第266話 決意

 雷化は実体が無くなり物理攻撃を受けなくなる利点の代わりに、物理攻撃が出来なくなる欠点があった。

ロンゲが身に纏う鎧が実体が無くなり攻撃を受け付けないのと同時に、手にしている剣も実体が無くなるためにその攻撃力を失っていた。

おかげで後ろがらザックリなんてやられなくて良かった。

そうされたならば俺はロンゲの攻撃により即死も有り得たのだ。


 まあ、雷化でクモクモの糸から抜け、実体に戻ってから攻撃するなどという知恵を回されていたら危なかった。

そこはプライドの塊であるロンゲの、最強攻撃手段を以って俺を倒したいという欲求が安全策よりまさった不幸中の幸いだったのだろう。

しかし、雷による電気熱傷は、俺のHPを着実に低下させていた。

これだけでも俺は瀕死だった。

次に攻撃を受けたら危険だ。


「貴方が侯爵軍を倒した魔の森の貴族ですね?

魔王の手先だったとは、これは王国に報告をしなければなりませんね。

尤も、それは私が討伐したとの報告ですがね」


 ロンゲは俺が瀕死だと見たのか、余裕こいて訊ねて来た。

まあ、俺もロンゲが麻痺したと思い込んでこのザマなんだが。

だが、この隙、有難く利用させてもらおう。


「眷属纏、飛竜!」


 その隙に俺は飛竜を纏い、空へと退避した。

飛竜を選んだのは眷属召喚の時間を省くためだ。

その時間でロンゲに気付かれたら折角の隙が台無しだからだ。


「あ、こら!」


 ロンゲが俺に逃げられて間抜けな声を出す。


 そして俺はアイテムボックスから上級回復薬を出して飲んだ。

これで電気熱傷が治り、HPの低下は防げた。

ある程度HPを回復することも出来た。


ドーーーーーーン


 その俺にロンゲの放った雷魔法が直撃した。

しかし、飛竜を纏った俺は、そのダメージを一切受けなかった。

飛竜は空を飛ぶ魔物のため、飛んでいれば帯電している雲に突入することもあった。

そこでいちいち感電していたら、空を自由に飛べないため、雷耐性があったのだ。

これは咄嗟に飛竜を纏った結果、知ることの出来たことであり、偶然の産物だった。

そして、俺のレベルがロンゲを上回っていたために耐えることが出来たのだ。


「よし、これで反撃が可能だぞ」


 俺は空から土魔法を使い、ロンゲの足元から土の壁をせり出して行った。

俺は火水風土氷雷、全ての魔法が使える。

それを駆使すればロンゲに対抗できるはずだ。


「そんなものに捕まる私ではありませんよ?」


 ロンゲのスピードは雷の速度だ。

土壁がせり上がってくるまでに容易たやすく回避してしまう。

俺は土壁を作りつつ、眷属に念話で指示を出した。


『カメレオン1、赤Tを土の壁の後に退避させろ。

ヘラクレスも、青Tを空に退避だ』


 俺は念話でカメレオン1とヘラクレスオオカブトにそう指示を出した。

土の壁はロンゲを捕らえるためではなく、2人を退避させる隙を作るためだったのだ。

ロンゲが俺のことにしか頭が回っていなかったからこそ出来たことだった。


「よし、行くぞ。【ウォーターフォール】!」


 俺は空から水魔法で雨を降らせた。

電気は水に流れ易い。雷化したロンゲを水と共に流してしまう作戦だった。

ロンゲの身体が漏電したが如く、水に流れるのを期待したのだ。

まさかロンゲも、いつのまにか地面に傾斜がついているとは思っていないだろう。


「ぐわー、なんですかこれは!」


 ロンゲは放電しつつ水に流されると、その本体は俺が掘っておいた穴へと落ちて行った。

その穴は深さ10mほどあり、身体強化を以ってしてもジャンプで抜けられるような深さではなかった。

ロンゲはその穴の中に水と共に落ち、放電してついに雷化が解けた。

最早ロンゲは、ただのフルプレートを着込んだ騎士に過ぎなかった。

そのフルプレートの重さが水の底へとロンゲを誘う。


 ロンゲをこのまま助けたら、時間経過とともにMPが復活して、また逃げられることだろう。

雷纏で高速移動されただけで逃げられてしまうはずだ。

手足を切り落としたとしても、雷の力で移動する。

そのまま王国に戻れば欠損もエリクサーで回復することだろう。

水に沈んだロンゲは、このまま放置しても死ぬだろうが、先程の油断を教訓にしなければならない。

必ず止めを刺すべきであり、その機会は今しかない。


 ロンゲを見逃せば、俺の事を魔王の手先か幹部だと王国に報告するだろう。

その報告により温泉拠点が、結衣が、仲間が危険に晒されてしまう。

王国が本腰を入れて大軍で攻めて来たならば、俺たちには太刀打ち出来ない。

ならば報告をさせないことが最大の防御となるはずだ。


「悪いなロンゲ、死んでくれ。

【エクスプロージョン】!」


 俺は最大火力の火魔法をロンゲが落ちた穴に放り込んだ。


ドーーーーーーーーーーン!!


 穴の中で大爆発が起こり、魔法爆発の火柱が上がった。

その爆発はエクスプロージョンを上回っていた。

水が一瞬で沸騰し水蒸気爆発が起きたのだ。

穴の中は灼熱地獄だろう。酸素も消費され人が生きられる環境ではないはずだ。


 俺は結衣たちを守るために同級生を手にかけたのだ。

後悔はしない。殺らなければ殺られていた。

そんな戦いだったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る