第281話 エロイお姉さんは好きですか?

「裁縫ちゃんを呼んで! 直ぐに服を着せないと!」


 結衣が狼狽えている。

俺が成す術もなく、バスローブ1枚のお姉さんにパフパフされているのだから、そりゃそうだ。

このままじゃいけない、そう思っているうちに俺の目の前の景色が肌色から赤色を経由して空色になった。


 気付くと俺はお姉さんにマウントを取られていた。

上下関係のマウントではない。物理的な格闘技のマウントだ。

肌色は胸の谷間、赤色はお姉さんの髪、そして空色は大空だ。

お姉さんはいつの間にか横たえた俺の腹の上に乗っていた。

この手管、さちぽよに襲われた時の恐怖が蘇る。

どう見ても俺はいまお姉さんに喰われようとしていた。

そういや、このお姉さんサキュバスだったわ。


 いかん、絞り取られる。


「だ、誰か……いいえ、まずいよー」


 結衣も応援を呼ぼうとしたようだが、この姿を他の女子には見せられないと躊躇したようだ。


「た、待機命令!」


 俺がそう命じると、お姉さんは直ちに立ち上がり、直立不動の姿勢を取った。

眷属なので、俺の命令に絶対服従なのだ。

声に強制の意志を乗せないとだめだが、今回は強権を発動させてもらった。


「危ない所だった」


 思わずかいてもいない汗を拭う。

俺の実感では大量の冷や汗をかいた気がしていたのだが。


「ほんとだよー」


 結衣もお姉さんの危ない行動に焦ったようだ。


「えーと、名前は……」


 俺はサキュバスに名前を付けようとして戸惑った。

良い名前が浮かばない。

コンコンは結衣がなし崩し的に付けたから良かったが、年上の、ましてや女性の名前となるとなかなか困る。


「不二子ちゃん」


「ん?」


「このお色気、どう見てもあのキャラだと思う」


 あれか、世界的大泥棒を手玉に取るあのスタイル抜群の女性キャラか。

なんかしっくり来た。それで行こう。


「あなたをこれから不二子さんって呼ぶからね。

それとエロイこと禁止!」


「かしこまりました……う、くっ!」


 何やら不二子さんは耐えがたいことに耐えたような様子だった。


「呼ばれたんだけど、何なの?」


 そこに先程結衣が呼んだ裁縫女子がやって来た。

彼女には不二子さんの服を用意してもらわなければならない。

この屋敷には、不二子さんのような高身長のスタイル抜群な女性が着るような服はない。

同級生女子、メイドさん、調理場の女性、戦闘奴隷の女性にもこのようなタイプは居なかったのだ。

カドハチ便もうちに合わせた服しか持って来ないし、女子たちは裁縫女子の裁縫チームが作った服や下着を主に着ているのだ。


「この女性の服を作ってやって欲しい」


 俺がそう伝えると、裁縫女子が不二子さんの身体を上から下に舐め回すように観察した。

いや、これはエロイ行為ではなく、不二子さんを採寸したのだ。


「任せて!」


 裁縫女子はサムズアップで答えてくれた。

後は任せて良いだろう。


「彼女に付いて行って、服を支給してもらって」


「かしこまりました」


 なんだか不二子さんの反応がやたら固いぞ。

ああ、そうか。


「待機命令解除。

俺や皆を襲わないように。

それ以外は自由にして」


「夜は襲わせてください!」


「それは……「ちょっと待って」」


 俺が拒否しようとしたところ、結衣が割って入った。


「不二子ちゃん、サキュバスの食事は何?

普通に料理を食べられるの?」


 ああ、そうか。

サキュバスが生きるための食事があっち系だと困るってことだな。


「食物からも栄養は取れますが、精気も必要です」


 不二子さんの回答に結衣の目がキラリと光る。


「うーん、仕方ないなー。(棒)

大樹ヒロキくんの精気を吸わせるしかないかー(棒)」


 なんで棒読み?


「(これは大樹くんの精力を弱めるのに使える!)」


 なにやら結衣が小声で言っているが、それがサキュバスの食事ならば仕方ないのか。

こうして俺の寝室に第4の女性が入ることになった。

いや、嫁じゃないからね。嫁は結衣と麗の2人だけなんだからね。

それにコンコンと不二子さんとは最後までは行かない約束なんだからね!


 ◇


 その夜。

寝室に黒のエナメルビキニを着た不二子さんが現れた。

どうやらそれが裁縫女子が与えた彼女の正装のようだ。

その姿はまさにSMの女王様のようだった。


「しまった、逆効果だった!」


 夜空に結衣と麗の悲鳴が上がった。

不二子さんの技はコンコンを凌駕していた。

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