第273話 眷属チームを編成する2
【たまごショップ】への課金は、【アイテムボックス】の中にあったお金で自動的に行なわれた。
これは収納された金板や金貨がそのまま消えていることになるのだが、地球で言えば有限の資源が消滅することとなり、一見問題になる行為に思えるかもしれない。
しかし、この世界では金という金属そのものが、鉱山で掘りだされているもの以外に魔物からも齎される素材だった。
ゴールドゴーレムの構成材自体や、魔物を倒した時に稀に手に入るドロップ品の中に金塊や金貨などの貨幣が含まれているのだ。
これは何処から齎されたものだろう?
魔物自体が湧き点と呼ばれる魔素の多い場所からポップするものであり、無から有が生まれているのだ。
つまり、金などの貴金属であってもそれは同じなのだ。
たまご召喚もそうだ。
MPこそ減るが、何もない状態から卵が得られ、それが孵れば魔物が発生する。
その魔物を開放し、もし倒したとすると、そこから素材を得ることが出来る。
それが希少金属だった場合、それは何処から出て来たのだろう?
それこそ、システムに消えた金板や金貨が、システムにより戻って来ただけなのではないか?
そう考えれば、この世界からお金が消えたとは言えないのではないかと思うのだ。
この世界、【アイテムボックス】のスキル持ちはそれなりの数が存在する。
彼らは盗難を避けるためにお金を【アイテムボックス】に収納する。
では、そこままその人が亡くなったら、収納したお金はどこに行くのか?
それこそシステムの中に消え、魔物になって戻って来ているのではないのか?
そこに循環がある限り、【たまごショップ】に消えた金貨もいつか魔物と共に戻って来ていれば問題とはならないのだ。
尤も、俺たちが売り出したシャインシルクが、王国の経済に影響を与え始めていたので本末転倒なのだが。
カドハチに預けてキャッシュレス決済をしている分を除き、お金は俺、結衣、麗のアイテムボックスに分散して入っている。
屋敷にもかなりの金額が溜まり、死蔵され始めていた。
これを使わないことの方が王国の経済的には問題なのだ。
日本の戦国時代、戦の恩賞に困った時の権力者は、茶道具や刀剣に城が買えると言われるまでの付加価値を付けた。
いまやシャインシルクがそのような価値を見い出されていた。
なにせ、それだけの金板や金貨が代金として王国から消えているのだ。
使えば無くなるのは道理。そこで大口取引にシャインシルクを使えば良いと、消えたお金の代わりとなったのだ。
つまり、お金が無くても王国の中枢ではなんら変わりはなかった。
これって俺たちもシャインシルクで大口の支払いが出来るのか。
話が逸れたが、【たまごショップ】に課金したお金のことは何も心配することはない。
お金を使った方が魔物からのドロップに廻るのであれば、死蔵しておくよりもどんどん使った方が良さそうだった。
さて、【たまごショップ】で買った2つの卵が孵る時間だ。
ランクアップ券は獣の卵に使ったので、良い獣が生まれることに期待している。
獣の卵は、毛皮張りの卵だった。
猫のキン〇マといえばわかるだろうか?
それが50cmぐらいあると思って欲しい。
それが脈動を始めた。ちょっと気持ち悪い。
そして、毛皮をぶち破って中から人の腕が飛び出して来た。
「よいしょっと」
「言葉を喋った! しかもケモミミ! なんで全裸!」
それは全裸の女の子だった。
獣の卵という存在自体が有り得ないものだが、50cmの卵から身長140cmの女の子が出て来たのは理解不能だった。
それもキツネ系魔物で人化が使えると思われる。
黄金の長髪に三角のケモミミと太い尻尾が1本あった。
キツネ系だと尻尾が複数あることもあるが、この子は1本だ。
なんで全裸なのかは、卵から生まれたばかりだから当たり前だった。
想定外の事が起きて、俺は混乱していたのだ。
「はい、それ以上は見ちゃダメだからね?」
「ほら、これを着なさい」
「ほーい」
結衣が俺の視界を遮り、麗がバスローブをキツネ系魔物に羽織らせた。
バスローブは麗が昼風呂にでも行こうとして持っていたのだろうか?
その連携プレイ、さすが嫁。
「眷属登録はしたの?」
「この子を開放したら可愛そうだよ?」
「そ、そうだな」
俺は、嫁の圧に頷くしかなかった。
尤も回復魔法スキル持ちのキツネ系魔物ならば文句はない。
俺はさっさとキツネ系魔物の女の子を眷属として登録した。
そういや、この世界で獣人ってどんな扱いなんだっけ?
そう見えるならば、魔物ではなく獣人として連れまわすのが良いだろう。
後で瞳美ちゃんに訊いておこう。
続けて鬼の卵が孵りそうだ。
鬼の卵はやはり50cmぐらいで、赤色の殻に二本の角が生えていた。
日本の赤鬼のイメージだが、それで良いのか異世界?
こちらは殻に罅が入って普通に孵るようだ。
そこから出て来たのは……。
「なんだこれ?」
それは黒いゴブリンだった。
身長は150cmぐらいだろうか?
ゴブリンとしては大きいが、ゴブリンロードとかゴブリンジェネラルとかよりかは遥かに小さい。
「これはハズレか?」
そういや、卵の説明に『かもしれない』って書いてあったな。
しまった、課金額が高いから当たりを引くつもりになっていた。
もしかして、完全なガチャでハズレがあるのか!
こんな時はステータスを確認すれば良い。
いや、ステータスを確認するには眷属にしないとならなかった!
仕方ない、今は眷属にしてハズレならば枠オーバーの時にでも入れ替えよう。
俺は黒いゴブリンを眷属にしてステータスを確認した。
眷属 キラーゴブリン ▲ 暗殺 指揮 闇魔法 配下召喚
「レア種だったのか!
しかも配下を召喚出来る。
これは当たりだな!」
俺が望んでいた配下を従えるタイプの魔物だった。
しかもレア種。これは良い課金をした。
そういや、キツネ系魔物の方はどうなんだろうか?
言葉も喋れるし、かなりのレアな魔物なのだろう。
特に回復魔法持ちのはずだから期待が持てる。
眷属 キツネ獣人 ▲ 回復魔法Lv.2 人語理解 房中術
「ん? 回復魔法Lv.2って中級回復薬以下の能力だよね?
しかも妖狐が人化したとかじゃなくて、ただの人語の話せる獣人?」
しまった、こっちがハズレだった!
しかも房中術って、どう見てもあっち系の愛玩用じゃないか!
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