第265話 救出

 ロンゲにとってヘラクレスオオカブトは強敵だったようだ。

MPを温存したいのだろう、ロンゲは剣でヘラクレスオオカブトと戦っていた。

ヘラクレスオオカブトは、初撃の雷魔法によって麻痺スタン状態となっており、成す術もなく剣を受けていた。

しかし、その強靭な甲殻の防御力によってなんとか持ちこたえていた。

ヘラクレスオオカブトの美しかった甲殻は、見るも無残な傷が出来てしまっている。

脚も何本かなくなって、痛々しい姿になっている。

それでも青Tを守るために、その身を犠牲にしていた。


 一方、ロンゲは既に瀕死の青Tを放っておいてヘラクレスオオカブトに執着していた。

それは一種の異常性を持った行動だった。


「よくも私に血を流させてくれましたね?

死になさい! 死になさい! 死になさい!」


 変なプライドでもあるのだろうか?

ヘラクレスオオカブトにやられたことを根に持っているようだ。

おかげで青Tが守られたのは不幸中の幸いか。

よくがんばった。ヘラクレスオオカブト。


 さて、ロンゲに気付かれずに背後を取ったが、このまま剣で止めを刺すとなると躊躇いがあった。

接触もなく、同級生といってもほぼ他人のロンゲだが、俺が直接殺すというのはどうなのだろう?

俺は、明らかに俺を殺そうとして来た赤Tも、モドキンに殺されそうになってしまったら慌てて助けに行ってしまった。

現地人のユルゲンやジャスパー、侯爵なんかは、結衣たちを守るという大義からか殺すことに躊躇いはなかった。

だが、同じ日本人で同級生となると、迷惑だったヤンキーといえども殺すことには躊躇いがあった。


「そろそろですかね?」


 ロンゲがヘラクレスオオカブトに止めを刺す確信を持ったようだ。

躊躇っている時間などもう無かったのだ。


「(眷属召喚クモクモ、部分纏)」


 俺は右腕にクモクモを纏った。

これでカメレオン3の光学迷彩とクモクモの糸攻撃が同時に使えるようになったのだ。


「【糸生成】、投網!」


「うわ、なんですか!」


 ロンゲの全身に蜘蛛糸が投網となって降り注いだ。

ロンゲは粘着糸に絡まれて動きが取れなくなった。

だが、安心は出来ない。雷化で脱げ出す可能性がある。

そして、俺もいつまでも纏を使い続けるわけにはいかない。


「カメレオン3、纏解除!」


 俺はロンゲの前に姿を現した。

とりあえずクモクモを右腕に纏ったままだ。


「誰ですか! まさかその姿、魔王の幹部!?」


 俺の右腕の異様さを見て、ロンゲは俺を魔王に連なる幹部なのかと思ったようだ。

もしもカメレオン男で出て行ったら、間違いなく幹部だと確信されていたことだろう。

一応、職業の端っこに魔王あるんだけどね。

勇者が無くて魔王があるのは問題だと思う。

まあ、言っても仕方がないんだけどね。


 とにかくロンゲの行動を疎外しないことには雷化が怖い。

あれを使われればクモクモの糸でもすり抜けてしまうと思われた。


「【毒液】麻痺毒!」


 クモクモのスキルは部分纏でなんとなくわかったので毒液を使うことにした。

【毒液】スキルには使える毒に種類があった。

ここは致死毒ではなく麻痺毒を使うことにしよう。


「くっ!」


 成功だ。ロンゲは全身を麻痺させたようだ。

これで時間が稼げる。早く皆を助けないと。


 まずは立派に青Tを守ったヘラクレスオオカブトに上級回復薬を使う。

カブトンにも使ったことがあり、虫系魔物には回復効果があることを確認済みだ。

これである程度の傷は治った。

しかし、脚が2本欠損してしまっている。

これは後でマドンナに祈ってもらうしかないだろう。

欠損修復の出来る最上級の回復薬エリクサーは、存在は知っていたが手持ちが無かったのだ。


 次に青Tを助ける。

青Tはロンゲの雷化による感電で全身に電気熱傷を追っていた。

HP自動回復のスキルが無ければ死んでいたところだろう。

この世界、HPという概念があるおかげで、HPが0にならなければ、どんな酷い大けがでも死なない。

ただ、継続ダメージとなりHPが下がり続けるのだ。

しかし、そのHPが自動回復するスキルを持っていて、その回復スピードが降下スピードを上回っていると死なないのだ。

なのでロンゲは剣でその残りHPを削ろうとしていたのだ。


 青Tにも上級回復薬を使う。

これにより電気熱傷が治り、青TはHP自動回復によりこの後時間が経てばHPがMAXまで戻ることだろう。

これで青Tは助かった。


『カメレオン1、どこだ?』


 次は赤Tだ。そう思ってカメレオン1に念話を送る。

するとカメレオン1の光学迷彩が解け、横たわる赤Tが見えた。

よし、赤にもTにも上級回復薬を……。


バチバチバチ


「ぐっ!」


 俺は赤Tを回復することが出来なかった。

突然背後から電撃を食らったのだ。


「バカめ。私は毒耐性スキルを持っているのですよ」


 そこには雷化を使ったロンゲがいた。

ロンゲは毒耐性スキルを持っていたので麻痺毒が効いていなかったのだ。

時間を稼げたのは俺の方だけではなかった。

ロンゲの麻痺は時間を稼ぐための演技だったのだ。大失態だった。

ロンゲは雷纏が使えるまで麻痺したふりをして時間を稼いでいたのだった。

形勢は逆転していた。俺にはHP自動回復は無いのだ。

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