に国境まで来ているそうです。
加えて棍の勇者と爆裂の女勇者が向かっているようですな」
知の勇者というのは、ヤンキー唯一の知性派のサンボーのことだろう。
疾風の勇者というのは判らないな。
棍の勇者は
爆裂の女勇者というのも判らないが、女子なのは確定だろう。
「全部で勇者4人か。
貴族は来ていないのか?」
「オールドリッチ伯爵が担当されることになるかと」
それも困るな。オールドリッチ伯爵は王国では良識派だと思うんだよな。
出来れば戦いたくない。
隣国はノブちんと栄ちゃんを農業国に派遣している。
となると残りは赤T含めて勇者は5人になる。
金属バット以外の勇者もサンボーを除けば戦闘系のようだ。
部下の騎士の練度もあるだろうが、互角の戦いかもしれないな。
だが、それは同級生に死者が出ないというわけではない。
勇者同士が直接戦うとなると、何人かは……。
俺が介入することで、犠牲者を少なくするしかないな。
いや、サンボーに此処が見つかると何をされるかわからないか。
あいつはヤンキーの中で唯一考えが読めないのだ。
どうやら勇者の阻止と懐柔を裏でやらないといけなそうだ。
「勇者の戦争への関わり方なども含めて伯爵と話しておこうか。
伯爵に勇者の行動を制御してもらって、ここに危害が及ばないようにしてもらわないとな」
「その方がよろしいでしょう。
伯爵様もそのような話を期待していることでしょう」
「カドハチにはそれまでの間に屋敷へ食料を運び込んで欲しい。
主に穀物と調味料だ。巻き添えで干上がるわけにはいかない」
「畏まりました」
まさか俺が裏で介入するつもりだとはカドハチも思ってもいないだろう。
騙すつもりは無いが、同級生同士の殺し合いは出来れば避けて欲しい所だ。
その手伝いは陰ながらしようと思う。
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