第279話 眷属チームを編成する4

 2時間後。

魚の養殖場の前に卵たちは運ばれていた。

違う場所で孵ってしまうと、眷属にするタイミングを逸してしまう可能性があったからだ。

そのため魚の卵に引き摺られて、全ての卵が養殖場前に集められることとなったのだ。


 魚の卵は食用と想定しているが、変にハズレて攻撃力の高い魚が孵ってしまうと、それはそれで面倒なことになってしまう。

温泉拠点の中に制御不能な魔物が出現することになるのだ。

その時は、直ぐにでも眷属化しないとならない。

さすがに眷属化したら食用には出来ないが、それは仕方がないだろう。


「すまないね。食事もここで食べられるようにしてくれて」


「たまにはおにぎりやサンドイッチも美味しかったでしょ?」


「ああ、凄く美味しかった」


 結衣が気を使って朝食をこの場で食べられるメニューにしてくれた。

【たまごショップ】の卵は、孵るまでに2時間という話ではあったが、卵ごとにズレがあった。

速かったり遅かったり、そこらへんは意図的なのだと思う。


 同時に複数の卵が孵ってしまうと、その魔物を吟味する暇もなく眷属にしなければならない。

魔物が暴れる前に対処しないとならないからだ。

そこで孵る時間をズラすことでその暇を与えてくれているのだと思う。

そのため孵るまでその場で観察することになったのだ。

想定外に早いと困るからね。


「お、まずは虫の卵か」


 説明では『運搬能力が高いかもしれない』だったが、どんな魔物だろうか。


パリパリパリン


「あー、そっちか!」


 卵から孵ったのは、巨大なオケラだった。

飛べるらしいけど、そっちの能力よりも地中の移動能力の方が高い虫だ。

確かに地中の運搬能力はかなり高いかもしれない。

勝手に空の運搬能力だと思い込んでいたよ。

俺が想定していたカブトンたちのような空の運搬能力は、その脚の構造からして微妙だろう。

そう、その前脚は地中を掘り進めるための専用掘削器官

「採用!」


 想定外の能力だったけど、ある意味貴重な戦力を得た。

攻城戦で地下から攻撃なんてことが可能になるだろう。


「変った虫だね」


「ああ、主に地中で活躍するタイプだ。

今までにいないタイプだから採用することにした」


「へー」


 うーん、オケラの格好良さは女子には判らないか。


パキパキ


「次は鳥の卵か」


 航空攻撃ってどういった鳥なんだろうか?

レベルアップ券も使っているから期待したい。


「……なにこれ?」


 鳥を想定していたのに、そこには翼竜がいた。

完全に間違っている。

恐竜が鳥の祖先だという説が定説となりつつあるが、それはこの翼竜のことではない。

羽毛恐竜が鳥となったという説であり、この蝙蝠のような被膜で滑空する翼竜は鳥とは関係がない。

しかも前脚は翼であり、後脚も身体に比べて貧弱で、何かを掴んで運ぶにはあまり適していそうもない。

おそらく、その飛行能力ではあまり重い物を持って飛ぶことが出来ないだろう。


「航空攻撃って爆弾とかを運べると思っていたけど、これは何だろうね?」


「さあ?」


 しかし、これを野放しにするのは危険すぎる。

その歯の生えた大きな嘴は、人を丸飲みするぐらいは簡単に出来そうだ。

つまり、そういった航空攻撃なのかもしれない。


「眷属にせざるを得ないか」


 安全を考えて眷属化することになった。

しかしハズレ感が酷い。

まさかと思うが、レベルアップ券を使うと残念な感じになる?

いや、コンコンにも隠された才能があった。

こいつにもそれに期待しよう。


「あー、魚の卵が孵るよ」


 魚の卵は半透明だったので、中で魚が動いているのが丸見えだった。

それがハッチアウトしようとしている。

その魚が稚魚ではなく成魚で生まれて来るのは、もうお約束だろう。

自然の法則など完全に無視するのが【たまご召喚】なのだ。


 薄膜を破いて、ぬるりと魚がハッチアウトした。

50cmの卵から出て来たのに、直ぐに2mほどになる。

これは……。


「巨大なノドグロかな?」


「確かに美味しいって言うよね」


「大きいだけで攻撃力はなさそうだね」


「食べる?」


「だな」


 こいつは眷属化せずに食材となることが決定した。

たぶんその用途で【たまごショップ】にラインナップされたのだと思われる。

正しい用途で活用するのが正解だろう。


「お、こいつ眷属卵で召喚できるぞ」


「とりあえず刺身焼き煮つけで3匹いるかな?」


 結衣がノドグロの追加を要求した。

2mあるんだから切り身で行けないだろうか?

やはり塩焼きや煮つけは丸ごとの方が見栄えが良いのかな?

うちの食卓に貴重なタンパク源が増えたぞ。


 これは販売も想定できそうだな。

時間停止機能のあるアイテムボックス持ちが居れば、魚も新鮮なまま運べるからね。

カドハチの所だってそんな従業員は抱えているだろう。

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