第274話 残念な子
キツネ獣人に対して俺はつい残念そうな視線を向けてしまっていた。
回復役とはいえ、そこは魔物、ある程度の戦闘力も持つ個体を期待していたからだ。
人語が話せて人化のスキルも持つ特殊個体、そう思っていたのにその正体がただの獣人では、そんな目になっても仕方がないことだろう。
「ご主人様、見捨てないでコン!」
その視線に敏感に反応したのか、キツネ獣人の女の子がバスローブの前をはだけさせながら縋りついて来た。
わざとか? あざとい。
しかも語尾がおかしい。
「やめろこら、前を隠せ、前を!」
「か弱い私は、こんな場所で見捨てられたら死ぬだけだコン。
一生尽くしますから置いて欲しいだコン」
「あ、こら! 乳を太腿に当てるな!」
キツネ獣人が俺の太腿にすがりつき、挟むように生乳を当てて来る。
わざとバスローブをはだけさせて胸を丸出しにしているのだ。
嫁の前だというのに、何してくれてんだよ!
それにそのコンって、その語尾はなんだ?
「コンコン、とりあえず離れようか」
笑顔だが、結衣の目が怖い。声のトーンも1段下がっている。
いや、俺のせいじゃないよね? 俺に怒ってないよね?
それにコンコンって名前か?
「ちっ」
おい、コンコンさん、今舌打ちしたよね?
吉岡〇穂っぽくて可愛いなと思ってたのに、性格ヤバそうじゃないか?
「
でもお手出しはもっとダメだからね?
コンコンもそんなことしなくても大丈夫だからね?」
どうやら舌打ちは結衣には聞こえていなかったみたいだ。
名前はなし崩し的にコンコンに決定したようだ。
結衣はコンコンが生き残りに必死で、あのような行為に至ったと思ったらしい。
俺の表情から結衣は、コンコンのステータスがハズレだと察したのだ。
無理してそんなことをしなくても良いとの慈悲の心で「お手出しはもっとダメ」と言ったのだろう。
しかし、そう言われたコンコンは、絶望的な表情になっている。
まさか、そんなにしたいというのか?
房中術持ちだから、それがアイデンティティなのかもしれない。
「つまり、ただ飯で良いってこと?」
結衣の言葉を咀嚼し、自分に都合の良い結果となると察したのか、急にコンコンが復活した。
見捨てられず、身体も差し出さなくても良い=ただ飯と理解したのだ。
しかも、コンを忘れているぞ、コンを!
身体もさっと引きやがった。
アイデンティティじゃなかったのか!
現金なものである。
「コンコンには、眷属チームの一員として最前線で戦ってもらうつもりだ」
「はぁ? ただのキツネ獣人が戦えるわけないでしょ?」
立場が安定したと思ったのか、媚びが一切無くなった。
ちょっと調子に乗っている気がするぞ。
「コンはどうした! コンは!」
こいつ、ぜんぜん可愛い存在じゃないぞ。
お約束のコンももう忘れやがった。
「別にもう媚び売らなくても良いんだからいいじゃん」
確かにコンを付けて欲しいわけじゃない。
わざと付けてもらっても不自然すぎて困るからな。
だが、その掌返しは可愛くないぞ。
「え? ただのキツネ獣人なの?」
結衣が困惑の声を上げる。
そういえば、コンコンがどのようにハズレなのかはまだ伝えていなかったな。
「そうだ。妖狐でもなんでもない。ただのキツネ獣人だったんだ」
「
「回復魔法Lv.2に人語理解と房中術」
「それだけ?」
「それだけ」
結衣もそのハズレ具合に押し黙ってしまった。
空気が変わったことに気付きコンコンも尻尾を丸めている。
調子に乗ったことを後悔しているようだ。
そこらへん、おバカなのかもしれない。
「戦闘も出来ない愛玩用のキツネ獣人に
「結果的にはそうだな」
「性奴隷でもそんなにしないよね?」
結衣さん直球すぎる。
いや性奴隷の相場は知らないけど、命を張る戦闘奴隷の値段を考えると、たぶんそこまではしないはず。
「たぶん」
「奥方様、撫でて撫でて」
コンコンがまた猫なで声で媚びを売り始めた。
最初から調子に乗らなければ良いのに。
「戦闘に連れ出すのは無理ね。
ペット枠で採用しましょう」
結衣により、コンコンはペット枠と決定した。
いいのかそれで?
「ただし、また調子に乗ったら戦闘奴隷たちに
結衣がコンコンに釘を刺した。
戦闘奴隷に与えるって、性処理係ってことか?
脅しとはいえ、怖い事を……。
「わかったコン。もう調子に乗らないだコン」
まあ結衣が本気じゃないことを俺は理解している。
だが、コンコンにとってそれは恐怖以外の何ものでもないようだ。
回復役のつもりだったが、また他をあたらなければならないか。
期待のキツネ魔物と思われたコンコンは残念な子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。